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大いなる眠り
父親になぜか連れられて
親の知人と会食を
親父らはビール飲み交わし
こちらは食べられそうなメニューを
居酒屋の中で探してる
二人のよいどれに苦笑して
近づいてきた奥さんの
オレンジ色の明かりのもとで
ふんわりと光るファンデーション
キラリキラリと光る肌
ドキリとするほどキレイに見えた
数ヵ月後になくなった
その奥さんの美しさ
あれは死が近い人にだけ現れる
そんな艶やかさだったのか?
オレは耐えられるだろうか?
親が死に
葬儀の席と
日常に
当たり前にいた家族が
当然いなくなる虚無
主が消えた椅子の上
靄がかかる日を
モノクロの渦が席を埋めて
失う恐怖は何よりも
失うことを与えることより
よほど恐ろしいのだと
甘ったれて生きているのか
末っ子として最年少と
いつも誰かに縋ってた
けれど彼女はオレとは違う
とてもしなやかな人だった
長女だからと顔を上げ
「アンタは孝行しなさいよ」なんて
言ってのけたのは同い年
彼女の母の儚い美貌と
それに負けないたくましさ
「託された」ことを義務として
当然顔で引き受けた
彼女は気高く美しかった




