表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/68

◇私たちの1日◇

長めです。

 皆が、静かに眠るクラリスの傍へ集まってきた。


「……クラリスが目を覚ましません。呼吸をしている感じも――ありません」


 私が俯くと、その場は凍り付いた。


「そ、そんな……クラリス姉さんが……!?」


 ホブゴブリンたちが騒めく。

 あと泣く。


「クラリスさんが……なんで……?」


 顔を隠して鼻を啜るナズチ。


「……すみません。クラリスの代わりに、わっちが話します」


 ナズミが私たちの前に出てきた。

 そして静かに語り出す。


「クラリスは、元々重い病にかかっていました」


 初耳だ。

 一体、ナズミはどこでそれを……。


「わっち、クラリスとお話したのです。今までのこと、クラリス自身のこと、そして病気のこと――他にも色々なお話をしました。殆ど、一方的な話でしたが……」

「話したって……いつ、どこで?」

「ユーノが出て行ったあとすぐに、クラリスの心の中で対話しました」


 とても幻想的な話だ。

 心の中で対話するなんて。


「……クラリスは、病であることを隠していました。それでも――多少苦しかろうが、痛かろうが、我慢をして今までできなかったことを全部やりたい――そう言っていたのです」


 我慢――か。

 クラリスが重い病気にかかっていたこと自体、かなりの衝撃なんだが……。

 なら、よく今まで頑張っていた。

 私たちといた時の体の負担は、カミジたちといた時よりも大きかったんじゃないだろうか。

 ご飯を作ってもらう、なんて言っていたさっきまでの自分が憎い。


「でも……、わっちがクラリスを飲み込む前、クラリスが言ったのです。『もう長くない』と――」

「そんな……」

「わっちも驚きました。もし、負担をかけているというなら――と、抜け出そうとしましたが、クラリスに止められました。『私よりも、あなたに任せたい。()が行けば、私的な感情が入ってしまうかもしれないし、それに――長くは持たないかもしれないから』と。そうして、わっちはクラリスの体を乗っ取り、さきの戦場へ向かったのです」


 私たちはただただ聞いていた。


 何もすることができなかった、自分への憎しみ。

 気づくことのできなかった、自分の愚かさ。

 何より、負担をかけさせてしまった、自分への怒り――


 それらが大きく、そして重く、私たちの体にのしかかった。

 耐えられないくらいの後悔の念が、荒れ狂う海の渦のように、ゴーゴー、ゴーゴーと渦巻いていた。


「最後に、言っていました。『全てが終わったら、私を土の中に埋めてほしい。私のことは気にせず、これからもみんなで楽しく生きて。――ありがとう』と」


 息が苦しくなる。

 なんで……仲間を失ったっていうのに、楽しく生きられるものかと――

 自然と涙があふれた。



 ――ホブゴブリンやナズチが、スコップをもって穴を掘った。

 人が1人入るような小さな穴であったが。

 ナズチがクラリスを優しく抱える。


「うぅ、クラリスさん……」


 ボロボロと涙を流しながら、穴の中にクラリスを入れるナズチ。

 ああ、わかる、わかる。

 私も悔しくて涙が出る、出てる。


「……まずは、体を少し埋めましょう」


 ナズミがそう言った。

 ホブゴブリンたちが落涙しながら土を穴の中に放り込む。

 私も土を入れて弔いたいが……足で入れるわけにもいかない。

 人の死とは、ここまで受け入れがたいものなのか。

 クラリスの顔以外の部分が見えなくなるまで土を入れ終わった。

 心なしか、クラリスの顔が微笑んでいるように見える。


 絶対に地の底に落とす――なんて言ったが、本当になってしまうなんて思わなかったんだ。

 なぜ私はバカみたいなフラグをたててしまったのだろう。

 あの時の自分が悔やまれる。


「……皆さま、黙祷しましょう」


 手を合わせ、目を瞑るナズミ。

 私たちは目を閉じ、頭を少し下げた。


 …………。


「(……ふふ)」


 ……微かに、綺麗な笑声が聞こえた。

 クラリスの声だ。


「(ふ、ふふふ)」


 その、幸せそうな美声は……僅かに――僅かにではあるが、次第に大きく…………。



 ――――大きく?

 おかしくない?


 私は目を開けた。


「ふふ、ふふふ」


 い、いや、幻聴ではない。

 穴から声が聞こえる。

 確かに、穴から声が聞こえるのだ。

 恐る恐る穴を覗き、クラリスの顔を確認。


 なんと――クラリスは笑っていた。


「「「――え!?」」」


 私を含め一同は驚いた。


「ふふ、作戦通り。()()――やってみたかったことリストの1つです」


 な、なぜ普通に話しているんだ!?

 なんで普通に起き上がっているんだ!?

 というか作戦って……?

 ちょ、ちょまま、ちょままま……理解が追いつかないぞ。


「ナズミちゃん、ありがとうね」

「……ええ、クラリスの夢が叶って何よりです」


 ナ、ナズミ!?


「ナズミ――どういうことなの!?」


 ナズミとクラリスは互いの顔を見合わせ、笑っていた。


「ふふ、秘密です。ね、ナズミちゃん」

「ええ、秘密です」


 秘密……?

 うーん……ま、まぁ、とりあえず――


「クラリス……おかえり」


 説教は後にしよう。

 今は、クラリスが生きていたということを喜びたい。

 私は起き上がったクラリスへと飛び込んだ。


「わっ――ユーノさん? 服汚れちゃいますよ?」


 そう言い、私の体を優しく包む。


「うわあああああ」


 ダメ。

 もう感情が爆発してしまいそうだ。

 らしくもなく泣いている。

 笑われてもいいから、ただ泣きたい。


「本当に死んだって思ったんだからさ……」

「ふふ、ならよかったです。()()、冗談ですよ」

「バカっ、バカっ……クラリスのバカあああっ!」


 威厳なんてどうでもよかった。

 ただ、嬉しかった――



 それから私たちは、クラリスを連れてナズチの家に戻った。

 私は家に帰ってからもずっと、涙が枯れるまでクラリスに泣きついていた。

 ……泣きながら、説教をした。

 自分でも、何を言っているか分からなかったが。


 夜、私たちは抱き合いながら寝た。

 ナズチはクラリスに、クラリスは私に、すぐ傍にはナズミの入った壺を置き……。

 本当に、よかった。



 ――朝。

 ホブゴブリンたちが、新たな居場所を見つけるためにここを出ていくと言う。

 私は引き留めたが、自分たちの生きる道は自分たちの力で切り開きたいとのこと。

 無理に引き留めるのはやめようと考え、ホブゴブリンたちを見送った。

 家には、クラリス、私、ナズチ、ナズミの4人が残った。

 ナズミは1匹と数えるべきだろうか。


「静かになりましたね……」


 そう呟くナズチ。


「仕方ないです。種族によって生き方は違いますから」


 私はそう答える。


「何をしましょうか。なんだか、色々と大きなことがありすぎて、普通の生活じゃ寂しくなっちゃいますね」


 そうは言うが、クラリスの表情は柔らかい笑顔だ。


 確かに、数日間だというのに、大きなことがあった。

 仲間が増え、騒いで――みんなで大きな目的を達成して。

 充実しすぎた数日間だったのかもしれない。

 いや、確実に充実していたのだ。


「……今度、旅をしませんか?」


 ナズミの提案に、私を含めた3名が反応する。


「それは――いい考えですね、ナズミちゃん」


 ナズチがナズミを撫でる。

 ナズミは、えへへと笑った。


「楽しそうです。でも、まずはそのための資金を集めないと……ろくにお金を持たないで行ったって、野垂れ死んでしまいます」

「――なら、酒場の依頼を達成してお金を貯めましょう。私、冒険者の資格を持っているので」


 クラリスにそう答えた。


「それと――私からお願いがあります。便乗するようで悪いんですけど……」


 私の顔を真剣に見つめるクラリス、ナズチ、ナズミ。


「もし、カミジのような超越した力を持つ者が現れたら……その時は手を貸してください。今更照れくさいですけど……私、ああいうの成敗したいんです」


 私以外の2人と1匹は顔を合わせる。

 そして、うん、と頷いた。


「「「もちろん――!」」」


 そう、声を合わせて言った。


「ありがとう……」


 涙はもう出ない。

 枯れてしまったから。


「さて、ではまず、今日という1日を始めましょうか!」


 スッと立ち上がるナズチ。


「ええ、今日も楽しく過ごしましょう!」


 おーっ、と拳を握って手を掲げるクラリス。


「ええ! そうですね!」


 と、不自然にも壺から体を伸ばすナズミ。


「うん!」


 私も、その勢いに乗って立ち上がった。


 ――ぐううぅぅ。


 私のお腹が鳴り、ビシッと決まったはずの場の雰囲気を緩くする。

 なんでこんな時に……。


「……ふふ、まずは朝ご飯からですね」


 クラリスが優しく微笑む。

 そうして、私たちの1日は笑顔で始まったのだった――











 その頃、死霊の森にて――


 カラッ――カラッ――カラッ――


 歩く鎧、死体、霊魂……。

 アンデッドの群れが、大量に外へ溢れ出ていた。


「はぁ、アンデッドを生成するだけじゃなぁ……。せっかく転生したのに」


 切り株に座っている、赤い髪の女性がそう言った。

 女性は頬杖をつく。


『いいえ……、主は素晴らしい能力の持ち主です。この世界に名を轟かせてやりましょう』


 と、ローブを着た()()が女性にそう言う。


「そうかな? これすごい?」

『左様でございます』

「そっか……はぁ」


 女性はため息を吐く。


「なら――いっちょやってやりますか」


 女性は、片目を赤く煌めかせ、右の口角を上げてそう言った。

 それに続くかのように、アンデッドたちが低い声で歓喜の声を上げる。

 ……その声は森中に、不気味に――薄気味悪く響いていた。

さて、これにて1章は終いです。(長い本文に見合った内容になっていたかな?)

あそうそう、ちょっと外伝が入りますが、2章は来週から更新していきます!

次話(次章)もよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ