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◇スライムの生殖方法①◇

 森の中のナズチ宅に帰ってきた私たちは、メルトスライムの生殖方法について研究していた。

 ……はずだった、はずだったのだ。


「ユーノさん、スライムって見ていて癒されますね。あの草原じゃドロドロだったのに、今はゼリーみたくぷるんぷるんですよ。心なしか目が見えてきました。可愛いです」


 うん、論点はズレたけど、ナズチが幸せそうで何より。

 それより、このスライムはいつになったら分裂してくれるのだろうか。

 メルトスライムは生存本能の高さ故、分裂能力が非常に高いという話だったはず。


 どこかのツボを押せばいいのかと考えたが、肝心な指がない、手がない、腕がない。

 ナズチには偉そうなことを言ったが、義手くらいは付けたいな。

 やはり、何かに触れられなくというのは不便だ。


「ユーノさん、見てください!」

「え?」


 楕円形のスライムが、横に伸びたり縦に伸びたりを繰り返している。

 もしや、細胞分裂の前触れか!


「きっとアピールしているのですよ。『もっとかまって』って。はぁ~癒されます」


 ナズチが幸せそうで何よりだ。

 ……何よりだ。


「でも様子がおかしいです。かまってちゃんというよりも、無理に形を変えようとしているような――うわっ!?」


 突然、スライムが爆散した。

 スライムの液体が飛散し、部屋中に青い粘液がくっついた。

 もちろん、その粘液は私たちの体にも付着した。

 ふふ、今回は鉄製の装備だ。溶ける心配はない。


「スー、スー」


 誰の吐息だ……?


 目を開けて周囲を確認。

 まず一番に目がいったのは、ナズチが頭をうって目を回していた所。

 次に目がいったのは、人間じゃとても持つことができない大きさの斧。

 そして最後――肌が青く半透明な少女が、机の上にちょこんと座っていたこと。


 少女は綺麗な丸い目で、こちらをじっと見つめている。


「スー、スー」


 どうやら、吐息の正体はこの子だったらしい。

 いつの間に入ってきたんだ、この子。


「あー、う」


 何かを伝えようと必死に口を動かしているようだが……何を言っているか分からないな。

 にもかくにも、倒れたままのナズチを放置しておくわけにはいかない。

 だけど、運ぶ手段がない。

 そうだ。


「ちょっと君、この人をそこまで運ぶの手伝ってくれない? 私こんな状態でね。運べないんだ」


 と、肩をピクピク動かした。

 少女は笑顔で頷き、机から降りてナズチを手で押した。

 背中が摩擦で火傷をしないかが心配だ。







 やっとのことで運び終えた。

 私は、肌が床に擦れないよう布を敷いただけ。

 この子が1人でやってくれた。

 頭を撫でたい。


「あの……」


 少女は、床や布団を見てはにかんだ。


「すみません、布と床を汚してしまいました」


 ……しゃ、喋った――!?


「ああ、自己紹介が遅れました。わっち、メルトスライムです」


 なに、その一人称。

 運んでいる途中、何らかの液体が落ちるたびに布が溶けていたから何となく察してはいたが――

 それより、普通に話せるのかい。


「あー、うん。私ユーノって言うんだ。えー……、よろしくね」


 坦々と話をされると言葉が詰まってしまう。


「はい、よろしくお願いいたします」


 ご丁寧にお辞儀をするメルトスライム少女。

 その後、自分のまき散らした粘液を恥ずかしそうにかき集め始めた。

 この子とは、どうコミュニケーションをとればいいのかが分からない。


 かき集めている途中にまた粘液を落として、またかき集めて粘液を落とすということをずっと繰り返している。

 おバカなのか、それともしっかりした子なのかハッキリしてほしい。

 ……話してみるか。


「あの――」

「その緑の方が目を覚ましましたらお伝えください。『草原で、わっちの残骸をかき集めてくれてありがとうございます』、そしてもう1つ『あの後に1匹ずつ剥がした事、絶対に忘れません。一生恨みます』と」


 うわぁぁぁ! なんなんだ、この子!

 感謝をしているのか、それとも恨んでいるのか分からない!

 あと話の始まりを切られた!


「あ、あぁ、快星の草原の時の?」


 そのスライム少女が「うん」と首を縦に振る。

 ナズチが手ですくって自分の体に乗せたのはこの子だったのか。

 溶けていたということは――もしや、できたてホカホカの親スライムなのか?

 そんで、ようやく固まったところを1匹ずつ剥がされて、それについて恨んでいると……。


「そ、それよりも、なんで君は女の子の姿をしているのかな? スライムには性別がないはずでしょ?」

「あぁ、簡単に言えば、人間に接しやすいからです」

「あー……確かに。少なくとも嫌悪感はないね」

「ええ。一番楽なのはツルッパゲのオヂサンなのですが、どうにも人には嫌われやすいようでして」


 わかるなぁ……。


「であれば、多少創りづらくとも少女の姿を造形――それからいち早く馴染んでもらうのが一番だと考えたのです」


 頭の良いスライムだ。

 スライムは大量で濃密な粘液でできているため、脳細胞は果てしなく少ない。

 必然的に知能指数も低くなるはずなのだが……。

 この子はそうでもないのか。


「途中、爆発四散サヨナラしてしまうかと思いましたが、何とか持ちこたえてこの姿に変態できました」

「そう……、よかったね」

「ええ」


 そう言い、スライム少女は粘液採取を再開した。

 落ちて拾って、落ちて拾って、ずっとそれを繰り返して。

 やっぱり頭悪そう。


 ……しかし、ここまで話す力があるとは。

 今までスライム相手には話が通じないことが多々あったが、この子は別格だ。

 頭は悪いが。



 ――さて、話せるという情報が得られたことだし、そろそろ本題に入るとしよう。


「そういえば君、細胞分裂ってできるかな」

次話もよろしくお願いいたします!(誤字などがあれば、ご報告いただけると嬉しいです!)

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