◇はじまり◇
翌日、私たちは酒場の部屋に集まった。
受付さんは仕事で表へ。
私たちは〝女冒険者をどう攻略するか〟を考えることに。
「攻略って、恋戦略じゃないからね」
「え? ユーノさん、突然なに言ってるんですか?」
ごもっとも。
「さて、女冒険者をどうやって倒すか……とまではまだいかないんだ」
「……そうですね。情報が少なすぎます」
クラリスの言う通り、情報が微々たる量しかない。
倒すと言ったって、その冒険者の弱点や何をしてくるかがわからない。
正直、何をするかが分からなくとも弱点だけが分かればいい。
それだけで、策戦の全てを考えることができるからだ。
「死者を操る――聞いたことがないです。死んだ者を蘇らせるという伝説は聞いたことがありますが……」
「うん。私もびっくりした」
RPGなら蘇生があるが、そういう類のものではなかった。
言うなれば『ネクロマンス』。
ハズレ的な位置にあると一般的に言われているものだが……。
この世界では聞いたことがない。
「少し前に見かけた時は、町で日傘を差しておりました。もしかしたら、陽に関係があるのやもしれません」
そういえば……大きな日傘さしていたな。
よく覚えてるなぁ、ナズミ。
アンデッドの人間形態には陽の浄化作用がよく効くっていうし。
やっぱ頭いいのかも。
「確証はないけれど、可能性は十二分にある」
「そうですね。アンデッドを操る者でもありますから、陽に弱いという事はありえます」
そう言って紅茶を啜るクラリス。
陽に弱いのなら、陽が射さないあの森に誘い込むことにも納得がいく。
……間違いはなさそうだ。
「よし、それなら『陽の光に弱い』という過程を軸として考えよう」
「どうするんです?」
ナズチにも一緒に考えてほしい所だけど……。
前に〝そういうのを考えるのは得意じゃない〟って言ってたか。
対応力と予測の能力は優れているから、完全に戦闘向きなんだろう。
……防御の方面でだけど。
「恐らく、あの女冒険者は当分森から出ないつもりだと思う。だからその森で仕留めることにする」
「でも、あそこは快星の草原のど真ん中ですし、陽の光なんてそもそも――あっ」
「……クラリスの考えている通り。私たちは素晴らしいものを持っている。雲すら弾く、天気変動装置――今回の要はそれだよ」
「森の木々はどうするんです?」
ナズチが首を傾げる。
「うん……、ナズミ。この前机の上でやってた〝ナズミウェーブ〟って覚えてる?」
突然ふられて驚いたのか、ナズミはきょとんとしていた。
「あ、ええ。覚えています。シュパパッと」
「……あれ、もっと強くできるかな」
「なぜでしょうか」
「木を切る」
「…………ああ、空が見えるようにするのですね」
「その通り」
理解が早くて助かる。
「どのくらい切れる?」
「試したことはありません。偶々できたので」
あれ偶々でできるものなのか。
あのすごく細い斬撃波みたいなの。
「……後で試そうか」
「はい、ユーノ」
イエス、サーみたい。
いや同じだ。
ともあれ話が纏まってきた。
「今回はカミジとは全く違う。強いか弱いかではなく、いかに相手の意表を突くかにかかってると思う」
「死者を操るとなると戦力の幅が分かりませんからね」
さすクラ。
「さて、戦闘は臨時にしかできないけれど、決着の方法は固まった。簡単に言えば、『気を切倒して天気変動装置でアンデッドを殲滅する』こと。あとは、それをいつ実行に移すか」
「なるべく早い方がいいかもしれません。これ以上、相手の戦力を増やすわけにはいきませんから」
「そうだね、クラリス。明日か明後日か――今日中にナズミの技の威力を見て判断しようと思う」
「……ですね」
クラリスが微笑む。
「そもそもナズミちゃんは快星の草原に行けるんですか? この前は嫌がっていましたし……」
「確かに……ナズミ、大丈夫?」
ナズミが腕を組んで下唇を噛んでいる。
「が、我慢します」
「無理しなくてもいいからね……?」
「いえ、無理はしてません。わっちを壺に入れて持って行ってもらえるならなら大丈夫です」
そこまでしないとダメなのか。
一体何がダメなんだ。
「……よし、それじゃあ早速行こうか。私たちの住む森へ。まずは、ナズミの技能を見ないと」
その後、私たちは受付さんに事情を話し、酒場を後にした。
次話もよろしくお願いいたします!




