◇SS級冒険者◇
翌日、私たちは朝から酒場に来ていた。
丸いテーブルを4人で取り囲み、1枚の依頼書を見つめる。
内容は、
『――快星の草原・アンデッド討伐』
「魔物の討伐ですか……?」
ナズチは恐々としているようだ。
「うん。カルドナ硬貨10枚だし、少し倒すだけでいいからね」
「わ、わっちはあの草原には行きたくありませんよ」
目を瞑り、可愛らしく首を振るナズミ。
嫌な思い出……といったら、ナズチが解体した件が大きいのかな。
それとも雨水がダメなのか?
メルトスライムって、多少の雨水なら大丈夫じゃなかったっけ。
「雨が嫌なの?」
「……色々です」
色々……?
「行くのであれば、わっちはここに残ります」
うーむ、他にも魔物の討伐依頼があればよかったのだが……。
ここらへん、平和だからなぁ。
それに最近はアンデッドの討伐依頼しかないし。
「うーん……仕方ないか」
本当は、みんなで連携をとって魔物と戦ってみたかったが……。
「じゃあ、ナズミを預かってくれる人を見つけないと」
「あっ」
クラリスが手をポンと叩いた。
「昨日の鑑定士さんのところなんてどうでしょう? ナズミちゃんは歓迎すると言っていた気がします」
ああ……そういえばそんなこと言ってたな。
「そうしよう」
――受付で依頼書を承諾してもらい、昨日の鑑定屋へ。
「……あら、いらっしゃい。今日はどうしたんだい?」
何かの機械を弄っているみたいだ。
「少し、頼み事がありまして」
「うん? 今日は鑑定じゃないのか」
隈ができている。
寝不足なのか?
「この子、ちょっとだけ預かっていていただけませんか?」
クラリスがナズミを前に出す。
「なんだ。そんなことか」
「預かっていただけます……?」
「うん、いい」
エルフが小さく微笑む。
やはり、普通にいい人だ。
それから、ナズミを鑑定屋に預け、私たち3人は鑑定屋を後にした。
「大丈夫ですか? あの人」
「うん。悪い人ではないと思う」
ナズチは心配しているようだ。
「わぁ……すごいですね、あの人たち」
――道を歩いていると、唐突にクラリスが立ち止まった。
クラリスの視線の先には、2人の男女がいた。
男性は執事のような恰好をして、大きな日傘をさしている。
その手前には、赤いドレスを身に纏った素敵な女性がいた。
可憐というよりも、大人びた魅力的な女性だ。
「綺麗な方ですね……。思わず見とれてしまいます」
私たちの前を通り過ぎ、その2人は酒場に入って行った。
「酒場……? まさかとは思うけど、冒険者なのかな」
お嬢様のような人が冒険者とは……意外だ。
町の人々が今の女性を追いかけるように酒場に入って行く。
『たしかあの人――SS級の冒険者だよな?』
『ああ、美人で強いなんて羨ましい。あの隣にいる男か傘になりてぇ』
男2人がそういいながら、私たちの前を通り過ぎる。
「す、凄いですね」
「うん……。凄く凄い」
――それから私たちは快星の草原へ向かった。
町近くの草原、魔物が全くいない。
平和過ぎて逆に恐ろしい。
◇
「うわぁ……そこら中にいますよ。骨系に霊魂系、死者系……全部います」
私が先週来た時よりも酷い状態になっている。
「実際に見ると、やはり迫力が違いますね……」
ナズチの背後に隠れるクラリス。
「まぁ……全部倒せとは言われてないから、多少は……ね?」
私たちの依頼書は低級難易度。
少し倒せばいいだけなのだ。
討伐数は魔石式計数機で数えられる。
ナズチが腕に付けている腕時計のようなものだ。
「20体ですけどね……」
クラリス小さく息を吐いた。
「……さて、倒しましょうか! で、どうやって倒しましょうか」
瞬時に思考を放棄するな。
「一応、体アンデッド用の魔法はあります。でも……全く使っていなかったので期待はしないでくださいね」
クラリスが前に出る。
「えー……ホーリーバニシ!」
何も起こらない。
「あれ……? ホーリークラッシュ!」
……何も起こらない。
「うーん……ホーリーラップ――」
私の知っている魔法と違う。
「〝ターンアンデッド〟では」
「ああ、それです! ありがとうございますユーノさん! ターンアンデッド!」
すぐ近くで歩いていた骨系のアンデッドが、光と共に抹消された。
「おぉ、さすがクラリスさんです」
よいしょする人違うでしょ。
「あとこれを19回――」
「む、無理です! 魔力が足りません!」
クラリスは既に少し息切れしていた。
できてもあと1、2回か。
「よし、それならこうしよう。私がアンデッドを倒すから、ナズチさんは私に防壁を。クラリスは私に行動速度の支援魔法を」
「分かりました!」
「はい!」
ナズチが私に防壁を付与し、クラリスが支援魔法を唱える。
よし、私の体力が続く限りはこれで倒せるだろう。
「攻撃されたら回復お願い!」
そう言って、アンデッドの群れに1人で突っ込んだ。
1――まずは骨系。
足を下段蹴りで壊してから、胴体に一発蹴りを入れる。
2――次に霊魂系。
薄く見える小さな核を的確に狙って回し蹴り。
3――死者系。
まずは下段蹴りで転ばせてから、頭を踏み潰す。
4――5――6――間髪を入れずに倒し続ける。
そして、私はアンデッドの群れ――計12体を何とか倒しきった。
「はぁ……はぁ……」
さすがに疲れる。
……アンデッドの別の群れがこちらに向かってきているようだ。
防壁があるとはいえ、体力がなくなれば意味がない。
10、20……いいやそれ以上。
さすがにこの量を1人で捌くことはできない。
一旦引くか――
『――ディ・ターンアンデッド!』
どこかからか、聞き覚えのない女性の声が聞こえた。
黒い柱が何本も立ち、周りのアンデッドが全て消滅した。
『さすが主――』
振り返ると、そこには町でみかけた〝あの2人〟が。
「あら――あなたは?」
緑色の目をした綺麗な女性――
まさか、話しかけられるとは。
「わ、私はただの冒険者です」
「同業者の方でしたか。すみません、驚かせてしまいました?」
「い、いいえ」
余裕が見られる振る舞いだ。
「ユーノさーん! 大丈夫ですかー!?」
ナズチとクラリスが手を振りながらやってきた。
「おや……お仲間さんがいらっしゃるのですね。それでは私は失礼します」
そう言い、男性と共に歩いて行ってしまった。
あれが本物のSS級冒険者――
超緊張した……。
「ユ、ユーノさん!」
クラリスが私の体を揺さぶる。
「あ、いや……ごめん。あの人すごいなぁって思って」
「そうですけども……」
「あんな風に強くなりたいな」
「思うのはいいですけど、まずは目の前のことから済ませましょう?」
「……そうだね」
その後、私たちは残りの7匹を何とか倒し、酒場で依頼達成の手続きを終わらせた。
――さて、ナズミを迎えにいかないと。
あの鑑定屋に行こう。
次話もよろしくお願いいたします!




