ぷかぷか
灰の世界はここにある
浮かぶ埃が明滅し
暗いロビーにただ一人
今日も寂しく立っている
回転扉の外では
行き倒れのような老婆が
レジ袋抱え眠り込む
警官と警備見間違え
そのたびに体震わせる
お客にゃ見せれぬ裏事情
監視カメラとシステムの前で
電話口から怒鳴り声
見慣れた寂れたホテルのはずが
クスクス笑いとふざけ合い
無邪気なカップル肩を寄せ
すうっとエレベーターに乗り
ゴトゴト響く音の中
君は雫を聞くだろう
雨垂れのようなその音を
敷かれっぱなしのカーペット
踏むとぐじゅりと音を立て
二人の世界にいられなきゃ
また踏みたくなる 請け合うよ
打ちっぱなしのコンクリに
ラザーでできたX十字
一人で泊る客さえも
多分気配を知るだろう
巻き上げられるワイヤーに
どんどん上がるエレベーター
ある日ぶつりと切れたなら
君は天へと落ちるだろう
ぽたりぽたりと滴るは
シャワーじゃ消されぬ赤い血が
途切れ途切れに落ちる音
タイルの上で水と混ざって
ピンクの水が吸い込まれ
長い髪したあの女
バスタブの中で眠るだろう
清掃員が愚痴りつつ
タオルで風呂を拭ってく
一見ピカピカの浴槽
昔は人の血を吸った
排水口に女の毛
溢れて逆流する水が
どす黒く足を汚してく
客専用の飲水にゃ
なんにも混ざっちゃいないのさ
枯れ葉が屋根を塞いでは
溜まった水をぶちまける
微かに聞こえるAVと
ずっと回ってる洗濯機
ふと乾燥機のドラムには
丸くなった人影が浮かぶ
まだまだ夜は本番さ
あちこちで聞く水音に
またも誰かが呼ばれてる
君も一緒に行くだろう
肉体だけをここに残して
不浄の水が人を呼ぶ
バスタブに浮かぶ生身の人間
点々と落ちる血痕に
呼ばれた誰かの成れの果て
カビ臭い倉庫の中で輝く
輪郭のない非常灯




