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◇世界樹の成長◇

「――君たちは【鉱夜】という現象を知っているかい?」


 ユリエルが、抱えていたウラビノをゆっくりと降ろす。


「復元作用かなんかで鉱石が輝く夜のことですよね」

「そう言われているね。実際、鉱石そのものが輝いている訳ではないが」

「……そうなんですか?」

「ああ。世界樹の成長による魔力マナの放出で鉱石がまた作られているだけだ。そして形成された鉱石は、魔力マナによって輝きを放つ――それが鉱夜というものだよ」

「へぇ……」


 鉱山に魔力マナを注ぐってそういうことか。


 ……世界樹の成長(ワーリーグロウス)って言うんだっけ、そういうの。

 世界樹がまだあった頃に、エルミーナ大陸で1年に1度だけ起こっていたもの――だったか。

 あんな小さいのに起こるものなんだな。

 世界樹って凄い。


「世界樹の枝が生えている他の地域ではね、鉱夜のような現象が確認されているんだ」


 エルミーナの〝豊果ほうか〟とかも復活したのかな。


「そういった現象を、『世界樹の成長(ワーリーグロウス)』と言う。この鉱山もそれに同じだよ」

「なるほど……」


 「いや、それは知っています」とは言えない。

 言えるもんか、教えてもらっている立場なのに。


「……私の研究、実を言うと大詰めの段階なんだ。世界樹の枝を発見してからは更にね」

「この鉱山の研究でしたっけ。『鉱石が何故復活するか――』とかの」

「うん。今までの話を聞いたら分かるだろう? 2人とも。私の論文の殆どは出来上がっているんだよ。昨日全力で書いたんだ~、ふっふっふ」


 ドヤ顔をするユリエル。

 仮説を立てて、ある程度予測はしていたんだろうな。


世界樹の成長(ワーリーグロウス)のおかげで、鉱石がまた作られていると……」

「そう! 『鉱山に魔力を注ぐ』って意味、分かったかい?」

「えーっと……とてもよく分かりました。すごいです」


 小並感だけど、理解はできた。


「あとは結論を書いて学会で発表するだけだ。……これで私の信用も上がって、講演の機会も増えて、その過程でお金がたんまり――ぐふふ」


 見た目に似合わないちょっと下品な笑い方。

 口を開かなければ普通に綺麗なエルフのお姉さんなのにな。

 開けた途端に殆どが台無しになる。


「とまぁ、偶然にも世界樹の枝がこの空洞に出て、1年に1度の成長期で鉱石が色々と蘇ると、そういうわけさ。この鉱山で鉱石が尽きることのない理由がね」

「なるほど……。では、ウラビノがさっきの空間にいたのは何故です?」


 ここまで聞くともう少し訊きたくなるな。


「ふむ……。世界樹というのは、新たな生命を形成するでもある」


 確かに、生物の教科書では世界樹のことをそう書いていたな。


「ウラビノはその成長過程で生まれたんだろう。魔物だろうが人間だろうが、生物の始まりは世界樹の魔力マナだと言われているし。諸説あるけど」


 研究とか興味なかったからなぁ……。

 他にどんな説があるんだろう。


「深ければ深い程、強い魔物や貴重な鉱石に出会う確率が上がることとは、何か関係があるのでしょうか」


 ナズミがユリエルをじっと見つめる。


「そうだな……。世界樹の研究者に訊いた方がいいと思うが――私なりの考えでは、『下に行けば行くほど魔力マナ魔素まその濃度が上がるから、強力な魔物や珍しい鉱石が生成される』かな。……ごめんナズミちゃん。詳しいことは分かっていないんだ。今回の研究の要点はそこでないこともあってね」

「いいえ、ありがとうございます。お話を聞けただけでも嬉しいです」

「それならよかった」


 ユリエルがナズミの頭を撫でる。


「今度時間があったら研究してみることにするよ。他の鉱山学者が手を出していると思うけど」


 ナズミの頭から手を離したユリエルが、枝の周りで元気に跳び回っていたウラビノを「よっ」と捕まえる。


「ウラビノが持っていたサンノレ鉱石は、この空洞で生成されたものだろう。あー、そこら中にある水晶が何よりの証拠だ」

「確か魔力マナの濃度が高いと、ああいう風な水晶になるんですよね。不純物を取り払った上で、綺麗に青く透き通るとか」

「さすがユーノちゃん。よくご存じで」


 そこは自然科学の試験範囲だったからよく覚えている。


「ついでに魔力マナの濃度が高い場所は、誰これ構わず疲労回復や傷の治癒効果があることを教えておこう」

「へぇ……」


 それは初耳。

 教科書のコラムには書いてあったのかな……?


「死者が出ないで怪我人だけ――というのはそれが理由。100年前とかは、鉱山での死者が普通に何十人もいたらしいからね」


 確かに、ここにきてから体が軽くなったような気がする。

 元々腕がくなって、物理的に軽くはなっていたのだけども……。


「……今はないが、明後日の夜にはサンノレ鉱石ができていることだろう。私はそれだけ拝ませてもらうことにするよ」

「ユリエルはお祭に参加しないのですか……?」

「うん。私には〝他の用事〟があるからね」


 他の用事とは、一体何のことだろうか。


「他の用事、ですか?」

「ナズミちゃん。私は『兼業学者だ』ってことだけ伝えておくよ」


 ああ、鑑定屋の仕事があるのか。

 採掘された鉱石を鑑定するお仕事をしないといけないってことね。

 ということは、鑑定屋として信頼されているんだな。


「さて、そろそろ帰ろうか。と、その前に――」


 ユリエルが、世界樹の枝から更に枝分かれしたものを1本だけポキッと折って、それをナズミに渡した。


「え、いいんですか? そんなことしちゃって」

「心配ご無用。世界樹なんて神様じゃないんだから、罰なんて当たりゃしないのよ、はは」


 自然保護団体に訴えられそうな発言だ。


「それに世界樹の枝は折っても腐らない。空気中の魔力マナを吸って生きる生命体のようなものでもあるから」

「はぁ……」

「時に葉っぱを付けることもあるだろうから、お茶でも作って飲むといい。治癒と疲労回復、そのほかにも色々と期待ができる」

()()()()()()ではないんですよね?」

「もちろん。世に出回っているのはまがい物ばかりだが、それは正真正銘かつ安心安全な世界樹の小枝だ。私が保証するよ」


 そう言って、ユリエルが自信ありげに自分の胸をドンッと手で叩く。

 エルフのユリエルが言うのなら、間違いはないのかな……。


「さぁ早く帰ろう。私の腹の音がぐうぐう鳴っている。そろそろ夕食の時間ということだ」


 ユリエルもナズチと同じ腹時計なのか……。

 ともかく、することはもうないし、ユリエルに付いていくことにしよう。


 ――それから私たちは通ってきた道を逆戻りし、鉱山を後にした。

次話もよろしくお願いいたします!

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