◇天気変動装置◇
朝食を済ませて宿屋から出た私たちは、町の道を歩いていた。
「いいですねぇ……私も一緒に寝たかったです」
片頬をぷくーっと膨らませるナズチ。
「わっちもです」
うーん、ナズミはちょっと別かな。
……ナズミには宿屋の店主に借りた壺の中で寝てもらった。
布団が溶けてしまったら、宿屋に迷惑がかかると思ったからだ。
2人とも、今回ばかりは許してほしい。
「昨日は凄かったですからね」
クラリスが私の顔を覗き込む。
変な誤解を生むからやめて。普通に寝ただけだから。
あと見ないで。特に目は見ないで。
「え、ナニかしたんですか?」
反応しないで、ナズチ。
「ふふっ、何もしていませんよ」
濁らせないで。
「それはとうと、今日はどうします?」
クラリスが上目で空を見ながら手を顎に当てる。
「うーん……。今日は休もう。お金も集まっているし、あとは昨日の依頼についてだけだから」
「そうですね!」
笑顔でそう返すクラリス。
夜のこともあってか、色々と気持ちがスッキリした。
無駄なことはごたごた考えない方がいい。
余計に自分を追い詰めてしまう。
「家に帰ろっか」
そうして、私たちは森へ戻った。
◇
家に着いた私たちは、紅茶を飲みながら話をしていた。
私はどちらかと言えば、飲ませられながらであったが。
気が付くとお昼になっていたので、私たちは適当に昼食をとった。
昼食を食べ終えた私は布団の上で寝転んでいた。
――するとナズチが、
「そういえば、これってなんでしょうね? 頂いたまま使っていませんけど」
部屋の隅にあった箱から球体の機械を取り出す。
あぁ、あのエルフからもらった機械……。
そういえば、まだ使っていなかったな。
「天気変動装置っていうくらいだから、おそらく天候をどうこうする機械なんだろうね」
自分で言っていてなんだが、同じ言葉を2回繰り返しているような気分。
『むしろ、それしかないんじゃ』って思われてそう。
「サンノレ……鉱石でしたっけ? これをその中に入れると――とか言っていませんでしたか?」
ポーチから鉱石を取り出したクラリスは、球体の機械の透明な蓋を開け、鉱石を機械の中に入れる。
「何も起きませんね……」
「うーん……あっ」
裏側にボタンが。
「その裏のボタンじゃないかな?」
「あ――気づきませんでした」
クラリスは照れ笑いをしながらそのボタンを押した。
……押すや否や、球体から光る何かが真上に放出される。
その何かは、小屋の天井を突き破って空へと舞い上がった。
まさに、絶句。
「…………な、なにが起こったのです――?」
クラリスの手が震えている。
世界を滅亡させるボタンでも押したのかというくらいに、震えている。
「あぁ、屋根が……」
それよりも壊れた屋根を気にするナズチ。
「外へ行ってみましょう。空の様子が気になります」
一方、冷静なナズミはすぐ外に出て行った。
「……ここで見る限り、特に変わっている感じはないですね」
ナズチが、穴の開いた部分から空を見る。
確かに、特に変わった気はしないな……。
「行きましょう」
私たち3人は顔を見合わせ、同時にうんと頷く。
▽
外へ出ると、ナズミが空を仰ぎ見ていた。
「みなさま、空をご覧くださいませ」
空を見るも、特に大きな変化は――
「雲が、このあたりの空を避けていっていますよ」
……ほ、本当だ。
決して範囲は広くはないものの、円をつくるように避けている。
風の影響を受けていないのか。
それに、さっきより陽の光が強いような――
「す、すごいですね。陽の光みたいです」
あれ、屋根を突き抜けていった光か。
「うん……すごいよこれ」
他の感想が出てこない。
しかしあのエルフ、なんでこんな道具を?
サンノレ鉱石を機械に入れると空が雲を避けて陽が出るとか……まるで意味が分からない。
うーん、今度ナズミのコスプレ写真を見に――ああいやいや、ナズミのことに関して怒鳴りにいこうと思っていたのだが……。
これでは怒りづらい。
それにしても、神秘的だな……この光景。
空から女の子が落ちてきそうだ。
□
「あっ」
陽のような光が空で砕け散った。
それを機に雲がいつも通りの流れになり、空がオレンジ色に染まる。
もう、夕方なのか?
体感的には数分だったのだけど……。
「神秘的でしたね……」
胸に手をあてるクラリス。
「……うん。ずっと見入ってた」
何時間見ていたんだろう。
「もう夕方なんて……気づきませんでした」
ナズチはまだ空を見ている。
「そろそろ家に入りましょう。冷えてきましたし、風邪でも引いたら大変です」
「うん、そうだね」
私たちは小屋に戻る。
が――1つ、重要なことを忘れてしまっていた。
「あれ、なんか風が――あぁ! 屋根が!!」
――そう、屋根が壊れていたということに。
ナズミの粘液で穴を塞いだが、これはただの応急措置。
正直、結構隙間風が入ってくる。
明日にでも直さないと。
……結局、夜はみんなで体を抱き寄せ合って眠ることに。
ナズミは壺の中であったが、壺を布団の上に置き一緒に寝ているような雰囲気で就寝。
今朝のナズチとナズミの夢が叶った。
今度、スライムの粘液で溶けない布団を買ってきてみんなで寝よう。
そんなことを思いながら、私はゆっくり目を閉じた。
次話もよろしくお願いいたします!




