◇決戦③◇
これからざまぁにしてしまいます。
「ナ、ナズミ!」
なんて良い所で登場するんだ。
ナズミが静かに頷いた。
メルルはあと少しの所で詠唱をやめ、ナズミ――もといクラリスの姿を見て呆然としていた。
カミジも同じく、ただ口を開けていた。
「ク、クラリス……? なんで……」
ナズミを見つめるカミジの口は震えていた。
メルルはそれ以上に、身体が震えていた。
「……ごめんなさい、カミジくん。森であんなに頑張っていたのに、私……気を失っちゃって」
「い、いや――それよりも、何でここに……」
「実は、カミジくんに伝えたいことがあったの」
「え……なにかな?」
何かを期待しているのか、カミジは少し照れくさそうにしている。
この状況で何を期待しているんだ。
それに、ナズミは何をしているんだ?
まるでクラリス自身が話しているような……。
「私、カミジくんのこと……好きだよ。出会った時から今まで、ずっと」
――!?
な、なにを言っているんだ!?
どうしてしまったんだ、ナズミ!
くっ、揺さぶりたいけど揺さぶれない!
まさか――クラリスはナズミの洗脳を解いたのか!?
「……! ……そうか。なら、こっちに戻って――」
「――ふふ、ふふふふふ」
唐突にメルルが笑う。
「――あは、はは、あははは……、なんで戻ってきたのかなぁ……。もう、ずっと戻ってこなくてもよかったのに……」
メルルが、息まじりの声でそう言った。
「ど、どうしたんだ、メルル」
カミジは驚きのあまり腰が抜けていた。
「クラリスさえいなければ、私はずっとカミジの傍にいれる……。何が貴族の子? 出会った時から? ふざけないでよ。私はその前からずっと、カミジと一緒にいたんだよ?」
なんだ、なんなんだこの女は……!?
あれか……? これが噂に聞く〝ヤンデレ〟ってやつ――なのか?
それにしても、変貌っぷりがすごくない?
あれ、こういうもんなの? ヤン要素って。
「クラリスが戻ってこなければ、私たちは2人きりだったのに。何で今更戻ってきたの?」
「メルル――何を言っているんだ!?」
いやぁ、これは愛が重いな……。
『想いが重い』と、ちょっとお洒落に韻を踏むべきか。
それはそうとして、ナズミは黙ったままで何をしているんだ?
「クラリスなんて、ここで死んじゃえばいいんだ。そうすれば、私がカミジさんと――! あは、あははは、はははははは――!」
再び魔力を杖に集中させるメルル。
「やめろ、メルル!」
カミジが止めようとしたが、魔力の流れに逆らえず、逆に吹き飛ばされてしまっていた。
「我が咒力をもって命ず――エクスプ――」
「それを待っていました! 魔力減殺!」
ナズミがそう言うと、先ほどまで杖に込められていた魔力の渦が全て、煙となって消えていった。
「ロー、ジョ……ン…………」
メルルは呪文唱えたが、弱々しく倒れた。
結局、魔法が発動されることはなかった。
「ふぅ、危なかったのです」
額に流れる一滴の汗を手で拭うナズミ。
皆、唖然としていた。
何が起きたか分からなかった。
一気に魔力が消え去って……。
あぁいや、どうして魔力が消えたんだ……?
そもそもナズミって――こんなことできたっけ?
「ほ、本当に……ナズミなんだよね、ね?」
「(……ええ)」
耳元で小さくそう言った。
「ク、クラリス!」
吹き飛ばされたカミジが、何度もコケながらやってきた。
何とも滑稽な姿である。
……コケだけにとか言わないでっ!
すぐにナズミの足元にやってきて、息を荒げながら土下座をした。
「ありがとう! まさかメルルがあんな怖い奴だとは思わなくて……」
「ねぇ……カミジくん」
「どうした?」
「私、さっき言ったことで訂正しないといけないことがあるの」
「へ?」
「さっき、『好きだよ』って言ったけど、あれ、好きだったよに訂正させてくれるかな」
「な――っ!」
「私ね、この人たちと一緒にいようって決めたの。今までできなかったことができるし、それに――凄く楽しいから!」
「ク、クラ、リス……?」
ふっ、ふふふ。
面白いことをするじゃない、ナズミ。
最高の復讐になりそうだよ。これ。
「お、おい! クラリスに何をしたんだ!」
私を鬼の形相で見つめるカミジの姿は、誰が見ても〝孤独〟そのものであった。
「さぁ……私は知らないなぁ。きっと彼女の本当の意志なんじゃないかな? 私らは何もしてないからねぇ……。良くも悪くも」
「ふ、ふざけるな!」
そう言って、剣を手に取ろうとするカミジ。
私は武器を取り上げるよう、ナズミにアイコンタクトを送った。
ナズミは剣を取り、「ナズチ!」と言って剣をナズチの前に投げた。
拳を握りしめたナズチは、そのまま腕を引き、その剣に対して正拳突きをくらわせ――そして、剣は粉々に砕かれたのだった。
さすが、といったところ。
チート武器を一度の攻撃で破壊してしまうなんて……。
パパを殺された恨みも込めてあったのか。
相当強力な一撃だったな、地面揺れてたし。
「お、俺の……神様からもらった剣が――」
「ゴブリンさん、こいつの防具もとってやってください」
「「――了解!」」
ホブゴブリンが一斉に動き、抵抗するカミジの防具を無理やり脱がせた。
最終的に、カミジは下着姿になった。
「なんで……なんで……――」
そう、小さく嘆いていた。
「どうせ、『なんで転生なんてしてしまったんだ』とか、そう思ってるんでしょ?」
「…………どうして転生のことを」
「クラリスに――いや、私自身も転生者だからさ」
「――なんだって……?」
「カミジくんさぁ、君って分かりやすいよね。努力もせずにSS級。神様から武器貰って、強い強いともてはやされ。それで女の子にモテる。あぁ、まさに〝転生者〟って感じだったよ」
下唇を噛んで、拳を握り震えるカミジ。
怒っているのか。
……いや、悔しがっているのか。
「俺は……現世で虐められて、トラックに轢かれてやっと死ねて――それから、転生って言葉に惹かれ、その装備をもらってここに来たんだ」
「ふーん」
私が思っていた通りの転生方法、そして神。
あと装備。
「でもどうだ? 現実はそんな変わらなかった。別の誰かに嗤われて、結局現世ともそう変わらず。……女の子に囲まれたって、全然嬉しくなんてなかった。……ラノベとは程遠かった」
ああ、ありがちだ。
ラノベを読んでいたって、転生後のことは何も変わらない。
――自分を変える努力をしない限り。
「カミジくん……君は、転生を何か勘違いしているんじゃないか?」
「……え?」
カミジは、死んだ魚のような眼で私の顔を見た。
「転生は、ただ能力を貰って『俺TUEEE!!!』をするためにあるものじゃない。新しく生まれ変わって、自分の今までの行動、性格、言動――その他諸々、全てを見直して0から新たな自分を形成する、それが転生するってことなんだ」
「……っ!」
「そりゃあさ、何にも変わらなければ……、前と同じような環境になっていく。そうだろう?」
「…………」
うなだれて沈黙するカミジ。
――さて、クラリスからのお願い……実行してやろうではないか。
私やナズチの復讐も込めてだが。
「カミジくん――いいや、カミジ。お前は転生わりたいか?」
カミジが静かにコクリと頷く。
「なら、全てを捨てて私と戦え。強力な武器に頼らず、頑丈な防具に頼らず……自分の力だけでかかってこい。そうして、自分を見つめ直すんだ。もう、『転生しなければよかった』なんて考えることのないようにするために」
「……ああ」
カミジが立ち上がり、私の目の前に立った。
「……みんな。その魔法使いの女を連れて、遠くで見ておいてくれないかな。もし、私がやられたとしても、そのままにしておいてほしい」
ナズミ、ホブゴブリン、ナズチは、メルルを抱えて少し離れた場所に行った。
「さて、始めようじゃないか、カミジ。――〝弔い合戦〟だ」
次話もよろしくお願いいたします!(誤字があれば、ご報告いただけると嬉しいです!)




