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雨月
おんなの首を掴んでは
しんと静まり返った
浴槽の中にしずめる
あばれてよじれるうちには
まだ芸術は宿らぬ
きを失う前の
掠れたしゃっくりにこそ
締まる気管の水泡に
流れおつるもの
バスタブを引っ掻く音
テープにちゃんと入るか?
ゆらゆらと浮かぶ
みなもの髪の毛
音にではできない
しがみつく
鏡越しに合わせる手
さながらギロチンのごとく
湯舟の上
広げられた蓋
整理の音は
手で奏でるな
肌擦る音
床の身じろぎ
湯気から水に
波紋の音は
死のにおい懐かしげに