◇決戦②◇
「ユ、ユーノさん――!!」
円状に焼け焦げた大きな跡が、森を出るとすぐにあった。
ナズチとホブゴブリンたちの周囲だけが剥げていないということは、あの防壁を張ったのだろう。
「ナズミちゃんは!?」
ナズチが防壁を解いた。
「気を失っていて……それより、これは!?」
「あの魔法使いが!」
指を向けた方を見ると、2人の人影が立っていた。
カミジとメルルだ。
爆発系の火炎魔法を使ったな。
「遅くなってすみませんでした……」
ナズチに駆け寄った。
「いいえ……、まさかあの人たちが来ているとはいず知らず、奇襲を受けました。なんとか耐えましたが」
爆裂系の火炎魔法――いや、小さな村1つを滅すほどの魔法を耐えるなんて……やはり、ナズチは強い。
それにしても奇襲だなんて……。
ずっと待ち伏せされていたんだな。
「――! お前、快星の草原の時の……!」
と、カミジが私に言った。
いや……正確には〝私とナズチに〟か。
「……あぁ、久しぶり。カミジくん」
「なぜ俺の名前を……? いや――クラリスをどこにやった!」
「さぁ? 知らないけど」
「う、嘘を言うな! お前ら手を組んでいるんだろ!」
最高の悪役をかましてやろうではないか。
「ああ、その通り。でも、そのクラリスって女の子は知らないなぁ」
「クソ――!」
そう言って、カミジはメルルを1人で座らせた。
「お前らを倒してクラリスを助ける――! くらえっ! 雷の舞!」
私たちの周囲に暗雲が立ち込める。
「スライム! 皆を覆って!」
メルトスライムがぴょんと跳びはねる。
ホブゴブリンやナズチが、メルトスライムの粘液に覆われた。
「ユーノさん、私たちの内側に!」
ホブゴブリンたちは、輪になるように私を囲んだ。
「ていっ!」
ナズチが防壁を張る。
私は、ホブゴブリンたちの背中に隠れるようにしゃがんだ。
バキッ――バキッ――! と、激しい稲光が、ナズチの防壁を貫こうとしている。
「すみません、これ以上は……!」
「……わかった、ナズチさん、防壁を閉じて!」
「はい――!」
私らを守っていた黄色い防壁が消えた。
飛龍の如く、雷が宙を舞っている。
某昔ばなしのOPに出る龍とは程遠いが、迫力そのものが段違いだ。
見れば見るほど恐ろしい。
「くっ――! ピリっとはくるが、何とか耐えれそうだ」
ホブゴブリンのリーダーが、片目を瞑りながらそう言った。
鉄装備をせず、普通の布の服を着ておいて良かった。
もし鉄装備でもしていれば、今頃丸焦げになって死んでいたことだろう。
その後、次第に暗雲が消えていき、雷の勢いも弱まっていった。
「な――っ!」
カミジは驚きのあまり、次々と消え去る雲を見て唖然としていた。
残念だったな、カミジよ。
その攻撃が物理的なものだということ、私は最初から知っていた。
――なんたって私、直に受けたんだからな!!
「カ、カミジさん……。私がもう一度……やるから」
「でも、もう魔力が――!」
「ううん、少しずつ溜めれば大丈夫だから……! はぁぁぁっ!」
メルルが魔力を杖に集中させている。
本当に少しずつのようだし、時間がかかりそうだが……。
魔力が溜まる前に、あの杖を取り上げなければ――!
「わかった。なら俺が奴らを食い止める!」
メルルの前にカミジが立つ。
こうなれば、いっぺんにやるしかないか。
「ゴブリンはあの魔法使いを、ナズチさんは私と剣士を!」
私の掛け声とともに、二手に別れて行動を開始した。
ナズチは私を庇うためなのか、前に出て走っていた。
「――勇敢なる爆剣!」
カミジが剣先を空にむけると、剣先が一瞬輝き、光の輪がカミジを中心として広がっていった。
ナズチが急に立ち止まり、両手で四角い箱を作って手をパッと開いて掲げた。
すると、私やゴブリンたちを囲むように、四角い透明な箱が突如として現れたのだ。
そして次の瞬間、この草原に似つかわしくない爆発と轟音が、あたり一面を焼野原へと変えた。
カミジのやつ、こんな技まで――!
私やゴブリンは、ナズチの張ってくれた防壁のおかげで無傷で済んだ。
それとは対照的に、ナズチのスライムの粘液が剥がれてしまっていた。
加えて、かなり傷を負っているようだ。
「な……これも防ぐなんて――!」
カミジが剣を地面に突き刺し、ぜぇぜぇと息を吐く。
かなりの力を消耗したらしい。
爆発系の物理攻撃はスライム種によく効く。
ナズチ……それを知っていて被害を最小限に抑えようと――
「はぁ、はぁ……ごめんなさい、ちょっと力を使い過ぎてしまいました」
私はナズチの傍に走り寄った。
「……そのバトン、絶対に繋げるから大丈夫――私、バトンを持つ手ありませんがね!!」
某有名な蘇り能力者ばりのジョークをかまし、私は疲労しきったカミジへと近づいた。
「カミジ……ようやく追いつめたぞ」
「くそ、くそくそくそ! 俺たちに何の恨みがあって……!」
「恨みぃ? そうだな、恨みっちゃ恨みだ。特にカミジ、お前はな」
カミジが「はぁ?」と言い、片目を大きくあけ眉間にしわを寄せた。
「なぁ、お前は覚えているか? お前らが3人でその森に来た日――そう、数日前に豪傑豚を倒した日だ」
「あ、あぁ……それがどうしたんだ」
「あのあと、お前は何かに対し『威嚇』のために雷の舞を打ったよな」
「……そうだったか?」
「男か女か分からない奇声、聞いたよな?」
「ああ…………まさか――!」
「お前の察した通り、それ私なんだ」
カミジは口をぽっかりと開けて青ざめた。
ここまで顔が青くなった人は初めて見たな。
「あ、あれは……その……」
「よくもまぁ確認せずに行ったよな。そこの女の助言も影響したと思うけど」
「…………」
沈黙するカミジ。
私は、見せつけるように肩を揺らした。
「両腕さぁ、失くなったんだよね。治癒不可で、斬り落としたんだ」
「――!」
カミジは目を見開いた。
「顔に火傷もできちゃったし……。いやぁ、参ったよ。自分の体も他人の体も……何も持てないし触れないんだ。こんな苦しいこと、今までにあっただろうか。いや、ない」
「…………すみません」
カミジが剣を置いて私に頭を下げる。
「すみません、か」
私とカミジの間に、数秒間の沈黙が訪れた。
――その時だった。
「カ、カミジさん……? 魔力たまっちゃって、は、はは、どうすればいいかな……?」
メルルは杖を構えて震えていた。
ホブゴブリンたちは一体何をしていたんだ!?
――いや、警戒しているのか?
メルルを取り囲んではいるが……魔力の暴発を恐れて手を出せずにいたのか――!
『――メルル、やれ!! 俺のことは構わないでいい!』
カミジが頭を上げてそう言った。
「この――!」
私はカミジの顔を思い切り蹴り上げた。
深淵よりきたりし
[深淵より来たりし爆炎を司る女神スウメテロ――我が持ちうる全咒力をもって命ず。我に爆絶の力を与えたまえ! エクスプ――]
いけない!
『――――待って!』
私が目を閉じ、皆が頭を防いだその瞬間、後ろから聞き覚えのある女性の声がした。
「……待ってください、メルル。お願いします」
水色の髪、青い眼、そしてドレスのように綺麗な服――
そこにいたのは、紛れもなくクラリスだったのだ。
次話もよろしくお願いいたします!(誤字があれば、ご報告いただけると嬉しいです!)




