◇意外な人物◇
うん、やはり森の中は暗い。
グロとかホラーとか結構耐性ある方なんだけど、それでもちょっと怖いな。
霊的なものが全て見えているというのは唯一の救い。
全部魔物だけれど、謎の安心感がある。
ちょっと分かりやすく言うなら、『幽霊の出る場所を知り尽くしたホラーゲームをやっている気分』だ。
『ヴアァァアアァ……』
うわ、本物のゾンビって凄い声出すんだな。
腐敗臭が凄い。息臭い。
前のホブゴブリンたちには、最初はアンデッド娘とか言われていたけれど……。
ちょっと心配になってきたな。
臭いとか付けておくべきだったか。
「――っ!」
ん……?
誰の声だろう。
奥から聞こえるな。
私は、足音をたてないようにしながら音のした方へ向かった。
「ふざけるな! これは俺が見つけたんだ!」
「黙れ! D級冒険者の分際で……!」
あれ、冒険者……?
男同士で何か言い争っているみたいだ。
「死ね! これは俺がもらう!」
「うるせぇ! テメェが逝け!」
2人は武器を取り、突然戦い始める。
何が起きているんだ……?
よく見ると人の死体がそこら中に転がっているようだ。
その中には、町でたまに見かける冒険者の姿も。
「くらえええぇぇ!」
鎧を身に纏った男が、軽装の男の隙を狙って剣を突き刺す。
「ぐへぁぁぁっ……!」
な、なんてことだ。
まさか他の冒険者も同じようにやられたのか?
軽装の男はその場に倒れ、ピクリとも動かなくなった。
「へへ、へへへっ……これで金は全て俺のモンだ――! あーっはっはっは!!」
金……?
ああ、もしやあの切り株の上の……?
切り株に置かれた大きな宝箱には、溢れ出るほどの硬貨が入っているようだ。
でも、なんか不自然だな。
「ぐへ、へへへ」
男が宝箱の硬貨を手で掬う。
「な、なんだこれは! 全然入ってないぞ!?」
大きな宝箱はただの見栄。
実際、硬貨は上に乗せられているだけで全然入っていないのか。
あの箱からは、人を欲望の渦に巻き込む悪意が見られる。
まさに〝罠〟か。
「ど、どういうことだ!? 俺は、こんなもののために仲間や冒険者を――」
男が頭を抱える。
おや、奥から誰か来たみたいだ。
頭を引っ込めよう。
『――うん、ご名答』
……あれ、どこかで聞いたことある声だ。
確かこの声――快星の草原に来ていたあのSS級冒険者の声では。
『いやぁ、熱いバトルをありがとう。やっぱ冒険者って凄いね。とても醜くて綺麗だったよ。その辺のアンデッドよりも』
町で見かけた時や、草原で話しかけられた時の印象とはまるで別人格だ。
「あ、あんた……。確かSS級冒険者の――!」
『うん? ああ、SS級ね。結構楽だったよ。アンデッド生成して自分で壊せばランクが上がるんだもの。今までの人生の中でこれほど楽なものはなかった』
「なんだって!?」
『……ねぇ、君も私のアンデッドにならない? アンデッドになれば、何も考えずにずーっと生きていられるんだよ? それほど楽しいことってないよねぇ……ね?』
「ひっ――!」
誰かが倒れた音がした。
尻餅でもついてしまったのか?
しかし、『私のアンデッドにならない?』という口説き文句はちょっと……。
私だったらナシかな。
『はーい死人のみなさん。お仲間を増やしましょうね。彼の勇敢なる行いを讃え、思う存分に嬲り殺して差し上げちゃってくださーい』
『ヴァアアアアァァァ!!』
「ひ、ひいいいぃぃぃぃ!」
足音がいくつも……。
冒険者の死体を操って、あの男冒険者を襲わせているのか……?
一体、どんな能力を持っているんだ。
「うわああああああぁ!」
グチャ――グサッ――と、生々しい音が聞こえる。
耳を塞ぎたい。
聞いていて気持ちの良い音ではない。
それにしても、なんでこんなことを――
『……よわ。なんだ、つまんないの』
『さすがは我が主』
ん、男の声……?
あの高身長執事系イケメソの声――なのか?
声は低いし、やけに掠れている。
あの顔から発せられる声とは思えないな。
これでは老人の声と同じだ。
『やっぱ地味だなぁこの技能……せっかく、くだらない人生が終わって【生まれ変わった】というのに、これじゃあ昔と全然変わらないじゃん』
『いえいえ。これも世界を掌握するのに必要な作業。少しずつ確実に進めていきましょう……』
ふむ。
あのSS級冒険者がこの件の主犯であるのに間違いはないようだ。
しかし、『生まれ変わった』と……私の嫌いな臭いがプンプンしている。
『世界を掌握』とかも言っていたし、見過ごすわけにはいかない。
だが、私がここで出て行っても、さっきの男冒険者のようにやられてしまうだけ。
……様子を見よう。
後で作戦を考えてからまた乗り込むことにする。
『主、次はあちらです』
『はぁ……わかったよ、もう』
女がため息を吐き、その2人はどこかへ消えて行った。
繁りから顔を覗かせてあたりを見回す。
よし、いないな――わっ!
そ、想像以上にキツイやられ方をしているな。あの男冒険者。
逃げようとしたけど、追いつかれて無残にやられてしまったのか。
飛び出しちゃいけないものが飛び出していて……うっ。
ちょっと吐きそう。我慢、我慢。
……私はこんなのいくらも見てきただろう。
冒険者になってからは、特に。
――さて帰ろう。
早くこの状況を報告しなくては……。
まずは、この森を無事に出れてからの話かな。
さて、どうやって戻ろうか……。目印でも付けておけばよかった。
とりあえず何となくで戻ってみることにしようかな。
次話もよろしくお願いいたします!




