人形婚
今は柱となっている
腹を痛めて産んだ子が
ただひとつ憐れなることは
良き娘さん やれぬこと
誰かいい人おらんじゃろか
仏間に掲げた我が息子
母を国をと 日ノ本の
誉れとなった 今は亡き
海の向こうで死んだ子に
寄り添ってくれるええ子らは
夜な夜な回す トンカラリ
きれいなおべべを着せましょか
紫と朱の糸混ぜて
あの子に伝えて 共にいて
ポツポツ辿った商店街
季節外れのおひな様
焼けてしまって一人きり
俯きがちの若い子を
迎えて息子の嫁になれと
御髪を揃えて トンカラリ
十二単のその端を
押さえるように並べた倅
不肖の息子 柱となりても
どうか守ってくんなまし
お盆に載せて トンカラリ
人力車もほら回ります
九段の母が参ります
昔お前が遊んでた
七五三迎えたあの神社
雪をかぶった神主に
渡してどうかと拝みつつ
二人は奥へと向います
翁の面が憐れな母を
見下ろし二人を見つめます
九段の母の無作法を
どうか許してくんなまし
ひび割れた手で拝みます
きれいなきれいなおひなさん
息子の嫁になっとくれ
九段の母のやれぬこと
無力を許してくんなまし
お前は神になったのよ
海の向こうにまだいても
お前は神になったのよ
棺の中に爪と髪
お前は神になったのよ
救っておくれ おひなさま
せがれやせがれ こちらでは
現人神が 人となり
陛下は人と なられたよ
おまえはどこに いるのかい
お前は神になったのよ
救っておくれ おひなさま