◇鉱山を探検しよう⑤◇
この章ももうすぐ終わりです。
――それから初めに空いた穴を広げていき、やっとのことで人1人が通れるくらいの穴が開いた。
「ふぅ。入口はあんなに脆かったのに、ここは堅かったですね」
ナズチが腰に手を当てて背中を反る。
ナズチのグーパンでも壊れなかったからな。
割と薄い岩壁だったのに。
「まずはわっちが行きます」
ナズミが率先して穴を通り抜ける。
私よりも小さいし、ナズミは何の問題もなく通れそうだ。
「……通り抜けられました。こちらは異常ありませんよ」
「次は私が行くよ。ナズミ、引っ張ってもらえる?」
穴に頭を入れて、徐々に上半身を突っ込む。
そして、ナズミに身体を引っ張ってもらって何とか穴を通過した。
ああ、ナズミも私も服が汚れてる。
後で洗わないと。
「次は私が」
クラリス大丈夫かな。
胸で突っかかりそうな気が。
「あっ」
ほらやっぱり。
「ナズミちゃん、引っ張ってください!」
「はい」
ナズミが、穴に嵌ったクラリスの手をグッと掴んで思い切り引っ張る。
「い、いたたた!」
クラリスが何とか通れたようだ。
「うぅ……。痛かったです」
「大丈夫……? わ、血出てない!?」
「ただの汚れですよ、ユーノさん」
「そ、そっか」
「これでも結構頑丈なんですよ。エッヘン」
得意げな表情で腰に手を当て胸を張るクラリス。
頑丈さだったら私のまな板も負けない。
「ナズチさんは岩を削――え……」
ふと横を見ると、ナズチが半身だけ穴に埋まっていた。
「お、お尻と胸が突っかかっちゃって、前にも後ろにも抜けません……。ど、どどど、どうしましょう」
逆に何故、胸だけ通行許可がおりたんだ。
クラリスがアレならナズチは絶対無理だと考えて、もう少し削ろうと思っていたのに――
「うわぁぁぁん」
ナズチが泣き叫んで手をバタバタさせる。
「ちょ、ちょっと落ち着こう」
これどこかで見たことがあると思ったら、女の子がコンクリートやら木の板にハマってるところじゃん。
現実に起こるんだな、こういうの……。
……関心してる暇はない。
「少しずつ削るしかないかな」
「そうですね。上は削った岩が落っこちちゃいますし、下は――わっ、見えませんね。横では意味がありませんし、どうしましょうか……」
どういう通り方をしたら、上半身だけこっちに出てこれるんだ。
「――あら? 足音が聞こえませんか?」
クラリスが耳を澄ませる。
トン、トンと誰かの足音が聞こえる。
壁の奥からだ。
あれ……止まった?
「――っ! うわああああ、私の足を誰かが触ってますうう!!」
な、なんだって!?
「ちょ、この壁の奥にいる人だれですか!?」
「く、靴が……! あ、あはははは、擽ったい――擽ったいです、ああ擽ったい!」
……コチョコチョされているのか?
「こんなところで何してんの、君たち」
あれ、この声どこかで聞き覚えがあるような気がする。
「その声、ユリエルですか?」
「あ! ナズミちゃんの声だ! やっほー元気? 聞こえる? わたしユリエル」
糸電話でもしてるのか。
いやそんなことより――
「ユリエルさん。見て分かると思うんですけど、どうにかなりません?」
「あ、その声――君はユーノちゃんだね」
「まぁ……。はい」
「とはいえ、初めて見た時から思ってたけど、間近で見ると凄いなナズチ。君モデルできるんじゃない?」
「いいから早く助けてくださああああい!!」
「まぁそう叫ばないでくれ。あと暴れないでくれ給へ」
ユリエルの余裕っぷり、どうやら助ける手段はあるそうだ。
「よし。10秒くらい待ってておくれ。準備運動が必要なんだ」
準備運動……?
シャッターを切るような音が聞こえる。
「よし」
……よし?
「奥にいる3人、下がり給へ」
私たちはユリエルの言う通りに、私たちは1歩2歩と後ろへ下がった。
「はいっ」
突然、壁が崩れた。
それも、ナズチより下の部分のみが。
「う、うぅ、お腹痛いですぅ」
「無茶に通ろうとするからだよ。無理しちゃあいかん。はい、靴」
ナズチが穴を出て立ち上がり、ユリエルから返されたブーツを履く。
ユリエルも続けて、しゃがんみながらこちらにやってきた。
それにしても、こんな堅い壁を一回で壊すなんて……。
「すごいですね……。そういえばユリエルさん、何故この道を? それも迷わずに……。」
クラリスが尋ねる。
「それはこっちの台詞なんだけどなぁ」
「あら、すみません」
「いやいや、いいんだクラリス。私から説明しよう」
壁に寄り掛かるユリエル。
「――仕事を漸く終えたんだが、君たちの帰りが遅いもんで、探すために鉱山に入ったんだ。そしたら途中で崩れた壁を見つけてね。で、奥に行くと小さなスライムが点々といたもんだから、それを辿って来たら君たちにここでバッタリ――という訳だ。……さて、次は君たちだよ」
私の顔を指した。
「ええと……。私たちはたまたま通路を見つけたんです。それで、そこのキースについていったら――あれ、いない」
ユリエルが来たから逃げてしまったのだろうか。
「ふむ」と言って、ユリエルが頬杖をつく。
「ここに繋がっていたとは――たまげたなぁ。こりゃまだこの鉱山には何かありそうだ。それはそうと、君たち鉱石は見つけたかい? 鉱夜――もとい、世界樹の成長は既に終わったぞ」
「え、ホントですか」
「うん、ホント」
「私とクラリス、何も採ってないですけど……」
「あれま。もう鉱石残ってないよ?」
「えぇぇ」
仕方がないとはいえ、損した気分だ。
まぁ……楽しかったからまだいいけど。
「なら、2人ともこの空洞にある鉱石を持っていくと良い。サンノレ鉱石に、ルナノ鉱山のみにある『ルナノ鉱石』もある。数は少ないが、気に入った鉱石を持っていくと良いよ」
「いいんですか?」
「私が発見した場所だ。権限は私が持っている。さ、どうぞ」
ユリエルが腕を組み、誇らしげにウンウンと頷く。
なら、採るか。
――それから、私とクラリスは空洞で鉱石を選んだ。
私は月のようにぼんやりと光るルナノ鉱石、クラリスは、透明度の高いサンノレ鉱石を選んだ。
「よし、それじゃあそっちから帰ろう。こっちはデコボコで歩き辛いから、あの通路から帰ろう」
ユリエルが言っているのは、私とナズミが一昨日通った道だろう。
やけに天井が狭い道を、また通らないといけないのか。
「――あっ」
ナズミが何かを思い出したかのように、急に振り返る。
「わっちはスライムたちを迎えに行かねば。約束したのです、あの子たちと」
そんなこと言ってたな……。
「ふむ。全部拾ってくればよかったな」
「いえいえ。わっちの言うことを聞いているので、絶対に離れないと思います」
「そう?」
「ええ。心遣い感謝します、ユリエル」
ナズミが小さく微笑む。
そうして私たちはスライムを頼りにして、今まで通った道を引き返した。
いつの間にか鉱山は真っ暗になっていたが、ユリエルの光魔法で鉱山を出ることができた。
「さ、受付に声かけて鉱石を提出してきて。私はここで待ってるから」
私たちは言われた通り、欠伸をしながら受付をする女性に声を掛けた。
「あ、最後の方々ですか……? 心配していましたよ……。いらない鉱石ここに置いといてください。ふわぁ……むにゃ」
眠そうだ。
この人、お祭りの開催宣言をした人だ。
せっかく綺麗な銀髪だというのに、ボサボサになっている。
相当燥いだんだな。
「以上ですか……? 少ないですね……」
「なんせ、最後の方に入ったもので」
「そうですか……。お疲れ様でした。研磨はあっこにいるユリエルにしてもらってください。ではおやすみなさい、ぐぅ…………」
寝てしまった。
「……行こっか」
「……ですね」
クラリスが頷く。
その後、私たちはユリエルと研究所に戻り、一日の疲れを癒すためにお風呂に入ってすぐに寝た。
研磨は明日にしてもらえることになった。
次話もよろしくお願いいたします!




