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◇1日目の浴室◇

(2020/03/15 本日の更新はここまでです!)

「相変わらず火傷ひどいな」


 ユリエルが私の体の火傷を触る。


「治癒魔法だけではどうにもならなかったそうです」

「治療されただけでもマシだろう。なかったら――今頃と言わず、私と会う前に死んでいた」

「ですね」


 ナズチの治癒魔法があったからこその物種。

 感謝しかない。


「身体洗うよ」

「お願いします」


 柔らかい繊維のタオルに石鹸を擦りつける。

 ボディーソープは使わないで、石鹸で泡を立てるんだな。


「このくらいの強さでどうだ?」

「……あ、気持ちいいです」

「よし」


 ユリエルからお風呂に入ろうと言ってきたものだから、『何か変な事をされるのでは……』と考えていたがそうでもなかった。

 着替えの時もそうだったが、私の体を気遣ってくれているようだ。

 あまり口を開かなければ良い人なんだけどなぁ。


「なぁ、ユーノちゃん」

「はい?」

「……いや、何でもない」

「そうですか」


 何でもないって言われるのは割とムカムカする。

 言うならさっさと言ってくれ、言う勇気がないなら言うなと。


「――ユーノちゃんは、この世界が好きかい?」

「え?」

「いや、少し気になってね」

「勿論好きですけど……それが?」

「そう」


 素っ気ない返事をされた。


「何なんで――ひゃっ!?」

「あれ、変なとこ触っちゃった?」

「い、いえいえ」


 いきなりお腹を触られたものだから、らしくもない声を出してしまった。

 擽ったかった。


「もしもの話をするんだが、ユーノちゃんが目覚めた時、いつの間にか病院にいたらどうする?」

「もしもの話?」

「……私の質問にだけ答えてくれ、頼む」


 泡まみれの私の体。

 ユリエルがその泡を洗い流す。


「まず何があったのか、近くの人に訊きますけど……」

「そりゃ当然か」


 むしろそれ以外の答えが思いつかない。


「では、質問を変えよう。これが全て〝夢〟だとしたら、君は何を思う」

「はい?」

「この世界こそ全てが幻想であるとしたら――ということだ」

「ここが幻想って……何を言っているんですか?」

「もしもの話だ」


 もしもの話……なんだよな。

 私は死んだはずだ。

 連載中の漫画の清書をしている途中で、頭がクラっとして唐突に倒れた。

 そして、赤ん坊となってこの世界で生まれたのだ。

 過程はよく分からなかったけれど、死んだということは理解した。


「……たぶん、後悔すると思います」

「後悔?」

「『何であの時――』とか、『ああしていれば――』とか……」

「ふむなるほど。よし、中に入ろうか」


 ユリエルが私の体を抱える。

 質問の意図がよく掴めない。

 私にどんな解答を求めているのか。


 そして私たちは浴槽に入った。

 依然、ユリエルは私を抱えたままだ。


「あの、さっきの質問って――」

「なぁユーノちゃん。君は転生を知っているだろう」

「へ?」


 ユリエルの口から『転生』なんて非科学的な言葉が出るとは思わなんだ。


「生まれ変わること――それは、誰もが1度は夢を見るものだ」

「……」

「ある人は学校で苛めを受け、自分がその人らよりも強くあれば――そう願って。またある人は、自分の能力が劣っているのではないかと嘆き、世界の認識を変えたいと願って……」


 壮大な話なのかどうかが分からない。


「本当に何を言っているんです……?」

「ユーノちゃん。君は死後の世界を信じるかい」

「え……? まぁ、はい」


 私自身、死後の世界にいるようなものだ。

転生とはいえ、死んだ後に訪れた世界だということに偽りはない。

信じざるを得ない。


「そうか。やはり、君にこの世界は似合わない。誰かが思わなくとも、私はそう思うよ」

「……似合わないもなにも、私はこの世界に生まれたんですけど」

「――いいや、ユーノ。君はこの世界にいてはいけない存在だ」


 私の存在を否定されている。

 一体何なんだ、このエルフは。


「……いい加減、怒りますよ」

「ああ、いくらでも怒ってもいいよ。――()()ちゃん」

「――へっ?」


 な、なんで私の名前を――


「私は君を心配しているんだ」

「い、いや。それより何で私の名前を……?」

「――質問だ。君は全ての記憶を明確に覚えているかい」


 軽く無視された。


「も、勿論ですけど……」

「本当に? 一緒に冒険者になった子たちの名前、この町に以前来た理由、母親父親の名前、親族……。そのほかの、今まで出会った人たちのことも……」


 ……そういえば、私と一緒に卒業した子の名前、全然覚えてないな。

 前にこの町に来たことがあるという記憶はあるのに、何故来たかは覚えていない。

 母親の名前も、父親の名前も……。

 あれ、私に親族なんていたっけ。


「君は知らないだろう。この世界は、ただの線で繋がれただけのぼんやりとした夢なんだ。()()()()の記憶なんてあっという間なんだよ」


 17時間……?

 私、17年間生きてきたんだけどな……。


「早く目を覚ましなさい。君はここにいるべきではない」

「記憶とか、17時間とか、目を覚ますとか――意味が分からない」

「今は分からなくてもいい。いずれ時がくる。……私はそれまでに君を世界樹の森に連れて行く」

「……は?」

「すまない」


 ユリエルが私の口に手を当てる。

 力が入らない。

 それに眠くもなってきた。


「君はまだ描き続けなければならない。物語を途中で終わらせないでくれ……。頼むよ」


 そのまま、私は気を失った。







「……はっ」


 私は目を開けた。


「お、漸く目が覚めたか。お風呂に入ってからずっと眠っていたんだぞ」

「あれ、そうでした……?」

「うん」


 私、いつの間に眠っていたんだ……。

 なんだか頭がぼんやりとしている。

 ユリエルと何か話したような気をするけど……。

 何も覚えていない。


「そろそろ出ようか。なんだかボンヤリしてきた」

「ですね」


 そんなに長い間お風呂に入ったか。

 でも確かに、ぼんやりとする。

 20分とかそのくらいしか入っていないんじゃないかと思っていたけど……。

 私寝てたからな、そうでもないのか。


「よいしょと」


 ユリエルが私の体を持ち上げて浴室を出た。

次話もよろしくお願いいたします!(外伝は次で最後です)

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