◇死霊の森へ◇
次の日、私たちは町の酒場に来ていた。
例の依頼書の確認が主な目的で、小銭稼ぎに依頼を受けることがもう1つの目的だ。
「……まだありますね」
採取の依頼書を手に取りながら、横目で例の依頼を見るクラリス。
まだ達成されていないのか。
あんなに冒険者がいて誰もできていないとは。
「それにしても、今日は静かですね」
クラリスの言う通り、いつもの酒場の賑わいはない。
どうしたものか。
「あ、受付さん」
掲示板に依頼書を張りに来た受付嬢に声を掛ける。
「はいっ、どうなさいました?」
「そこの依頼書って、何の進捗もないんですか?」
「ああ……、そうですね。そもそも、受注した冒険者さんたちが〝誰も帰ってきていない〟ので、全く情報が入ってきません」
「……誰も帰ってきていない?」
一昨日のものだというのに……妙な話だ。
ウラがあるとは見切っていたがここまでとは。
「ああ、そうです! えーと……ユーノさんでいらっしゃいましたっけ?」
「そ、そうですけど」
持っていた依頼書を握りしめ、顔を近づける受付嬢。
「あなたにお依頼したいことがあります!」
「……は?」
「その依頼の場所……死霊の森を見てきていただけませんか?」
「え、なんで私なんですか?」
「だってその……見た目的に、潜入しやすいかなと……」
え、この人ちょっと失礼じゃない?
腕はないし火傷をしているからとはいえ、アンデッドのフリをしろってことなの?
「あの、ちょっと失礼ですよ。私これ結構辛いんですけど」
「す、すみません……。でも、様子を見るだけでいいのです。報酬は私が出します。硬貨20枚でどうかお願いいたします……!」
に、20枚?
ちょっといいかも。
それに様子を見て来るだけでいいのなら――
でもなぁ、うーん……。
「強制はしません。もしよければということなので……」
「……わかりました。やります」
決してお金に屈したわけではない。
ただ、冒険者が戻ってこないという事態を調べたいと思っていたからだ。
もう一度言うが、お金に屈したわけではない。
「あ、あ、ありがとうございます! それでは受付にいらしてください!」
受付嬢は持っていた依頼書を適当に張り、受付へと駆けて行った。
「……あの、ユーノさん?」
「なに、クラリス」
「大丈夫なんですか?」
「様子見だけだから、特に問題は無いと思う」
「そ、そうですかね……」
心配されているのかな。
「大丈夫。私だって冒険者の端くれ。危なくなったらすぐ逃げて来るよ」
「……では、わっちらは採取の依頼をしていましょう」
ナズミがそう言った。
みんな顔を曇らせているようだ。
ごめんみんな。すぐに戻ってくるから。
――それから、後で酒場で落ち合うことを約束し、私と3人で別れた。
今日は雲行きが怪しいな……。
少し、嫌な予感がする。
けれど私だって冒険者。
怖気づいてはいられない。
そう、お金のためならね。
◇
快星の草原……何度きても、なんでこんなにアンデッドがいるものか。
本来ならメルトスライムが結構いるはずなのに、最近は全然見かけない。
アンデッド種は攻撃をしなければ標的にならないはずだったよね……。
よし! 刺激しないように、今からアンデッドの真似をしよう。
「ヴェ」
発声の練習。
低い声って結構出るもんだな。
歩き方も死者系のアンデッドを真似て……。
ふらふらと酔っぱらったような足取りで歩く。
……うんうん、様になってきた気がする。
このまま死霊の森へ――さぁ見に行こう、何が起きているのかを。
そうして私は、快星の草原から死霊の森へと足を踏み入れた。
次話もよろしくお願いいたします!




