◇親スライムを仲間に◇
ちょっと長めです。
快星の草原――
一年中霧雨が降り頻り、草原全体が光に反射して眩いまでの輝きを放つ。
その光景がまるで、『星空が瞬く夜のよう』と表されたことから、その名がついた草原である。
夜は本当に綺麗だ。
ちなみに今は昼。
解説はこれまでにしておいて、ここにきた理由と目的は何かを説明しよう。
≪服だけを溶かすメルトスライムを探しに来た≫
端的に言うとこれだけだ。
スライムの性質上、雨水で体が溶けてしまうため、普通はこの草原に近づかない。
だが、それを知らなかったスライムたちが集い、溶けたもの同士が融合し、新たなスライムが誕生した。
そのスライムは、本来持ち合わせていた溶解液の効果を薄めて融合し生命を保ったため、鎧や皮膚を溶かす力を失ってしまった。
そうして誕生した下位互換のスライムを、俗に【メルトスライム】と呼ぶのだ。
私たちの目的はその一点。
メルトスライムを捕まえること。
そのスライムを使って、奴ら(主に女)の身包みを剥がしてやるのだ。
ぐへへ。
だが、スライムを1匹捕まえても意味がない。
戦力にするのであれば、細胞分裂のできるスライムを捕まえなければ。
分裂ができる〝親〟を探すのが手っ取り早い。
それを1匹飼うだけで、無限の戦力を得られるのだ。
そうなればこの上ないことだろう。
探すのは大変だが。
「それにしても、スライムどころかアンデッドばかりですね。ずっと見られていますよ。この草原にはアンデッドなんて出ないって聞いていたのですが……」
「そうなんです?」
「えぇ……本来であれば、南方に位置する死霊の森にいるはずなのです。最近はどうも、魔物の生態系が崩れているみたいでして……」
「へぇ……」
死霊の森なんてあるんだな。
初めて知った。
「そういえば、その服大丈夫でした? ブカブカじゃないですか?」
「あぁ、大丈夫です。腕が消えた今、私に合わない服はありませんからね」
――ドス・ブラックジョーク。
ナズチのパーカーを借りたが、案外ぴったり合うのだ。
ドクロが描いてあることもあって決してカワイイわけではないが。
少なくとも、着ないよりはマシだった。
今度、町で装備を調達しなければ。
――カラッ――カラッ――カラッ。
アンデッドの骨を鳴らす音が大きくなってきたようだ。
もしや、私のブラックジョークに反応したというのか。
「……! ユーノさん、あれを!」
……落雷? いや、変だな。
明らかに落ちる数が多い。
しかも、近づいてきているような……。
「ユーノさん、伏せてください!」
ナズチが半球状の防護壁を張った。
バキバキと音が鳴る。
防壁に雷が直撃しているようだ。
言われた通りに伏せたが、この強さでは壁が壊れるのも時間の問題。
かといって、私が何かをできるわけではない。
というか、もう1人で立てない。
「くっ……もうダメ……っ!」
ナズチは涙ながらにそう言った。
限界か……。
今度こそダメそうな気がする。
――ぷよっ。
うん……?
何かが身体に……。
って、いつのまにかメルトスライムがこんなに沢山!?
私を埋め尽くすほどのメルトスライムが……一体どこから!?
いや……これを逆手にとれば――!
「ナズチさん! 私の隣に寝転がってください!」
「えぇ!? 何を言っているのですか! 気でも狂ったのですか!! 走馬燈でも見えました!?」
違う!
「いいからお願いします! スライムで攻撃を防ぎますから!」
「……! は、はい!」
ナズチは私の傍に転がり込み、スライムを自分の背面と私の体に寄せ集めた。
なんだ、やりたいことが分かっているじゃないか。
そう、この緊急事態を防ぐ手段……それは、物理耐性を持つスライムに身体を覆われること。
これでどうにか防ぐことができればいいのだが……。
雷は、滞ることなく草原に落ち続ける。
少し痺れはするが、スライムで防ぐというのはかなり効力があったみたいだ。
なんと、無傷でこの天災を乗り切った。
……服以外は、無傷だった。
「ユーノさん……」
ナズチは、私に引っ付いたスライムを1匹1匹丁寧に剥がした。
「私は鉄製の装備だったので殆ど無害でしたが……」
ああ、具体的にはびん〇っちゃま状態だ。
「背中がスースーしますよ。ええ、ものすごく」
「よ、予備の服持ってきたので……」
「ごめんなさい、服溶かしちゃって」
「いいのです。それ、私がまだ幼い頃に着ていたものですので」
なんて寛大な子なんだぁ。
しかし、私のサイズでぴったりなんて、元から大きかったんだな。
「……あら、誰か歩いてきましたよ?」
ナズチが視線を向ける方には、ゆっくりと歩く3つの人影が。
「アンデッドは大体倒したかな。これで、アンデッドは皆逃げていくだろう」
「あんなに多かったアンデッドが一振りで……カミジくん、本当に凄いよ」
「うんうん、カミジさんなら、もしかしたらあの黒獄炎龍も倒せるかも」
「あはは、僕じゃあまだまだ無理だよ」
あの憎き3人組。
また謙遜しやがって、カミジの野郎。
って、この事態はお前らの仕業か!
「……見て! あそこ、誰かいるよ……!」
「もしかしてアンデッド……!? カミジくん、怖いよ……」
「大丈夫――下がって!」
カミジは剣を手に取って構えた。
「おい! お前らはアンデッドか!?」
目を付けられてしまった。
無駄に威勢がいい。
「肌の色変だし、もう片方なんて火傷まみれで腕がないし半裸だし……アレ、絶対アンデッドだよ、カミジくん!」
はぁぁぁぁぁ、あの女……。
やっと顔を拝むことが出来た。
水色のセミロング女。綺麗に整った顔しやがって。
絶対に地の底に落としてやるからな。
「確かに……人間とは思わしき容姿。どちらかと言えば、魔族か魔物に近い」
……ちょ、私らまだ何も言ってないんだが。
「早くやっつけた方がいいよ!」
おいポニーテール女っ! 余計な発言をするな!
「…………ユーノさん、絶好の機会です。復讐しましょう」
目を鋭くし、カミジを睨むナズチ。
どこをどう見たら絶好の機会なのか。
とりあえず、私の体を起こすところから始めてほしいものだ。
いまの格好はさすがに恥ずかしい。
私、これでも健気で純粋無垢な女の子なんだぞ。
「いや、やめておきましょう。戦ったらアンデッドと間違われてしま」
「――う、うぉおおりゃぁぁあ! パパの弔い合戦だぁぁぁあ! う、うわあああぁぁ!」
いつの間にか、一人勝手に泣き叫びながら、ナズチは木の棒を手に走っていた。
弱そうだ、限りないほど、弱そうだ。
「カミジくん!」
「ああ――! 覇楼剣よ、我が血を吸え――覇天剣壊!」
カミジが剣を一振りすると、大地が震えるほどの波動がナズチを襲った。
「きゃあああああぁぁああ!!!」
「ナ、ナズチさん!!?」
ナズチは遠くに吹き飛ばされ、草原に強く叩きつけられた。
「よし、あいつも――」
「カ、カミジくん……! 変な粘液が私の足に――く、靴が溶けてる……!?」
「え――!? うわ、本当だ!」
……おや? 風向きが変わったようだ。
「か、帰ろう? もう依頼は終わったし、こんな気持ち悪い生物が出る草原にいたくないよ」
「そそ、そうだね……特に用はないからもう帰ろう」
そのまま、何事もなかったかのように、カミジ一行は走り去ってしまった。
……そ、そんなことよりも、ナズチがヤバい!
あんな攻撃を間近で受けて……。
さっきから何の動きもないし、もしかしたら、もう――!
「ふぅ、危なかったです」
……あれ?
後ろからナズチの声が……。
いや、まさかもう幽体に――自分が死んだことも気づいていないなんて……!
フードの紐を首に結んで裸エプロン状態にしておいて、1人で幽体に――!
「どうしたのです? そんな悲し気な顔をして」
「う、うぅ、ナズチさん……私嬉しかったです。復讐をすると心に決めた同士ができて……。でも…………ナズチさんはもう……! 死――」
「え、どうかいたしましたか? 私、この通りピンピンに生きていますよ。この子に助けられたのです」
え?
私の前にきたナズチは、抱えていた何かを私に見せた。
それは、メルトスライムだった。
それも、親。
どうにも都合が良い展開だったが、親を見つけたのなら関係ない。
見つけたもん勝ちだ。
「あ、あはは、てっきり勘違いして……って、それ! スライムの体にバツが描いてあるの、親スライムですよ!」
「え、そうなのですか?」
親スライムには、体に何かしらのマークが現れているという。
それがバツでもマルでも、それが親スライムであるという根拠になるのだ。
「よし、その子連れて帰りましょう。見たところ、ナズチさんに懐いているようですし」
「……はい!」
そうして私たちは、快星の草原を後にした。
次話もよろしくお願いいたします!(誤字があれば報告していただけるとありがたいです!)




