◇腕は消えたが仲間ができた◇
家に運び込まれた私は、数時間治癒魔法を掛けられていた。
瞼を開くのすら激痛が走っていたが、今は殆ど痛みが引いた。
それに漸く私を助けた女性を拝むことができた。
どうやら、私は魔族に助けられたようだ。
しかし、肌が緑色の見たことのない魔族だった。
うむ、そんなことよりも重大なことがある。
私の両腕がお失くなりになったのだ。
魔族の女性に訊くと、両腕だけはどうしても治癒できなかったらしい。
神経も筋繊維も焼け落ちていたらしく、「どうせ痛みは感じないだろうし、斬り落としちゃおう」という判断に至ってサクッと斬ったとか。
「ここまでの重傷でよく生きていたのだから、運がいいのですよ」とも言われた。
そもそも、あのパーティに見つかりそうになったこと自体が不運だったのだ。
私の存在に感づいたあのポニーテール女は絶対に許さん。
「あ、あの、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか? あ、えっと、私ナズチと言います……」
緑肌の女性――ナズチは、太腿の間に両手を挟んでもじもじしていた。
「私ユーノって言います。助けていただきありがとうございます。死ぬかと思いました。いや、一瞬死んでいたかもしれません。なんか一輪のお花が見えましたし」
「そ、そうですよね……あんな無残な姿で倒れていたんですもの。もしかして……最近現れたSS級の冒険者にやられてしまったのですか?」
あのカミジって野郎がSS級の冒険者……?
いや、普遍的か。
力だけで言えばSS級なのは間違いない。
「ええと、たぶんそうです」
察しが良いな。
「魔物や魔族だけでなく、人間の子までにも非人道的な行為を働いているのですか……。SS級というのはただの肩書でしかありませんね」
「確かに。何がいるかとか確認もしなかったし。それにしても、何故私がそいつに襲われたと分かったんです? 何も言っていないのに」
何気なく訊くと、俯いて突然泣き出したナズチ。
一体どうしたというのか。
「実は私、つい先ほど片親を殺されてしまったのです」
「えっ、それってまさか……」
「……ご存じでしたか。――豪傑豚」
「…………」
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
豪傑豚。
あのカミジって野郎が「大したことない」と吐き捨てていた魔物……。
この子って、あの豪傑豚の娘なのか。
しかし、人間のような体のつくりは、何度見ても違和感を覚える。
「えぇ、まぁ、知っています。これでも一冒険者ですから」
吐き捨てられていましたし。
「私はあの冒険者が憎いです。私の父を焼き殺しておきながら、こんな少女にも容赦なく手を出すなんて……私、許せません!」
ナズチは、どこかからか取り出した絹のハンカチで涙を拭い、椅子から立ち上がり拳を握りしめた。
あぁ、そうだな……『こんな少女』とはどういう意図で言っているかは詮索しないが、丁度私もそう思っていた所だ。
「よかったら私と一緒に復讐しません? 丁度私もそう思っていたんですよ。他もですけど、まずはあれにお仕置きしてやろうと思って」
「……! いいのですか!」
「もちろん」
「やったー! 〝テンセイシャ〟という言葉は分かりませんが、仲間ができたことは嬉しいです!」
ナズチは両手を上げて喜んでいた。
少し大人びた感じがあったが、子どもっぽい面もあるんだな。
「えーと、ユーノさん! それで、どうやって復讐するのですか?」
と、笑顔でウキウキしながら私の手を握りしめた。
……やはり何も考えていなかったか。
私もだけど。
「……それはゆっくり考えるとして。今は傷を癒しましょう。心も身体もね、フッ」
と、上手く締めくくった感満載でその日を終えた。
ちなみに、全然ウケなかった。
次の日――
私が目覚める前から、ナズチは朝ご飯を作っていた。
この匂い……鶏肉? それとも豚肉?
……豚が豚を食うか??
「できました、昨日の黒狼の姿焼きです!」
机の上に、動物の大きな肉が乗せられた皿がドンッと置かれた。
姿焼きとは初めて見たな。迫力が段違いだ。
冒険者はこういうのを普通に食べるの……?
経験がまだ浅い物だからよく分からないな。
そういえば、
「お母さんとかはいないんですか?」
「はい。私を産んだ後どこか遠くへ行ってしまったと……パパが言っておりました」
「へぇ……種族は?」
「人間です」
そりゃあ……死ぬ。
むしろ良く生きていたよ。
「はぁ、ママに会いたいです。ママ」
ママとパパって呼んでいるのか。
母上とか父上って呼んでいるのかと思った。
「それにしても、ユーノさんは強いですね。両腕がなくなってしまったというのに、それも火傷も凄いし……。そんな元気に振舞えるなんて、尊敬します」
「……本当は辛いですよ。自分でできるものが減りましたし、何より――〝触れる〟ことができなくなったということが。……でもね、いくら辛いって言って塞ぎ込んでいたって何も進みませんから。過ぎたことは過ぎた事。雑念になりますし、すぐ忘れてしまうのが一番なんです。要は、上を向いて歩こうよ精神」
「うわぁ……全然意味分からないです」
ちょっとくらい理解して。
あと、火傷が残っていること初めて知ったんだけど。
――――――
そんなこんなでナズチにご飯を食べさせてもらい、朝食を済ませた。
その後、私たちは家を出た。
あのSS級冒険者一行を退治するためのある生物を捕まえる為、今日は快星の草原に向かうことになったのだ。
●
その頃、SS級冒険者のカミジは、酒場で最高難度の依頼を物色していた。
「うーん、これでいいかな」
掲示板の紙を手に取り、受付の女性にそれを手渡す。
女性は笑顔でそれを受け取り、ぺたっとハンコを押した。
すると、
「おう、また最高難易度の依頼か! 昨日は豪傑豚をやったんだってな! まったく、すげぇやつだ。わけぇのによくやりやがる。ガッハッハ!」
斧を背負った筋骨隆々な男がそう言って、カミジの肩を力強く叩いた。
「あ、あはは。そうでもないですよ。皆さんが困っているのですから、至極当然のことです」
そう言って苦笑し、強く叩かれた肩を優しく擦った。
「ガッハッハ! そうかそうか、わけぇもんはちげぇなぁ!」
大柄の男は大声で笑っていた。
周囲にいた人々もそれに触発され、酒場は大きく賑わっていた。
「――ッチ」
カミジは小さく舌打ちした。
「カミジくん、大丈夫? 顔色悪いよ」
紫色の髪の女性と水色の髪の女性がカミジに駆け寄る。
「……うん、大丈夫。さぁ行こう、2人とも。今日は【快星の草原・アンデット退治】だ」
「「うん!」」
そうして、カミジ一行は酒場を後にしたのだった。
次話もよろしくお願いいたします!(誤字があればご報告ください!)




