◇叶った願い◇
1章外伝最終話です
寄生した後、服を着直して森へ出ました。
その前に、クラリスにはどのような口調でいけばいいかなどを教わりました。
ゴブリンを殺した男に対してはどのような発言をすればよいか、メルルという女性の対処方法なども教わりました。
魔力減殺……これを、強力魔法の使用前に使うのだそうです。
――ドオオオオオォォン!
――っ!?
ば、爆音が……?
ゆっくり歩いてはいられません。
急がねば。
◇
草原に着くと、女と男がユーノたちに囲まれていました。
紫髪の女性――メルルが、杖を構えて震えていました。
カミジも共にいるようです。
『――メルル、やれ!! 俺のことは構わないでいい!』
……何か、嫌な予感がします。
メルルが魔法を唱えようとしているのやも。
止めなければ。
わっちは焼野原を駆け、メルルを止めに行きました。
「――――待って!」
杖を掲げた瞬間に大声をあげ、メルルの詠唱を止めました。
危機一髪、危なかったです。
「……待ってください、メルル。お願いします」
「ナ、ナズミ!」
と、目を大きく見開くユーノ。
遅れてしまい申し訳ありません。
「ク、クラリス……? なんで……」
カミジ――
わっちはあなたを許しませんよ。
「……ごめんなさい、カミジくん。森であんなに頑張っていたのに、私……気を失っちゃって」
「い、いや――それよりも、何でここに」
「実は、カミジくんに伝えたいことがあったの」
「え……なにかな?」
その照れ顔殴りたいです。
クラリスに言われた通り、まずはアゲますか。
「私、カミジくんのこと……好きだよ。出会った時から今まで、ずっと」
どうです、わっちの演技力。
「――! ……そうか。なら、こっちに戻って――」
「――ふふ、ふふふふふ」
メルルが不気味に笑っています。
「あは、はは、あははは……、なんで戻ってきたのかなぁ……。もう、ずっと戻ってこなくてもよかったのに……」
「ど、どうしたんだ、メルル」
「クラリスさえいなければ、私はずっとカミジさんの傍にいれる……。何が貴族の子? 出会った時から? ふざけないでよ。私はその前からずっと、カミジさんと一緒にいたんだよ?」
貴族?
そんな話ありましたか?
「クラリスが戻ってこなければ、私たちは2人きりだったのに。何で今更戻ってきたの?」
「メルル――何を言っているんだ!?」
「クラリスなんて、ここで死んじゃえばいいんだ。そうすれば、私がカミジさんと――! あは、あははは、はははははは――!」
「やめろ、メルル!」
再び、杖に魔力を集中させている様子。
さて。
「我が咒力をもって命ず。エクスプ――」
「それを待っていました! 魔力減殺!」
今だと思い、わっちは魔力減殺を使用しました。
「ロー、ジョ……ン…………」
メルルは倒れました。
素晴らしい技能ですね。
「ふぅ、危なかったのです」
「ほ、本当に……ナズミなんだよね、ね?」
「(……ええ)」
遠くから駆けてきたカミジが、私の足元に。
「ク、クラリス! ありがとう! まさかメルルがあんな怖い奴だとは思わなくて……」
さぁ、サゲますか。
「ねぇ……カミジくん」
「どうした?」
「私、さっき言ったことで訂正しないといけないことがあるの」
「へ?」
「さっき、『好きだよ』って言ったけど、あれ、好きだったよに訂正させてくれるかな」
「な――っ!」
「私ね、この人たちと一緒にいようって決めたの。今までできなかったことができるし、それに――凄く楽しいから!」
「ク、クラ、リス……?」
ふっふっふ、面白いことをしてやりましたよ、ユーノ。
――その後、カミジは装備を壊されたり脱がされたりしました。
ユーノの要望で、私たちはメルルを持って後方へ。
下着をつけたカミジを、ユーノがボコボコにしています。
気分爽快です。
◇
戦いを終え、帰路につきました。
……どうしましょう。
いつ始めればいいのか……。
「それはそうとナズミちゃん。もう洗脳を解いてもいいのでは?」
ナズチ、ありがとうございます。
「……そうですね」
よし、脱ぎましょう。
服が溶けてしまってはいけません。
「ゴブリンさんたち! 少しの間あっちに行っててください! ここは今、女の子の領域ですから!」
……へ?
ナズチがゴブリンを押して森の奥に行ってしまいました。
一体なぜ……。
「い、いいでしょうか?」
「うん、大丈夫。これからは気を付けよう」
「は、はい……」
よく分かりません。
それから、普通に服を脱ぎ終えたというのに、ユーノの鼻からは血が。
クラリスから抜けた後も、血が。
〝大丈夫か〟という問いかけに、「うん、大丈夫じゃない」と支離滅裂なことを言っていた気がします。
ご馳走様、とも言っていましたか。
程なくして、わっちは皆を呼びました。
さ、ここから始まりです。
抜ける際に粘液を残しました。
クラリスからは『よろしくお願いしますね』とまで言われました。
緊張は特にしません。
ただ、期待はしております。
わっちは皆の前に出て、クラリスの病気のことなどを話しました。
……実際にやってみると、罪悪感が多く積もりますね。
騙す気分、とはこのことでしょうか。
皆、涙を流しています。
クラリスの願い通り、土葬の意を皆に伝えました。
どこにあったのか、ゴブリンたちやナズチがスコップを取り出し、穴を掘り始めます。
掘った穴にクラリスを丁寧に入れ、土を少しずつ穴に入れていきました。
とても、現実離れした光景です。
生きている人を埋めるなどと……。
あっ、クラリス。今少しニヤっとしましたね。
ダメですよ、黙祷までは笑ってはいけません。
「……皆さま、黙祷しましょう」
皆、頭を下げて目を閉じました。
1、2、3――これにて〝土葬完了〟です。
クラリス、堪えきれずに笑っています。
何が面白いのか分かりません。
確かに、非現実的ではありますが……。
わっちとしては、笑いというより〝絶句〟というか、何というか。
クラリスの笑声が大きくなり、皆に気づかれました。
皆、「え!?」と驚愕しておりました。
「ふふ、作戦通り。土葬――やってみたかったことリストの1つです」
嬉しそうですが、かなり不謹慎ですよ。
……本当に亡くなってはいませんから、まだ許されるでしょうか。
「ナズミちゃん、ありがとうね」
「……ええ、クラリスの夢が叶って何よりです」
このまま、わっちの夢も叶ってほしいです。
「ナズミ――どういうことなの!?」
わっちはクラリスの顔を見ました。
……素敵な笑顔です。
「ふふ、秘密です。ね、ナズミちゃん」
「ええ、秘密です」
すると、ユーノが小声で何かを言い――
子どもっぽく、落涙しながらクラリスに飛びつきました。
ああ、叶いました。
「――クラリスのバカあああっ!」
……可愛らしい1枚をありがとうございます。
わっちの願い、叶ってよかったです。
ユーノの嬉しそうな泣き顔を見れて――
……ドッキリをしてよかったです。
――皆、輝かしい涙を流しております。
このようなあたたかな場にいれること……わっち、誇りに思います。
出会った時からこの瞬間まで――そして、これからも幸せに過ごしたいです。
共に、楽しく尊い一時を過ごしていきましょう。
よろしくお願いいたしますね、みなさま。
――大好きですよ。
―1章外伝 終 ―
1章の外伝が終わりました。ナズミのこと、少しだけでも知っていただけたでしょうか。
さてと、次からは2章(本編)です!




