Private) ユウウツな散歩者 (Q)
ニーチェ「善悪の彼岸」より引用あり
ある晴れた日の昼下がり
肌を刺すような日差しの下で
否が応でも目を覚ます
「昨日眠っているうちに
死ねればよかったのに」と思いながら…
駅までの長い道のりに
視線にさらされること幾度
そのつど目を伏せている
太陽がまぶしいのもあるが…
誰もかれもが同級生の
母親に見えて仕方がない
「平日のコンナ昼間から
あの子は何をしているのか」と
町のあちこちうわさになって
人の口には戸が立てられぬ
いくら自室にこもろうが
好きで出かけるわけじゃねえ
つぶやきつぶやきすれ違う
家路を急ぐ同級生の
視線を極力避けながら
不登校児の学生定期で
電車乗り継ぎ病院へ
タコ部屋にも似た雑居ビル
入る前から気がめいる
予約したのに守られぬ
面接時間もおす中で
何もしゃべれぬカウンセリング
時間と金が消えていく
「何のために来たのか」と
自問自答を繰り返す
カウンセラーの黒いストッキング
どれだけ苦痛を訴えようと
柳に風と言わんばかりの
まさにひとごとたにんごと
プロのドクター、専門家
人の訴え聞くたびに
治療者もまた摩耗するのか
扉が閉まり、また開く
吸い込まれていく自分の体
効きもしない薬をどっさり
薬剤師のわざとらしい笑み
わざとらしい笑み
憐憫と
家の近所の知り合いの
嘲りを含む笑顔に囲まれ
否が応でも散歩する
家路を急ぐ道程を
散歩と呼んでよいのなら
「気分転換、散歩をすべし」と
さらなる好奇の目に晒されろと?
忌々しい陽が消えた今
スポットライトのようなネオンが
俺を冷たく見下ろしている
高く高く
さらなる高みを
お釣りで買った古本の
哲学書をポケットに入れて
字面通りの「高み」へと
散歩の途中
気分転換
駐車場から地面を見下ろす
ここならいい死に場所になる、と…
どうせ死ぬならカウンセラーが
首をひねるような死に方をしたい
意味不明な遺書を書き
一張羅のジャケットを着て
おもちゃのピストル片手に握り
小洒落た洋楽聞きながら
アスファルトへと叩きつけられるのだ
古本のニーチェにマーカーを引く
「自殺を考えるのはきわめて優れた慰めの手段」と
書かれた箇所にマーカーを引く
今は、まだ…