◇鑑定屋のたしなみ③◇
※主人公視点になります。
現在進行形で鑑定屋に向かう私。
色々と話が進む前に、鑑定屋に事実を確かめに行こうと考えたのだ。
鑑定屋は確か――こっちか?
それにしても夜の町は静かでいいな。
お昼の賑やかさとは別の趣がある。
――さて到着。
あれ、カーテン越しに明かりが見える。
この時間帯は閉まっているはずでは……。
「あのー、ごめんくださーい」
扉越しに声を掛ける。
お、中から影が近づいて……。
「誰だ……こんな夜中に……」
カーテンが揺れる。
……あのエルフだ。
「おぉ……」
エルフが窓越しに私を見て唖然としている。
「やぁ、いらっしゃい。ユーノちゃん」
扉を開けて微笑むエルフ。
ナズミは――ユリエルと言っていたか。
私の名前教えちゃったんだな、ナズミ。
「さぁ入って入って。待っていたんだ」
……なんで歓迎モードなんだ?
「『待っていた』……って?」
「あのスライムの子から聞いていたんでね。来ると予想していたよ」
何で来るって予想できたんだ。
「……君があの子の主だね?」
ナズミのことか。
「そうですけども。……あの、ナズミに話は聞きましたよ」
「そうかい。いやぁ私も熱くなってしまってね」
「むむ」
片頬を膨らませ、唇を尖がらせる。
「そうカッカしないでおくれ。……見たいだろう? 写真」
「くっ――」
「ビーストに殺すセーターに麦わらワンピース、裸にエプロンなるものもやったぞ」
「な……!」
そもそも、ナズミに〝裸〟っていう概念があるのか……?
スライムに裸関係ないのでは……?
「……ヌードはないですよね」
「うん、ない」
「ユリエルさん――でしたっけ」
「ああ」
私は鼻でふふっと笑った。
「……只者ではありませんね。よく理解していらっしゃる」
「そうだろう? 裸よりも可愛い服着てる女の子の方がいいからな!」
「よしそれじゃあ見せてください!」
「よぉし来いこっちだユーノちゃん!」
私たちは部屋の奥へと駆け込む。
ユリエルに付いていき、様々な衣装が飾ってある部屋にやってきた。
す、すごいな。
女子高生の制服っぽいのまである。
一体どっから持ってきたんだ。
学び舎の制服はあるっちゃあるけど、セーラー服なんてあったっけ?
「この袋の中身、全部写真だ。けれど……」
「……けれど?」
「1つ、取引をしないか?」
「――取引?」
サービスといって鑑定料をタダにしてもらったり、何か変な機械もらったり、あとナズミも預かって貰ったからなぁ……。
ここまで断りづらい取引はない。
「内容は――なんですか?」
「……この写真を見ることを条件に、君にもコスプレをしてもらいたい」
「は?」
「腕がないなんて特殊だし、それにその目――どことなくジトっとしている所もいい。あと、金髪ってのも更に素晴らしい」
腕を組んで鼻息を漏らすユリエル。
「い、いや。私は似合いませんから」
「ほう。じゃあこの写真はお預けってことで」
「くっ――!」
なんて卑怯なエルフだ!
「どう、やってくれるかな?」
ユリエルがニヤっと笑う。
……ナズミの写真が見たい。
でもコスプレはしたくない!
「ほーらどうするんだい? はいチラッ、ちょいチラッ」
手があれば写真をとれたのに……!
「わ、分かりましたよ。します、すればいいんでしょ」
「よく分かってくれた。それじゃあまずは誓約書に足紋をつけてもらおうかな」
よ、用意周到だ。
私は仕方なく足裏に朱肉をべったり付けて、誓約書に足を乗っけた。
……私の足紋、こんな綺麗だったんだ。
「ぐふふっ。よし。じゃ机の上に並べておくよ」
なんか今笑わなかったか?
「衣装を探しておくから適当に見ておいておくれ」
写真を並べ終えたユリエルが服を散らかし始めた。
白いポケットを手で探って、タコとか変な機械とかを取り出す猫型ロボットみたいだ。
それはさておき、さてナズミの写真は――
……おぉ、ビーストナズミにセーターナズミ。
エプロンナズミにお嬢様ナズミ。
うわぁ、この後ろ姿なんて凄いママみがある。
おぉ、この際どい女の子座りのポーズ。
こりゃ相当煽てられたな。
自然な表情とポーズがその証拠だ。
……この麦わら帽子の写真、後で貰えるか交渉しよう。
この初々しさがたまらなく良い。
「ユーノちゃん、じゃあこれを着てくれ」
ユリエルが持っていたのは、茶色い毛皮に鎖付きの首輪……。
「奴隷セット」
「……は?」
奴隷セットだって……?
何言ってんだこのアマは。
「奴隷なんて嫌ですよ」
「えー、絶対似合うと思うんだけど。私が着せてあげるから着てみんしゃい」
「むぅ……」
パーカーを脱がせられ、下着を脱がせられ――
毛皮を着せられ、首輪を取り付けられた。
そして、背中を押されて撮影スタジオへ。
「はい、女の子座り」
ユリエルがいつの間にか魔石式写真機を手に持っていた。
「はいちょっと首引っ張るよ」
ぐいっと引っ張られ、上半身が前に倒れる。
「い、いたいんですけど」
「おぉいいね。その反抗心むき出しな感じの目! そのままレンズを見てー。はい、チーズ」
シャッターを切る音が部屋で響く。
「やっぱ似合うねぇ。腕がなくて火傷の跡が大きくある感じ――『酷い拷問を受けたけど、それでも秘密を暴露しない敵国の少女聖騎士』って雰囲気出てる」
何そのシチュエーション。
「ケモミミと鼻と尻尾つければ、獣人奴隷っぽくなりそう」
「え」
「やっぱいいや」
冷めるの早っ。
「そういえばその腕とか火傷とかどうしたんだい?」
「今更ですか?」
「うん、今になって気になりだした」
ユリエルの言動は読めない。
打ち解けるのが得意なナズミでも、結構困ったんじゃないか?
「いやぁ、冒険者に勘違いでやられました」
「そんな酷い冒険家いるんだね」
「まぁ、ボコボコにしてやりましたよ。色々とやって」
「へぇ……」
興味なさそうな声。
「さて、続けようか」
「……はい」
「はーい、それじゃあ歯を噛み合わせてさっきと同じ表情で――」
もういいや。
どうにでもなってくれ……。
――それから私は、朝になるまでコスプレをし続けた。
囚われの身的なポジションが主だったが、普段着姿の私も何故か撮られて……。
コスプレに関しては結構見慣れてきたはずだったんだけども。
――帰り際、麦わら帽子を被ったナズミの写真を渡された。
私の初コスプレ写真とともに。
そうして、屈辱的な気分のまま私は帰宅したのだった。
……ナズミ、私、お疲れ様。
~2章外伝 完~
2章外伝はこれにて終了です!笑
次は3章です、次話もよろしくお願いいたします!




