◇7匹のゴブリン①◇
目覚め――
それは時に快感であり、時に憂鬱なものである。
特に月曜日は辛い。
だが休日の目覚め快感だ。
日曜日は除いては。
それはそれでおいといて、今日はゴブリンの捕獲をする。
「なぜゴブリンに拘るのです?」とナズチに問われたが、答えは単純明快である。
〝ゴブリンは頭がいい〟
魔法を扱えるゴブリンがいるのだから、それは当然。
瞬時の対応力、狡猾さ、戦闘能力……その三拍子揃った最強の魔物がゴブリンなのである。
耐久面を考慮すれば、だが。
私がまだ幼かった頃――そうそう、親に内緒で外に出た夜だった。
町の外れでゴブリンの群れに襲われ、金品や装備を強奪された。
私が泣き叫んでいると、偶然あった落とし穴に群れが落ち、ゴブリンたちは壊滅。
……死んだのだ。
それだけゴブリンの耐久性は低い。
耐久面のことも置いといて、どう捕まえるかを考えよう。
「それで、ゴブリンの捕獲についてなんですけど……まず、ゴブリンってどこにいますか、ナズチさん」
出発点。
「あぁ、ゴブリンならこの森にいますね。西に村があったような……でも、風の噂では、どこかの冒険者に数秒で滅ぼされてしまったとか」
何となく察せるな、その冒険者が誰か。
「ゴブリンを捕まえるのですか?」
ナズミが壺から顔を覗かせた。
うーん、今日の朝から何度も見たが全然慣れないな。
「それ怖いからやめない?」
「いいえ。ひんやりして、どことなくジメっとして、気持ちが良いのです。絶対にやめません」
お湯にでも浸かっているのか、と言いたいくらい気持ちよさそうにしている。
「家宝なのに……」
ナズチがボソッと言った。
「ゴブリンは群れをなす魔物です。村を壊滅させられたのなら、この森にいる保証はなさそうですね。まぁ、はぐれ者がいるのなら話は別です」
やはり、ナズミは頭が良いのかもしれない。
「とりあえず探しに行きましょう。ユーノさん」
「あ、あぁ、そうですね。まずは見ないことには始まりませんからね、その村を」
◇
それで、ナズミを家に置いて、西のゴブリン村に来たわけだが――
「酷い有様ですね……家も柵も、周囲も全て消し炭です。ほら、ゴブリンの死体までありますよ」
家々は焼き尽くされ、周囲の土地からは緑が消えていた。
ナズチの言う通り、ゴブリンの無残な死体が転がっている。
元々小さい村だったからか、死体の数は多くないようだ。
「……ダメですかね」
ダメそうだ。
「帰りましょうか。ナズミちゃんも待っていることですし」
「ナズミ、ちゃん……」
「ナズミちゃんがどうかしましたか?」
「いいや、なんでもないです」
少女の形容であることに間違いはない。
だが、スライムにちゃん付けをしていいものかと小さな疑問。
私が気にしすぎているだけか……。
ナズミ的にはいいのか?
「ああでも、一度だけ周囲を見て回りましょう。何か、役に立つ道具があるかもしれません」
私は小さく頷いた。
▽
それから、私たちは村の周囲を散策した。
この焼け跡……炎系の爆発魔法を使ったに違いない。
物理攻撃を主とするカミジとは考えにくいな。
では一体誰が――のわっ!?
誰が掘ったのか、私たちは落とし穴という古典的な罠にはまってしまった。
いったぁ……!
落とし穴なんて一体誰が……それにかなり深いし。
もしやゴブリン? でも、もうゴブリンは――
「ユーノさん、大丈夫ですか!?」
ナズチも落ちたというのに、私の心配をしている。
「この落とし穴、かなり前に掘られたものの様です。ほら」
ナズチが地面の落ち葉を拾い上げ、私に見せてきた。
……葉っぱが腐っている。
「そうみたいですね……」
「しかし困りましたね……。ユーノさんを背負おって出ようにも、不安定でかなり危険です。どうしましょうか」
「うーん、誰かに引き上げてもらうのが手っ取り早いですけど」
腕がねぇ。
「助けを呼ぼうにも、私が人間に見つかったら逃げられるだけです。この辺りには魔族もいませんし」
困ったな。
天にお祈りでもしておくか――
ズサッ、ズサッ……
天にお祈りをしていると、地上から地面を蹴る音が聞こえた。
誰かが来たらしい。
カミジたちでないことを神様に祈ろう。
「…………」
足音が止まったかと思うと、穴の上から誰かが見下ろしていた。
誰だ……? 雲で影ができてしまい、顔がよく見えない。
「おい、娘ども」
……なんだ、この変な高い声は。
ヘリウムガスを吸い込んだ後の声みたいだ。
「我らの命令に従うならば、この穴から出してやろう」
すると、6体の何かが落とし穴を取り囲み、私たちを見てニヤリと笑った。
少しして、雲の隙間から陽の光が顔を出し、その7たちの顔が見えた。
緑の肌、鼻の長い歪な顔に小さい身体……。
そう、彼らは――いないと思っていた、ゴブリンだったのだ。
「我らは誇り高きホブゴブリン。滅ぼされた村のはぐれ者だ」
次話もよろしくお願いいたします!(誤字があればご報告いただけると助かります!)




