◇とける心と秘密の話◇
外伝なのに長めです。おかしい。
朝、ユーノに起こされました。
すぐに作戦の会議を始めるとのこと。
クラリスも参加する模様。
わっちを助けてくれた心優しきお方です。
会議はクラリスの一声から始まりました。
とても元気なご様子で、ユーノは少々戸惑っているようです。
捕らえられた身であるはずなのにご飯を作ったり、自分から挙手をして情報を提供したり……。
どうも、特殊なお方ですね。
「スライムを全身に!? バカなことを言うな! 装備が――」
また言い争っているようです。
「――ならいいのだが……」
話はすぐに決着したみたいですね。
「ナズミ、スライムの調子は?」
ユーノが私を見つめます。
「12匹いますよ」
壺を逆さにし、中にいるメルトスライムを床へ落としました。
作っておいてよかったです。
一晩中、休憩を挟みながら分裂していた甲斐がありました。
そのおかげで、少々寝不足ではありますが……。
「ナズミには、スライムに指示をして皆を覆ってもらうように言ってほしい。ああでも、私にはやらなくていい」
……へ?
なぜでしょう。
ユーノにもやった方が――
いや、何かを決心している……?
「……はい、承知しました」
「ユーノさん、私はどうすればいいですか?」
首を傾げるクラリス。
自分なりに手伝おうとしているのですね。
「――ナズミに体を貸してほしい」
……ユーノ?
何を――
「そ、そうですよね。私じゃあ信用できませんからね。分かりました、お貸しします」
クラリスまで……。
わっちに体を貸すなど、不要なのでは。
まさか、クラリスが裏切るなど――
…………。
あぁ、ダメです。
深く考えてはいけません。
疑心暗鬼は敵です。
クラリスはお優しい方。
その事実に偽りはないのです。
――はっ。
そんなことを考えているうちに会議が終わってしまったようです。
答えの出にくいものを考えていると、時間の流れが早く感じます。
数分後、ユーノに何かの指導をし終えたクラリスが服を脱ぎました。
服を丁寧に折りたたみ、角が揃うように重ねております。
几帳面です。
「……ではどうぞ、ナズミさん」
正座をしたクラリスからは、先ほどの元気なお姿が想像できません。
覚悟を決めたと、そのような面持ちです。
本当にいいのでしょうか。
わっちはユーノに尋ねました。
ユーノは「うん」と、肯いていました。
わっちは、体を少しずつ溶かしながら、クラリスの体を包みました。
口や鼻、目などは塞がず、毛穴から体内に侵入するのです。
時間をかけて、時間を掛けて――
◇
気が付くと、何やら真っ暗な場所にいました。
どうなったのか、確認することすらできません。
「クラリス……?」
返答はありません。
ですが、声は響くようです。
突如、パッと明るくなりました。
ほんのりとしたピンク色のモヤがある空間――
わっちは浮かんでいるようです。
ここは一体……。
「……驚かせてしまってすみません」
後ろからクラリスの声が。
「メルトスライムは、〝寄生〟ができますよね。知っていました」
「…………」
寄生――
メルトスライムになってからの新たな能力のことですね。
生物の体内に入り、その生物を制御する。一種の洗脳みたいなものです。
「潔く受け入れると変に疑われてしまうのでは――そう思ったので、少し引き目に演技したのですが……いかがでした?」
なんと、あれは演技でございましたか。
一体どういったおつもりで。
「一切気づきませんでした」
「……騙してしまったようで申し訳ありません」
「いいえ、そのようなことはございませんよ」
クラリスは胸に手をあてました。
「――実は私、少し患っておりまして」
「……ご病気ですか?」
「はい。父から、『お前は外に出るべきではない』と言われ、子どもの頃から家だけで過ごしてきたのです」
「なんと」
ママみたいです。
「重い病気であったようで、毎日服薬していました」
「……毎日? しかし――」
「家での生活に嫌気がさし逃げてきました。でも……、途中で落としてしまったのです、薬を」
「そ、それは大変です。探しに行かねば」
「いえ、今はそんなことをしている暇はありませんし――それに伴って、ナズミちゃんにお頼みしたいことがあります」
「……なんでしょうか」
「私の体内に、ナズミちゃんの粘液を残してほしいのです。あと、これから定期的に粘液をください」
「……え? 何を仰っているのです?」
どういった状況なのでしょうか。
「メルトスライムには治癒能力が――ありますよね?」
「……はい」
――もしや。
「私の病気、それで治せないかなかと」
思った通りです。
「治せるかどうかは分かりませんが、薬を探すよりもいいかなと」
「……身体的に影響はないのですか?」
「ちょっと心配ですが……、ナズミちゃんが溶け込んだ時から、胸の痛みが少し和らいだ気がしたのです。どうか!」
クラリスは頭を下げました。
ふむ、困りました。
スライムであったことを考えると、〝わっちの粘液には害がない〟ことを断定できません。
痛みが引いていると仰っていますが――
逆に負担をかけてしまう可能性だってあるのです。
ですが……、命を助けてもらった身でもあります。
聞き入れないわけにはいきません。
もしものことがあったら――私が責任を取りましょう。
「……分かりました」
「やった! ありがとうございますね、ナズミちゃん」
クラリスが嬉しそうに両手を上げています。
「それともう1つ、お願いがあります」
「ま、まだあるのですか?」
「ええ。私、≪人生で一度はやっておきたいものリスト≫というのがありまして――」
え。
「最終的には全てやりますが、今回は、土葬をしてみたくて」
え。
「なな、何を言っているのですか。気でも狂ったのですか?」
「気は狂っていませんよ」
気、は……?
「ただ、そのためには入念な準備が必要なのです。本物の死人らしさ、そこに溶け込む感情移入の度合い、どこまでやれば〝土葬〟になるのか……。様々な要素が絡んできます」
あれ……。
話の方向が直角に曲がっていませんか。
わっちには、横向きの矢印が急に垂直に折れ曲がったように感じたのですが。
「そこで、ナズミちゃんには演技をしてもらおうと思います」
「は、はぁ……」
「ドッキリでもあり、私の夢を叶えるためのものでもあります」
「ふむ……」
「ですが、こういうことをあまりやったことがなくて……。私もう……長くないんです、笑いを堪える時間」
……まさか、わっちがいるせいでこのようなご発想を。
おかしくなっているのかもしれません。
「すみません、一度抜けましょうか」
「ああ、いやいや、その……え? 待ってください! 行かないで! 私が行けば私的な感情が入ってしまうかもしれませんし、ナズミちゃんに途中までは任せたいです」
「むぅ……」
「ナズミちゃんが抜けた後、私の病気のことなどを話して場を繋いでください。ああでも、私、笑いを堪えるの長くはもたないかもしれないので、視線を逸らすために皆さんの前に出て話してください」
「あの……今の状況、理解しておりますか?」
「もちろん」
笑顔です。それも満面の笑み。
本当でしょうか。
今から戦いに行くというのですよ。
どういう感情なのですか。
「それから、皆さんに『全てが終わったら、私を土の中に埋めてほしい。私のことは気にせず、これからもみんなで楽しく生きて――ありがとう』と伝えてください。さて、次に土葬です」
「ふむ」
「土葬は、穴を掘って体を穴の中へ入れる、それから体に土をかけます。そして、顔を出したまま黙祷する――ここまでが手順です。あくまで家の風習ですが」
「なるほど」
――はっ! 何を真面目に聞いているのでしょうか。
「本来は埋め終わって終了ですが、さすがに埋まりたくはないので、そこまでで土葬完了としますね」
「おぉ」
――いやいや、何を真面目に聞いてしまっているのですか、ナズミ!
しっかり気をもってください!
「お説教を受けてしまいますよ!」
「そうでしょうか?」
「ええ」
少し考えればわかるでしょうに。
ユーノからはどれだけ怒られるか……。
それにユーノがまた泣いてしまっ――
……いや、そんなユーノを見てみたい気が――
あの時の、わっちの心配をしてくれた時のユーノ――
子どものように泣く愛おしいユーノを見たい。
いけません。思考が麻痺してまいりました。
で、でも少しくらいなら――?
「――ナズミちゃん。これ、私たちだけの〝秘密〟ですよ」
「はふっ!」
「お手伝い、してくれますか?」
「はぁ、はぁ……。わかり、ました……」
い、意志とは別に、勝手に口が動いてしまっただけなのです。
わっちは悪くありません。
決して〝秘密〟などという単語に惹かれたわけではありません。
「それでは、私に完全な寄生をしてください。行きましょう、戦いの場へ」
「……ええ」
しっかりしているかと思いきや、割と振り回されやすい子。
次話もよろしくお願いいたします!(誤字があれば報告もお願いします)




