◇枝◇
鉱山の前にいる係の人にユリエルが事情を説明し、私たちは入り口の前に立っていた。
「ここが鉱山の入り口……。結構狭いんですね」
鉱山が大きすぎて入り口が小さく見えるだけなのかな。
遠近効果みたいな?
「何でだろうね。私もよく分からん」
分からないのかよ。
「さぁ行こうか。足元に気を付けて」
◇
薄暗い鉱山の中。
松明が壁に掛けられている。
至る所に削られた跡が……。
ここの鉱石は殆どが掘りつくされてしまったのか。
鉱夜にはこれが全て蘇ると――
……鉱夜について、教科書のコラムとかに載ってたのかな。
もうちょっとしっかり勉強しときゃよかった。
「鉱石は奥に行かないとないね」
「ちょっと残念です」
ナズミが壁を触りながらそう言った。
「もうちょっと奥に行くと私のサブの研究部屋があるんだ。ちょっと見に来ない?」
ちょっと嫌な予感がするのは気のせいかな。
「何もしませんよね」
「なに、ここでの私はただの研究者だよ」
その言葉にどんな意味が隠されているのか。
「じゃあ行こうか」
ユリエルが一人勝手に進んでいく。
さすがにコスプレ衣装はないか。
助手にも隠しているようだし。
「行きましょう、早く」
ナズミが私のパーカーの袖を引っ張る。
「そうだね……色々気を付けて行こうか」
私たちはユリエルの後を追っていった。
それにしても、本当にデコボコな道だ。
ナズミに支えてもらわないと怖くて歩けない。
ユリエルは何でこうも軽快に行けるのか……。
川の大きな石の上跳んで渡る子どもみたいに。
――少しして、ユリエルが立ち止まった。
どうやら到着したらしい。
「ここですか? ちょっと大きめの机と椅子2個しかないじゃないですか」
天井にランプが取り付けられた質素な部屋。
木の板で所々が補強されている。
奥には別の扉が……。
『関係者以外立ち入り禁止』の看板が取手に括りつけられている。
「この部屋の奥にはなにがあるんです?」
「私が主に研究している場所がある」
「へぇ……」
「前に、ユーノちゃんたちが持ってきた鉱石があっただろう?」
「ああ、サンノレ鉱石ですか」
ウラビノがお腹のポケットに入れていたヤツだ。
天気変動装置のオトモでもある。
「なんでウラビノが持っていたのか……不思議でたまらなくてね、ずっと調べていたんだ。そしたらある事が分かってね」
「ある事……?」
「ついてきてくれ給へ」
そう言い、ユリエルが奥の扉を開けて「こいこい」と手を縦に振る。
一応関係者……ではあるのかな。
それから、扉を通過して更に奥へ。
先程よりも天井が低く、少し屈まないと歩いて進めない。
バランスが取りづらくて時々倒れそうになる。
筋肉痛になりそうだ。
――再び歩き始めてから数分。
私たちが辿り着いた小さな空間では、ある動物が数匹飛び回っていた。
「ウ、ウラビノ?」
「鉱山には小さな巣があったんだ」
ウラビノが小さな穴へと逃げていく。
「そこに小さい穴があるだろう? そこからは外に繋がっていてね。ずっと前に1匹だけ外に逃げ出したんだ。偶然サンノレ鉱石を運んでね」
それであの草原に。
「ウラビノが通れるくらいの穴があるとは思わなんだ。私は初めて見た時に吃驚したよ」
そもそもウラビノがこの鉱山にいること自体、不可思議だ。
草食動物であるはずなのに、何故ここで生まれるのか。
「暇で掘り進めていたら偶然見つけたんだけどもね」
ちゃんと仕事しろ。
「……この奥にはもっと凄いものがある。もうしばらく付き合ってくれるかな?」
逃げ遅れたウラビノを1匹捕まえて腕に抱えるユリエル。
端から連れて行く気だったのだろう。
「ユーノ、行きましょう」
ナズミの好奇心は尽きないな。
「そう遠くはないんだ。ほら、あの青い光が見えるかい?」
確かに、奥がほのかに青く光っている。
「結論を言わせてもらうと、この奥には〝世界樹〟がある」
ユーノが歩きながらそう言った。
「世界樹……? でも世界樹って、昔の戦争で焼けてしまったんじゃ――」
「……世間で言われる世界樹というものは、地上に根を張っているものだと教えられただろう?」
「はい」
「あれ違うから」
「え!?」
教科書にはそう書いてあったし、先生に訊いてもそうとしか言われなかったのに。
「あれは世界樹の一枝に過ぎないのだよ」
「あれが……?」
「本体は地上ではなく海底にある。最近発見されたんだ。各地で新たな枝が発見されているし」
そういう記事とか見てないから全然知らなかった。
「そしてここ――ルナノ鉱山内部にも世界樹の枝が出た。恐らく大体60から70年くらい前だ。……ほら、見えてきたぞ」
デコボコな通路を抜け、青い光が一層強くなった。
とても広い空間で、青く光る水晶が所々に浮き出ている。
その空間の中央には小さな樹木が1本。
土もないというのに、樹の周りからは緑の短草が生えている。
物凄い生命力だ。
光も水もなくても育つなんて……。
理科壊れる。
「あれで6、70年ですか……?」
「ああ。この鉱山に魔力を注ぎながら栄養を供給しているからね。恐らく、昔に燃えた枝より大きくなるには数百万年はかかるだろうよ」
「そんなに……。それに、『鉱山に魔力を――』って、どういうことですか?」
「……多少、話が長くなるけどいいかい?」
私はナズミと顔を見合わせた。
丸い目をキラキラさせている。
こういう話はあまり好きではないけど……。
ナズミのためか。
「はい。大丈夫です」
私は頷いた。
「それでは始めよう。……まず初めに、君たちは【鉱夜】という現象を知っているかい?」
次話もよろしくお願いいたします!




