◇宴◇
お酒よし。
おつまみよし。
騒げる部屋よし。
「それでは、事件解決を祝しまして――」
『『乾杯!』』
私は手がないので、口だけで乾杯を言うだけにした。
「んっ、んっ」
クラリスがジョッキに入れられたお酒を一気に飲み干す。
「ぷはー! 美味しいですね、お酒はやっぱり!」
一気飲み……。
クラリスってお酒に強いのか?
結構意外な一面。
「ク、クラリス。大丈夫なのですか?」
ナズミが心配そうにクラリスを見つめる。
「ナズミちゃん、心配しなくても大丈夫ですよ。お酒はお薬ですから!」
それを言うなら百薬の長では。
飲み過ぎは毒なんだけどな。
……うわ、もう2杯目?
「私も飲みますよ~!」
ナズチって歳いくつなんだっけか。
確か、50歳くらい……だったかな?
魔族って長生きでいいな。
これでまだ子どもらしいし。
「ユーノ、飲まないのですか?」
「え、私? うーん、私は遠慮しておくかな。……ナズミ、そこのジュース汲んでくれるかな」
「はい」
ナズミが私のコップにリンゴジュースを注ぐ。
「どうぞ」
リンゴジュースが舌に触れる。
うん、美味しい。
「ナズミは飲まないの?」
「ちょ、挑戦してみます」
ナズミが酒ビンを手に取る。
……ん?
「ちょ、ナズミ……?」
まさか、ビンごと飲もうとしているのか?
挑戦しすぎじゃない……?
ゴクッゴクッと、ナズミの喉を酒が通る。
「ふ、ふぅ……」
……飲み干した、だと。
「あ、頭がクラクラしてきました……うっ」
「……大丈夫?」
「ええ……、おかしいです。昔だったらこんなことはありませんでした」
なに、その50過ぎたおじおばみたいな発言。
「ヒック……うぅ、苦しいです」
「横になっていいよ、ナズミ」
「はい、すみません……」
お酒飲むと頭クラクラするからね。
私、お酒弱いからよく分かる。
100ml飲んだだけでも、視界がボヤっとして気持ちが悪くなる。
そこに追加で飲むとまともに立てなくなる。
あの感覚キッツいんだよなぁ……。
「ユーノしゃぁん……」
突然、後ろから抱きつかれた。
この声は――クラリスか?
「ク、クラリス?」
「ほっぺ柔らかいれすねぇ……」
私の頬を優しく擦るクラリス。
……うわ、もう殆どお酒ないじゃん!
どういう環境を経たらこんな爆飲みする子に育つんだ。
「はむはむ、イカサキ美味しいです」
ナズチは呑気だな。
というかナズチの方がお酒強いな。
(――――っ!?)
「ちょっとクラリス、どこ触ってるの!? そこお腹! 擽ったいから!」
「えぇ、いいじゃないれすかぁ……ほれほれぇ」
「う、うひひひっ! 擽ったい、擽ったいから!」
手がないから抵抗できない。
何で異様に手の動きがしなやかなんだ。
「可愛いなぁ……」
く、苦しい!
特にクラリスの胸が当たって色んな意味で苦しい!
「受付さん、助――!?」
寝てる――!
ベッドに涎垂らしながら寝てる!
「ちょ――」
クラリスが私を抱きかかえたまま床に倒れた。
「あー! クラリスさん、ズルいです!」
ナズチがイカサキを銜えながらやってきた。
私を抱え上げ、頬を擦り合わせる。
け、けっこうゴツゴツしてる……。
「あぁ! わたひもしたいです!」
クラリスがにやけながらふらふらと近づいてくる。
違う! 私は普通に宴の席を楽しみたいんだ!
ナズミは寝てるし――てか、座布団溶けてない!?
受付さんにあとで怒られるな……。
こんな感じで冒険に出ても大丈夫なのか?
まぁ、一先ず資金はある程度あるし、お酒を飲まなければこうはならないから大丈夫――
――なのかは置いとおいて、まずはこの状況をどうにかしないと!
▽
――結局、何も抵抗できないまま朝が来た。
クラリスは私に、ナズチはナズミに抱き付きながら眠りについていた。
本当に、こんなので大丈夫なのかな。
まぁ、〝旅は道連れ世は情け〟というし……。
たぶん使い方違うと思うけど、どうにかなるか。
さてと、今日から出発までの準備をしないと。
…………早く、みんな目覚まさないかな。
●
その頃、ルナノ鉱山の発掘場にて――
コートを着たエルフの女性がため息を吐く。
「ユリエル博士? どうしたんです?」
丸い眼鏡をかけた白衣の女性が首を傾げる。
「ああいや、何でもない。気にしないでおくれ助手ちゃん」
「はぁ……」
「(――今度はアイドルコスでもやってもらおうか……)」
「え?」
「うん、だから何でもないよ。気にせず研究に励みたまえ助手ちゃん」
「は、はい……」
エルフの女性が大きな岩に座り、ポーチから複数の写真を取り出す。
「(また会えるかねぇ……)」
エルフが静かに呟き、何の変化もない岩壁をじーっと見つめていた。
2章お疲れ様でした!(珍しく平和な終わり)
次は3章になりますが、2章の外伝(というより蛇足的な話)を挟みます。
次章(次話)もよろしくお願いいたします!




