◇新たな敵◇
ふ、ふぃぃぃ……。
やっと出られた。
目印の1つや2つ付けるのって、冒険者の基本事項なのに。
小石でも蹴って、少しずつ道を残しておくんだった。
もう真っ暗だわ。
それにしても、快星の草原の夜ってこんなに綺麗なんだ……。
本当に草がキラキラしてる。
月光は雲で隠れているというのに、すごいな。
さ、早く帰らないと。
みんな心配しているかもしれない。
道中の魔物を刺激しないようにしながら、少し駆け足で行こう。
▽
「あっ! ユーノさん!!」
酒場全体に響くような声で、ナズチが私の名前を叫ぶ。
「し、心配しましたよ!」
私を抱きかかえるクラリス。
「ユーノ、おかえりなさいませ」
ナズミは相変わらずだ。
「いやぁ、森で迷っちゃって」
「もう……でも、無事に戻ってきてくれてよかったです」
ほっとしているのか、クラリスが「ふぅっ」と息を吐く。
「ユ、ユーノさん!」
「ああ、受付さん」
「いやぁ、無事に帰ってきてくれて何よりです。それで、何か情報は?」
「……座って話しましょう」
「それなら、私の部屋でお話しましょう! 丁度、今日の受付は閉じようと思っていた所なので!」
と言って、笑顔で手を合わせる。
その後、受付嬢が掲示板に『今日の受付は終了』の看板を取り付けた。
「さぁ、こちらへ来てください!」
私たちは受付嬢に連れられ、受付の裏の通路へ。
よく見る受付裏。
通路って調理場とか倉庫とかに繋がってるんだな。
……それにこの人の部屋、酒場にあったのか。
というかここに住んでいるのか……?
――完全に女の子の部屋だ。
ピンクと白が多いな。
私の真っ黒な部屋とは全く違う。
「今紅茶を持ってきます。適当にくつろいでお待ちくださいね」
そう言い、受付嬢は部屋から出て行った。
「わぁ、ベッドもありますよ。本当にここで住んでいるんですね」
座らずに部屋の中を見回るナズチ。
くつろいでと言われたんだけどな。
「可愛い部屋ですね……ほら、あのクマのぬいぐるみとか」
本当だ。シロクマのぬいぐるみがある。
デフォルメされてて可愛いな。
……なんでここに住んでるんだ。
「お待たせしましたっ」
受付嬢が、ティーカップを5つ、トレイに乗せてもってきた。
「ありがとうございます」
「それで、森はどんな様子でしたか?」
「ええと……一言で言うと、〝冒険者の死体だらけ〟でした」
「ど、どういうことですか?」
――私は森で見た内容を全て話した。
「――! なんと、あの冒険者さんが……っ!?」
「そうです。恐らく、その人が依頼主だと思います」
「酷い話ですね……。誘い出して争わせるなんて。すみません、私の責任でもあります。冷静に考えればおかしな依頼ですからね……。ただのアンデッド討伐で1000枚なんて」
「いえ、そんなことはありません。少なくとも受付さんは悪くありません」
「……ありがとうございます」
受付嬢が俯く。
正直、転生者にはもう会いたくなかった。
このまま4人で一緒に過ごせて、何もない平穏な日々を送れれば良いと思っていた。
……けれど、私が決めた道だ。
残虐な行いをこのまま見過ごしておくわけにはいかない。
やらなければ……。
「ではどうぞ、報酬のお金です」
受付嬢が硬貨の入った茶色い布袋を机の上に置く。
「クラリス、お願い」
「はいっ」
クラリスはポーチの中にその袋を入れた。
「それで、どうするんです?」
ナズチがそう訊いた。
「その人たちを倒す。これ以上の犠牲は増やしたくない」
「ですよね」
「それに……転生者だと思うから、益々ね」
私以外、皆驚愕した。
受付嬢はよく分かっていないようだが……その場に合わせたのか。
「みんな、もう一度手を貸してくれるかな。私の勝手で悪いけども……」
ナズチ、クラリス、ナズミは真剣な眼差しで頷いた。
「端から約束していたことですから。もちろんです」
クラリスが優しく微笑みかける。
「うん、ありがとう。みんな」
「あの……みなさん?」
そういえば受付さんのこと忘れてた。
「受付さんも力を貸して戴けませんか?」
「まぁ、私にもできることがあるのであれば……」
「感謝します」
私は頭を下げた。
「それじゃあ、詳しい話はまた明日。今日はみんな休もう」
――それから、私たちは4人は受付嬢さんと別れ、町の宿屋で休んだ。
さて、策戦を考えなければ。
次話もよろしくお願いいたします!




