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Book) 夢野久作
夢野久作の主な著作を参考にした。
ハンチング被り
雑踏に
踏み出す怪しげな坊主
「殺すくらい、なんでもない…」
そんな言葉をつぶやきながら
聞けば死にたくなるような
失恋の辛さこめた鼓を
ポポポポポ--とそっと打ちつつも
「想いは時超え
科学超え
二人の他人を結びつけ
縁も因果もナンのソノ…」
怪僧ソットフトコロに
手を伸ばし本の背表紙を
撫ででホウと溜息を
「悪魔祈祷書」と書かれたソレを
宝物のように抱いては
托鉢にそっと小銭入れ
手を合わせた時呟いた
奇妙な言葉が耳元に
「どぐら・まぐらに気をつけよ」と…
ハンチング
被りなおしては
ブツブツとナニか呟いている…
悪魔祈祷書とやらにでも
書かれた歌か
気味の悪い
血の臭いがする猟奇な歌を…
フト振り返れども
もういない
あの坊さんは何処へやら
オレ以外
誰も見向きもしなかった
アノ坊さんは一体…と
ケハイだけがなおも忍び寄る
死神のような虚ろな目…
口元に浮かぶ優しげな笑み…
「少女は地獄を覗き込む」
「少女は地獄に迷い込む」
「お前はお前に迷い込む」
坊さんの声がボソボソと
血のような夕焼けに吸い込まれ…