◇トンカチのつかいかた◇
……鉱山はどのくらいまで潜るかについて話し合った結果、数十秒で『行けるところまで行こう』と決まった。
理由は貴重な鉱石が欲しいとかではない。
ただ〝沢山探検してみたい〟それだけだった。
まぁそこまで本気になることもないからねぇ。
お祭りは楽しんだもん勝ちだし。
さてと、今度は私の採掘道具の使い方について――
……まず初めに、トンカチって採掘に使うか?
岩を削るツルハシや土を掘るスコップ――まぁシャベルも分からなくはない……。
けどトンカチはない、トンカチは。
主に釘を打つ為の物という採掘には全く関係のない道具。
釘抜きがあるならまだしも、なんと両側まっ平。
岩を削るというより、むしろ固めてしまうのでは? なんて思ってしまう。
って、そもそも私がこの道具を使えないと、そんなこと言っていられない。
ということで――
「トンカチをどう使えばいいのかという件について」
クラリスがナズミに小説の読み聞かせをしたり、ナズチがツルハシを振り回して遊んでいたりと、グダっとしたいつもの日常を過ごしている私たち。
時間はもう、お昼を回って13時だ。
昼食は昨日の余りものとうどんの汁だった。
ダシが効いていて美味しかったなぁ。
……話が逸れた。
「靴につけるか口に銜えるか……。彼は高層ビルの屋上で1人、悩んでいた」
クラリスが小説を読む。
そうだな、靴につけるか口に銜えるかしかない。
「アイスの棒はまだ折れない――と、どうでしたか? ナズミちゃん」
「面白いです」
「それでは、2巻にいきましょう!」
「はい」
クラリスが小説を机上に置き、『アイスの棒を折るまで、私の心は折れない』の2巻を手に取る。
「とある日の夕方。彼は妻の不可解な行動を突き止めるため、妻の帰宅路で待ち伏せをしていた――」
アイスの棒を折るまでって、確かドロドロした男女関係のお話じゃなかったか。
異世界を舞台とした小説で、3年前に完結した大ヒット作品だ。
確か最後は心中で終わっていた気が……。
ナズミが変な影響を受けなければいいけど。
「ヘルメットにくっつけて使うのはどうです?」
ナズチがツルハシを肩に乗せる。
「うーん……。ちょっと危ないかな」
「あー、それもそうですね。やはり、靴が無難でしょうか?」
「そうかも」
「じゃあ、どこにつけるかを考えましょう! とはいえ、一応考えてはあります」
「そうなの?」
「ええ。変な改造をするわけにもいかないので、靴の先端に普通に装着するのがいいと思います」
「ということは……?」
「持ち手の部分は取っ払って、金属部分だけ先端につけましょう!」
「おぉ」
ナズチがトンカチを軽く持ち上げる。
「小型のスレッジハンマーですね。これなら、木の部分はポキっと折っても支障はなさそうです。ただ――」
「ただ……?」
「片方だけだと歩きづらいですよね」
「確かにバランスがとれなさそう……」
「なので、2つに分けようと思います」
ナズチがトンカチの持ち手部分をポキっと折る。
そんなに簡単に折れちゃうものなのか。
ナズチの力が強すぎるだけかな?
「足を上げてもらってもいいですか?」
「うん」
どうつけるのだろうか。
「はぁぁぁ――!」
ナズチがトンカチの金属部分を押し潰す。
「よいしょっ!」
押し潰した金属を片手ずつにわけ、それを私のブーツの先端にくっつけた。
「ナズチさん、すご」
トンカチの金属部分がブーツの先端に……。
それも、カーブに合わせて曲線に加工されている。
少し重たいくらいで、特に致命的な影響はなさそうだ。
「これなら歩くときも支障はありませんね!」
「うん、ありがとう。というか今、何したの? 金属押し潰すとか、ピッタリ靴に合わせるとか……。色々と一瞬で分からなかったよ」
「今の、金属加工術です。パパの知り合いの武器職人さんに、昔教えてもらいました」
「へぇ、金属加工術……。い、いやでも待って。確か、異常に高い熱を金属に持たせないとできないから、まずはマグマみたいに熱い液体の中に入れて――」
「いやぁ……、何故か素手でできるようになっちゃって」
「えぇ? なんで?」
「さぁ。偶々だと思います」
偶然できるものかね……。
「そ、そっか。ナズチさんすごいね」
「あはは、照れます」
もはや才能ともいえよう。
魔族って本当に未知だな。
「今日はゆっくりしましょう! あ、トランプでもして遊びませんか? ほら、前みたいに。まだほかにもゲームはあるんでしたよね、ユーノさん」
大きなバッグの中からトランプが入った箱を取り出すナズチ。
前はババ抜きとか大富豪とかを主にやっていたかな。
私はナズミとやった記憶がある。
「クラリスさんもナズミちゃんもどうですか? あ、それと助手さんとユリエルさんも呼んで、みんなでやりましょう!」
トランプケースを机にバシッと置いて、ユリエルと助手がいるキッチンへとドタドタ行ってしまった。
「ナズチさんは元気ですね」
クラリスが微笑む。
「ナズミちゃん、続きは終わった後にしましょう」
「ええ。続き、楽しみにしています」
前々から思っていたけれど、クラリスは面倒見がいい。
穏やかなお姉ちゃん感がある。
ともあれ、諸々決まった事だし、今日はゆっくりして明日のお祭りに備えるとしよう。
よーし、今日は七並べに加えてポーカーもやろう。
それから6人でテーブルを囲み、夕食のことも忘れてゲームを楽しんだ。
今日はナズチと一緒にお風呂に入った。
▽▲▽
――そして翌日。
陽が落ちて空が暗くなる前の頃、私たちは研究所を出て鉱山へと向かった。
「いよいよですね……!」
ヘルメットを被ったクラリスが、ふんすふんすと鼻息を荒げる。
私も同じ気持ち。
「うわぁ、人いっぱいいますね。どうやら、私たちは最後尾のようです」
ナズチがつま先立ちをして奥を見ていた。
人数だけで聞くと少ないけど、実際に見ると多く感じる。
「私たちの調子で行けるからいいんじゃないかな。流れに巻き込まれずにね」
「わっちもそう思います。はぐれてしまう可能性もあるので」
ナズミの言う通り、はぐれる可能性もある。
「そうですね。私たちのペースで、行きましょう。そこまで広くはないのでしょうし……あ、そろそろ始まるみたいですよ」
クラリスが指さす方向には、鉢巻を巻いた女性が拡声器を持って高台に登っていた。
『皆さん、どうもこんばんは! さぁ元気な声で!?』
まさかの倒置法!
「「「こんばんはー!」」」
『今宵はラザリア鉱物祭――年に一度のお祭りです! 鉱物が煌めく夜、ああ素敵……』
「いいからとっとと始めろー!」
『…………盛り上がってまいりましたね! 超ムカつきます! というわけで、諸々と儀式的なものはもう終わらせたので、お祭りをそろそろ始めたいと思います!』
「「「わー!!」」」
歓喜と熱気と怒気が凄い。
『よーし、それでは……3、2、1――――鉱山解禁!』
そうして、ラザリア鉱物祭は鉱夜の始まりを迎えた。
もはや原型を否定されたトンカチくん。可哀そう。
……あ、次話もよろしくお願いいたします!




