Drug) 最終兵器ハルシオン
最終兵器ハルシオン
こいつに出会って早八年
コイツにかかればどんな奴でも
たちまち眠りに引きずり込まれる
新世代という軟弱な
睡眠薬なぞクソくらえ
21時にフルニトラゼパム
半日ほどは効能のある
長期睡眠導入剤を
続いて登場するのは
最終兵器ハルシオン
寝る直前に飲んでベッドへ
いつの間にやら眠れるさ
けれど例外はつきもので
うまく眠れなかったとき
悪夢を見ているわけでもないのに
うんうん延々うなされながら
掛け布団の端掴んでは
自分の動悸に死にかける
だが
それだけが彼女の本領じゃない
真に恐ろしきはその効果
短い死の淵覗き込む
その直前の行動を
まっさら記憶から消しちまう
眠れないので読んでいた
探偵小説
犯人の
名前も動機もトリックも
思い出せない奇妙な心地
親友にかけた電話の内容
LINEや検索履歴など
自分のことでありながら
自分のやったことだとは
到底理解が及ばない
彼女は一つの真理を示す
「昨日の自分と今日の自分
それは別人二つの個体
そこに連続性はない」
まだまだ続く彼女の魔術
妖艶な笑み
白昼の
突発的な眠りの後
いわゆる微睡から目が覚めたなら
せっかく今日一日を
過ごした内容
霞んでる
最終兵器ハルシオン
すっかり虜になっちゃって
二度とこいつを手放せない
自分が自分でなくなる恐怖を
彼女は教えてくれている
これが認知症という
自分が自分でなくなる恐怖か?