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水没都市
無数の歩く墓石たち
水底に沈む都市の残骸
意味もなく明滅する信号
水面を歩く少女を見たか?
救世主だと思うのか?
無垢な瞳に好奇を浮かべて
傘をくるりと回して見せれば
燦々と散る無数の雫
華奢な双肩にお前は
世界を担わせる気か?
知っているのか?
海中都市の最期を?
モノクロの世界に閉じ込められた
朽ちるためだけにあるものを
老婆がものものしくもまた
待っていたんだと語るのは
これが歌物語かと
「喜びと共に夢は水底へ」
希望を塗料で誤魔化した
前の世代の幻想も消え
彼らは整列して並び
待ちきれず体ぶつけ合う
そして己の番となった時
笑顔で地上へ飛び降りた
白百合の
ちぎった花弁を散らすようにして
滅ぶ恐怖はなかったのかと
問われた老婆は首を振る
「いつも滅びる時を待ち
総決算を望んでた
たとえ命を落とすとしても」
喜びの自殺
投身自殺
滑稽に空で泳ぐ姿を
通行人が笑ってた
少女の傘がくるりと回り
屈み込み水面
見下ろせば
不思議そうに見返す自分の顔が
波紋と共に笑ってる
かつての都市は彼女の黒い
瞳の中へと吸い込まれ




