◇うわ、出た◇
――再び歩きはじめてから少し経った時のこと。
ラザリアに向かう旅商人の馬車にばったり出会い、乗せてもらえることになった。
そのまま歩きで向かっていたら途中でぶっ倒れていただろうから、本当に運がよかった。
それに、商人のおばさんにお水も貰っちゃって、その上にラザリアまで送ってもらっちゃって……。
後で料金払わないとなぁ。
「あんた達、見えてきたよ」
そのおばさんの声を聞き、窓枠から顔を覗かせる。
間違いなくラザリアだ。
石造りの家に採掘道具がぶら下がっている。
町の中が全体的にごちゃごちゃしていて、それに加えて男が多いというむさ苦しさ。
間違いなく、ラザリアだ。
「お昼には着きましたね。よかったです」
「あれ、ナズチさん時計持ってたっけ」
「腹時計ですよ」
「あぁ、なるほどね」
……いや納得してない!
太陽の方角からしてお昼だろうと推測できるから、一瞬納得しそうになったけど。
「――さぁ着いたよ。ラザリアだ」
馬車が止まった。
「ありがとうございました。本当に助かりました」
馬車から降りて、おばさんにお礼を言った。
「いいんだよ。私もあんたらも用があったわけだし」
「ああそうです。お金の方は」
「そうだねぇ……。カルドナ硬貨6枚ってところでどうだい」
「6枚でいいんですか?」
「あんたらのおかげで、魔物に気を遣わずに行けたからねぇ」
「ありがとうございます」
クラリスが硬貨を渡す。
商品であるお水を貰って、加えて長い距離運んでもらったのだ。
本来であれば15枚はくだらない。
「そうそう、この町で近々お祭りがあるそうだよ」
馬車の荷台に積んだ荷物を降ろすおばさん。
お水に食料に採掘道具……ありとあらゆるものを扱っているようだ。
それにしても、ここのお祭りなんて聞いたことがないな。
「お祭りって?」
「年に一度だけ開催されるラザリア鉱物祭。年に一度だけ開催されるんだ」
「どんな祭りなんです?」
「鉱石が光り輝く夜――【鉱夜】に炭鉱へ行って、みんなで鉱石を掘り当てるって祭りさ」
「ふむふむ」
「鉱山の神様に感謝をする神聖な祭りなんだ。ちなみに、採掘した鉱石のうち1つ、自分の気に入ったものを研磨して貰えるんだよ。それ以外は全て町に寄付するんだ。競争性はないよ」
なんて平和的な祭りなんだ。
いくら採掘しても鉱石が尽きない炭鉱だからな。
一体どういう原理なんだか。
研究者は、復元作用だとか何とか言っているけど。
復元作用ってなんだよ。
「それでは失礼します。ありがとうございました」
「あいよ、気を付けてね」
そうして、私たちはおばさんと別れた。
それにしても賑わっているな。
お祭りのチラシも配っているようだ。
冒険者の数が前来た時より随分多い。
経済的な効果は絶大ってわけだ。
そりゃ長く続くわこの町も。
「今日からのお宿はどうしましょうか」
ナズミがそう言った。
「うーん……開いている所があればいいんだけどもね」
「ふぉの混みようふぁと希ふぉうはうふいでふね」
いつの間にか、ナズチが何かを銜えていた。
「それは?」
ナズチが口から棒状の物を取り出す。
「名物ってあったので買ってしまいました。美味しいですよ、甘くて」
ラザリア名物〝道具焼き〟ね。
甘くて美味しい砂糖菓子。
元々はツルハシとかスコップだったんだろうな。
「みなさん、あの方ってもしかして――」
クラリスの目線の先には、1人のエルフと白衣の女性がいた。
……うわ、出た。
「おや、こんなところで会うなんて偶然だね」
ユリエルだ。
なんでこの町にいるんだろう。
「博士。知り合いなんて珍しいですね」
ユリエルの隣にいるのは、白衣を着て小さな眼鏡をかけた女性。
身長はクラリスと同じくらいで、髪が青白い。
「おいうるさいぞ助手ちゃん」
博士? 助手ちゃん?
そんな人だったっけ?
「ユリエル、鑑定屋ではなかったのですか?」
「お、ナズミたそ――ちゃん、久々」
……たそ!?
「私の本業は研究者さ。鑑定屋なんて趣味だよ趣味」
「では、コスーーふぐっ」
ユリエルがナズミの口を手で塞ぐ。
「その口を閉じてもらおうか」
「あの博士? やはり私に隠していることありませんか?」
「ないない、神に誓っても絶対ない。……ああそうだユーノちゃん。あれ使って貰えたかな、天気変動装置」
話をそらしたな。
……というか、コスプレのこと隠しているのか。
「ええ、よく使えましたよ。その節はどうもありがとうございました。それで別件ですが、たそって――うっ」
「ん、よく聞こえないな」
「むうぅぅ、むぅう!」
口を塞がれた。
「もう話さないでくれ」
なんて力だ。
「絶対に話させない」という強い意志を感じる。
「立ち話もなんだ、私の研究所に寄って行くといい。さぁ来たまへ」
ユリエルが横を通り過ぎる。
一瞬息できなかった。
「博士がすみません」
助手ちゃんと呼ばれる女性が頭を下げる。
「いえ、もういいです」
――それから私たちはユリエルに付いていった。
次話もよろしくお願いいたします!




