Case) 挫折と理想と金閣寺
大藪春彦「野獣死すべし」の本文から引用した。
同時に、
三島由紀夫「英霊の聲」を参考にした。
「馬鹿おどりを続ける仮面の下からのぞく、ひやりとする冷酷なエゴイズム、小ずるさ。みじめな頭には、けち臭い夢がふさわしい。」
青春の最中
どん底の彼方
「野獣死すべし」
処女作の
短い文が胸をえぐった
六畳ばかりの
仏壇が
鎮座する和室
正座して
こちらを射抜く彼の人に
平岡さん、と呼び掛ける
奇妙な夢の出どころは
やはり映画の予告だろうか?
会えることなく
彼の人の
著作を読んでその思考
考え方の一端を知るも
無知蒙昧たる我が身には
とんと理解ができぬもの
初めて読んだ著作には
読めば読むほど迷宮に
囚われそうな気持になって
無意識のうちに遠ざけた
けれどエッセイ読んでみて
初めて知った彼の人の
ユーモアあふれる佇まい
日本どころか
世界でも
突出している人だから
彼の人の著作読む前に
彼の人の評価先に聞く
「人生そのものが作品」
「一貫性が貫かれていて
思わずぞっとしてしまう」
彼の人の最期
幕引きの
在り方にどこか既視感を
感じ著作に舞い戻る
それこそ彼の人が遺した
「憂国」という一つのテーマ
教科書見れば載っている
2・26のあらましが
わずか2文か3文か
「青年らによるクーデター
自由な発言奪われる
軍部の力が強まった」
けれど
彼の人の作品のみならず
反乱を起こしたとされる
その指導者らを挙げていく
歴史の本を眺めれば
「権力を求め反乱を起こす」
一般的なクーデターとは
ほとんど真逆のように思える
指導者としてありながら
あくまで「国は民のもの」と
国と民との狭間の中で
佇もうとする「あの方」に
直接指示を請いたいという
理念が彼ら自身を襲い
「逆賊」の印を押されて消えた
特攻隊と並んだ英霊
届かぬ彼らの悲痛な声は
「信じたものに裏切られる」
「理念を挫かれてしまう」がゆえに
英霊らはより純粋な
魂そのものとなるのか
一念をもって信じぬく
頑迷固陋という悪評は
純粋さとも言い換えられる
だからこそ彼らはあるじのために
「諫言」を実行したのだから
「忠実である」ということと
「命を賭して異論を唱える」こと
この二つ
パラドクスにしか思えない
たどり着けない理想だからこそ
その挫折すら美学ということか
彼の人の自負か
伝統か
あるいは
「自分の時代ではない」と
そんな思いが彼の人に
古来の誇りを取り戻すべく
自決という形になったのか
ならば最期の呼びかけも
もはや届かぬものと知った上で
自分の主張を
信念を
振り絞るように叫んだのか
彼の人の描く英霊の
「挫折」をなぞり
噛み締めるように
あるいは敗戦とともに
真逆の価値観唱え始めた
「焼け野原」にいる国民の
「信念の欺瞞」を暴くかのように
「馬鹿おどりを続ける仮面の下からのぞく、ひやりとする冷酷なエゴイズム、小ずるさ。みじめな頭には、けち臭い夢がふさわしい。」
同じ時代の作者が書いた
短く的確なセンテンス
読むたび
自分もその内にいることに
気づき身震いする時に
あの夢の中で平岡さん、と
呼び掛けた時見つめ返された
感情の抜けた面差しが
稲妻のように脳裏を抜ける