表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/68

◇枝◇

 鉱山の前にいる係の人にユリエルが事情を説明し、私たちは入り口の前に立っていた。


「ここが鉱山の入り口……。結構狭いんですね」


 鉱山が大きすぎて入り口が小さく見えるだけなのかな。

 遠近効果みたいな?


「何でだろうね。私もよく分からん」


 分からないのかよ。


「さぁ行こうか。足元に気を付けて」





 薄暗い鉱山の中。

 松明が壁に掛けられている。

 至る所に削られた跡が……。


 ここの鉱石は殆どが掘りつくされてしまったのか。

 鉱夜こうやにはこれが全て蘇ると――


 ……鉱夜について、教科書のコラムとかに載ってたのかな。

 もうちょっとしっかり勉強しときゃよかった。


「鉱石は奥に行かないとないね」

「ちょっと残念です」


 ナズミが壁を触りながらそう言った。


「もうちょっと奥に行くと私のサブの研究部屋があるんだ。ちょっと見に来ない?」


 ちょっと嫌な予感がするのは気のせいかな。


「何もしませんよね」

「なに、ここでの私はただの研究者だよ」


 その言葉にどんな意味が隠されているのか。


「じゃあ行こうか」


 ユリエルが一人勝手に進んでいく。

 さすがにコスプレ衣装はないか。

 助手(ジョシュ)にも隠しているようだし。


「行きましょう、早く」


 ナズミが私のパーカーの袖を引っ張る。


「そうだね……色々気を付けて行こうか」


 私たちはユリエルの後を追っていった。


 それにしても、本当にデコボコな道だ。

 ナズミに支えてもらわないと怖くて歩けない。

 ユリエルは何でこうも軽快に行けるのか……。

 川の大きな石の上跳んで渡る子どもみたいに。



 ――少しして、ユリエルが立ち止まった。

 どうやら到着したらしい。


「ここですか? ちょっと大きめの机と椅子2個しかないじゃないですか」


 天井にランプが取り付けられた質素な部屋。

 木の板で所々が補強されている。

 奥には別の扉が……。

 『関係者以外立ち入り禁止』の看板が取手に括りつけられている。


「この部屋の奥にはなにがあるんです?」

「私が主に研究している場所がある」

「へぇ……」

「前に、ユーノちゃんたちが持ってきた鉱石があっただろう?」

「ああ、サンノレ鉱石ですか」


 ウラビノがお腹のポケットに入れていたヤツだ。

 天気変動装置のオトモでもある。


「なんでウラビノが持っていたのか……不思議でたまらなくてね、ずっと調べていたんだ。そしたら()()()が分かってね」

()()()……?」

「ついてきてくれ給へ」


 そう言い、ユリエルが奥の扉を開けて「こいこい」と手を縦に振る。

 一応関係者……ではあるのかな。


 それから、扉を通過して更に奥へ。

 先程よりも天井が低く、少し屈まないと歩いて進めない。

 バランスが取りづらくて時々倒れそうになる。

 筋肉痛になりそうだ。


 ――再び歩き始めてから数分。

 私たちが辿り着いた小さな空間では、ある動物が数匹飛び回っていた。


「ウ、ウラビノ?」

「鉱山には小さな巣があったんだ」


 ウラビノが小さな穴へと逃げていく。


「そこに小さい穴があるだろう? そこからは外に繋がっていてね。ずっと前に1匹だけ外に逃げ出したんだ。偶然サンノレ鉱石を運んでね」


 それであの草原に。


「ウラビノが通れるくらいの穴があるとは思わなんだ。私は初めて見た時に吃驚したよ」


 そもそもウラビノがこの鉱山にいること自体、不可思議だ。

 草食動物であるはずなのに、何故ここで生まれるのか。


「暇で掘り進めていたら偶然見つけたんだけどもね」


 ちゃんと仕事しろ。


「……この奥にはもっと凄いものがある。もうしばらく付き合ってくれるかな?」


 逃げ遅れたウラビノを1匹捕まえて腕に抱えるユリエル。

 端から連れて行く気だったのだろう。


「ユーノ、行きましょう」


 ナズミの好奇心は尽きないな。


「そう遠くはないんだ。ほら、あの青い光が見えるかい?」


 確かに、奥がほのかに青く光っている。


「結論を言わせてもらうと、この奥には〝世界樹〟がある」


 ユーノが歩きながらそう言った。


「世界樹……? でも世界樹って、昔の戦争で焼けてしまったんじゃ――」

「……世間で言われる世界樹というものは、地上に根を張っているものだと教えられただろう?」

「はい」

「あれ違うから」

「え!?」


 教科書にはそう書いてあったし、先生に訊いてもそうとしか言われなかったのに。


「あれは世界樹の一枝に過ぎないのだよ」

「あれが……?」

「本体は地上ではなく海底にある。最近発見されたんだ。各地で新たな枝が発見されているし」


 そういう記事とか見てないから全然知らなかった。


「そしてここ――ルナノ鉱山内部にも世界樹の枝が出た。恐らく大体60から70年くらい前だ。……ほら、見えてきたぞ」


 デコボコな通路を抜け、青い光が一層強くなった。

 とても広い空間で、青く光る水晶が所々に浮き出ている。


 その空間の中央には小さな樹木が1本。

 土もないというのに、樹の周りからは緑の短草が生えている。


 物凄い生命力だ。

 光も水もなくても育つなんて……。

 理科壊れる。


「あれで6、70年ですか……?」

「ああ。この鉱山に魔力を注ぎながら栄養を供給しているからね。恐らく、昔に燃えた枝より大きくなるには数百万年はかかるだろうよ」

「そんなに……。それに、『鉱山に魔力を――』って、どういうことですか?」

「……多少、話が長くなるけどいいかい?」


 私はナズミと顔を見合わせた。

 丸い目をキラキラさせている。

 こういう話はあまり好きではないけど……。

 ナズミのためか。


「はい。大丈夫です」


 私は頷いた。


「それでは始めよう。……まず初めに、君たちは【鉱夜】という()()を知っているかい?」

次話もよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ