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Case) 知られざる人(中村哲医師の訃報を聞いて)

知られざる人厳かに

ふるさとへ今帰国した

普段の朗らかな笑みとは違い

静謐とした棺の中で

祈るように目を閉じて



遠く遠くのその国は

多くの人が

見過ごしがちな土地だった

彼の人そこで

異邦人としてではなく

その生涯を

一人の「市民」として過ごした



亡くなられた時の現地の映像

その病院の目の前で

厳しい環境にさらされ

たくましい体躯を持った人々が

悲しみに

子供のように泣き崩れる

知られざる人彼らを呼んだ

「農民かつ詩人でもある」と



けれど彼らの嘆きは決して

「感情豊か」なだけでなく

長老たちに示されるような

強固な地縁・血縁制度の

「内にいる人が去る嘆き」

すなわち彼の人その国で

溶け込んでいて愛されていたと



彼の人がその国に惹かれた理由は

現地の珍しい蝶に惹かれてと聞く

医者としての彼の人と

自然を愛する彼の人のこころが

より一層

その地で水を

緑を

自然を

取り戻すことへの

情熱となって活動されたのか



平和を概念としてではなく

飢えないという現実で

実現しようとした彼の人は

理想主義者ではないという

自身への評価は謙遜でなく

きっと本心からだろう



彼の人と現地の人々は

異なる神を信じていたが

彼の人現地の人と共に

モスクを建設したと聞く

異なる宗教をも受け入れる

その在り方が日本のいわゆる

「やおよろずの神」という考えを

体現しているようで心が熱い




訃報を聞いてニュースを聞いて

特集を見て初めて彼の人を

知って自分の無知恥じる

追悼特集・活動報告

彼の人のことを少しでも

知ろうと資料を読むうちに

不思議な心もちになる



医師らしい

厳密な数字が入った

実績評価と目標計画

かと思いきや現地の写真

工事中の堰の写真や

鮮やかなバラ

共に働く人々たちとを

紹介しながら淡々と

けれどユーモアのぞかせながら

現地からのメールが続く


読めば読むほど彼の人は

今もなお遠い異国にて

ショベルカーを運転したり

現地の人と笑い合っている

そんな錯覚にとらわれる



特集の中でモスク建設を

本人の言葉で語っていたが

完成の後の譲渡式だろうか

テープカットのその直後

屈強な体の州知事が

笑顔で彼の人抱き上げて

思わずしがみつく姿

照れているのかあるいはまた少し

成し遂げた実感に肩の荷が下りたのか

あの瞬間の光景を

現地の人々の拍手と笑い声を

見るたびに何かこみ上げる



彼の人成し遂げた用水路や

灌漑工事の概略に

当然現地にないものもある


「治水」の英訳がしっくりこないと

彼の人西洋と東洋の違いを

体験に基づき教えてくれる


現地にとって異色のものも

広く受け入れられたのは

彼の人がそこに住む人々を

地域社会の在り方を

決して否定することなく

対話と実践に基づき

信頼関係を築いたからだという



「あなたはアフガン人として生き

 アフガン人として亡くなった」

現地の人が捧げた言葉は

彼の人にとっては何よりの

名誉であることには違いないが

だからこそ彼の人の最期が

今もなお胸を締め付ける




彼の人の名は、中村哲

彼の人の名は、中村哲


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