◇鍛錬◇
(2020/02/16 タイトルが不確定なため、終わりに(仮)をつけておきました。この作品に合う題名が決まったら、(仮)を消して修正します)
「ここらへんでやろうか」
ナズミが頷く。
「あの木に向かってできる?」
「はい」
口から涎、というか体液を腕に垂らして、木に向かって腕を横に振る。
粘液を固めて鋭い刃のようにして飛ばすのか。
なるほど……。
「うっ、ダメです。全然切れません」
木には細い傷だけができていた。
「ナズミちゃん! せいっ! とりゃ! こうやるんです!」
ナズチが腕を振る。
「こ、こうですか? せいっ、せいっ」
「もっと覇気を込めて!」
「て、ていっ! やっ!」
なんだこれ。
「遠心力の問題ですね」
クラリスが隣でそう言った。
「捻って勢いをつけましょう、ナズミちゃん」
クラリスがナズミの傍に寄る。
野球とか、打つときは体を捻るからな。
ナズミが体を捻り、勢いをつけて腕を振った。
……先ほどよりも勢いがある。
「わっ! すごいです、ナズミちゃん! 木の半分くらいまでざっくりいきました!」
逆に言えば、こんな危ないものを机の上でやっていたのか……。
「うん。じゃあ次は、もう少し粘液の量を増やしてみよう」
「は、はい」
――それから数時間の間、私たちは思考錯誤を繰り返し、ナズミウェーブの開発に勤しんだ。
そして漸く、安定して木を切れるまでに至った。
「はぁ……はぁ……」
粘液を使い過ぎたのか、ナズミの体が少し細くなったように感じる。
そろそろ終わるか……。
いや、あと1つだけやってもらおう。
「ナズミ、もう1つだけできるかな」
「は、はい」
「周りの木を一度で切り倒すことはできる?」
「……頑張ってみます」
体液を大量に腕に垂らすナズミ。
……苦しそうだ。
今日はご褒美にナズミの好きなもの沢山あげよう。
「腕を振ってから、体ごと回転する感じで。……あ、クラリスとナズチさん、しっかり伏せてね」
クラリスとナズチは、私と一緒に地面に伏せた。
「いきます! せりゃあっ!」
左足を軸として、ナズミが体を高速に1回転させる。
円とまではいかないが、ナズミの腕から放たれた体液が、辺りの木を切り裂いた。
ズドズドと大きな音を立て、木が次々と倒れていく。
す、すごいな……。
「はぁ……はぁ――もう、ダメです」
ナズミがその場で倒れる。
「ナ、ナズミ!」
私はすぐに駆け寄った。
「うんうん、お疲れ様。あとで美味しいものいっぱい食べさせてあげるからね」
「……ありがとうございます」
ナズミが微笑する。
「よし、今日は終わり。少し休んでから町に戻ろう。受付さんも何か情報を掴んだかもしれないし」
「……あの、いつ実行するんです?」
ナズチが切り株に体を寄せながらそう言った。
そういえばそうだったな……。
「うん……。できれば明日がいいんだけど――どうかな」
「わっちは構いませんよ」
「私もです。ね、ナズチさん」
「もちろんです!」
よし、満場一致だ。
十分に準備するに越したことはないが、今回は例外。
早く手を打たなければ、新たな被害者が出る可能性がある。
……もしかしたら、今も出続けているかもしれない。
だけれど、今日はナズミのこともあり、明日ということに。
……この策戦、上手くいくといいんだけどな。
「さ、そろそろ行きましょう。お腹も空いてきましたし……あ、そういえば、木はどうしましょう。倒れたままにしておくのはどうも気が引けます」
確かに。
クラリスが言ってくれなければ、そのまま放置して行くところだった。
「……ナズチさん、この木全部まとめてからいこう。後で薪にでもして家に持って帰ろう」
ナズチがため息を吐いて頷き、木を△(さんかく)になるようにまとめる。
私たちも手伝えればいいのだけれど、この中で木を持てるほどの力があるのはナズチだけなんだ。
ごめん。
――それから私たちは、ナズミの壺を持って町の酒場へと戻った。
次話もよろしくお願いいたします!




