第5剣 追う者
俺はクレアの名前を呼びながら大声で叫ぶが反応はない。いよいよ本格的に置いてかれたのであろうか。
まあ、俺のような見ず知らずと共に行動するのは危険だと判断したのか。それはそれで悲しいのだが。
もし、そうだとするならば、俺よりも嘘が上手い。だが、これは俺の勘が告げることだが、クレアはおそらくそういうタイプではない。
だとすると、移動しなければならない異常事態が起こったということになるが......
「おい貴様、今『クレア』と呼ばなかったか?」
「ん?誰?」
俺が辺りを見回しているとふと後ろから一人の男が声をかけてきた。そして、その男のそばにはコモドドラゴン風の魔物が。なるほど、あの魔物はあの人の使い魔だったのか。良かった、殺さなくて。
「貴様、クレアを知っているんだな?奴はどこだ」
「まあ、知ってるけど、お前は?」
「私はクレアの父親だ」
その男は自らをクレアの父親だと言った。だが、俺はその言葉を嘘だと思った。それには2つの根拠がある。
まず1つ目はあの男が父親と言ったにもかかわらず、クレアのことを「奴」と言ったこと。
それから、あの男はほんの僅かな時間だが、あの男の目は右上を向いた。これは人が嘘つく時に咄嗟に取る行動の1つ。
それらによって、俺はあの男はクレアに近づけさせてはいけないと思った。
「父親ね......なら、申し訳ないけど、俺もクレアを探しているんだ。だから、居場所なんて聞かれても知らないよ」
「嘘をつくな。お前がクレアの仲間だとしたら、同じ魔女のはずだ。だが、お前のような魔女は知らない。おそらく魔女が人恋しさに作った人形といったところか」
「魔女.....クレアの父親ってことは、あなたも魔女ってことだよな?だったら、クレアが俺のような存在を知っていてもおかしくないんじゃないか?」
「黙れ!クレアが作り出した人形ならば、魔力パスで居場所がわかるはずだ!さっさと案内しろ!」
その男は俺に怒鳴るように言ってきた......なるほど、それで剣をちらつかせているのか。
おそらくは俺をビビらせて白状させるつもりのようだが、どうも俺はそのような手は効かないようだ。
それに、あの男は完全に敵だ。自分の設定を忘れてボロボロと逆に白状してくれる。
クレアが魔女であることには驚いたが、この世界では魔女は嫌われているのか?こんなにもファンタジーなのに。魔女と言えば、ファンタジーの象徴と言ってもいいだろうに。
「さっきも言っただろ。俺は知らないって。だって、人形じゃないし」
「ありえないな、クレアが仲間を作るなど。奴は仲間を作ることを恐れている。またあの時のような惨劇を繰り返さないために」
「惨劇......」
「話過ぎたようだ。お前がクレアの人形である可能性がある以上、半殺しにしてでも口を開かせる」
「そうじゃない場合は?」
「口封じだ」
「そりゃあ、怖いな」
その瞬間、男は一気に襲いかかってきた。丸腰の俺にとてつもない殺気を放っている。それだけクレアを恨んでいるということなのか。
だが、俺は男の接近に戸惑うかのような姿勢を見せながら、ギリギリまで接近を許した。
「うわあぁ!来るな!......なんてね」
「ああああああ!」
俺は男に向かって「近づくな」とアピールするように両腕を前に出した。その男は俺の行動にほくそ笑むと一気に剣を振り下ろした。
だが、俺はそのタイミングを待っていた。俺は両腕を剣に変えると大きく横に振り上げた。
すると、俺の剣はその男の両腕を切り飛ばした。その痛みで男は森に響き渡る声を上げた。
そこに、俺は前蹴りで腹部を蹴って吹き飛ばす。正直、あれ?自分ってこんなキャラたっけと思う部分もあるが、そこは深く考えないでおこう。
「それじゃあ、お前がクレアに近づく理由を聞かせてもらおうか」
「く、来るな!」
その男は先ほどの態度とは一変して、俺に怯えたような表情を見せる。しかし、俺にはその男に情など湧かなかった。
そして、その気持ちを表すかのように冷ややかな目で見つめていた。
「言っておくが、俺に嘘など通じない。そして、俺はお前をクレアの敵だと判断した。その意味はちゃんと分かっているよな?」
「わ、わかっている。話す、話すから命だけは!」
男はそう言いながら、チラチラと視線を動かしている。一見、ただ恐怖に混乱して目を回しているようにも見えなくはないが、あれはおそらく俺の背後にいる何かを見ている。まあ、それが何なのかは知っているけど。
「ガア"ア"ア"ア"!」
男が俺の視線に気づくと完全に下手に出るような顔をした。だが、その目は笑っていない。
するとその時、コモドドラゴン風の魔物が俺の足に食らいつくように飛び掛かってきた。
だが、俺は足を剣にして防御、むしろ噛みついたその魔物の方が口を切ったらしく痛みに暴れた。
俺はその一瞬の隙をついてその魔物に向かって蹴り上げた。それによって、その魔物の頭部は遠くへと飛んでいき、ピクリとも動かなくなった。
そして、俺があの男へと振り返ると男は酷く青ざめたような顔をしていた。出血によるものもあるだろう。あまり持ちそうにない。早く聞き出すか。
「で、お前の目的は?」
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!」
「おい、人の話を――――――――――」
「!」
俺が言葉を告げきる前に、男は突然声を上げて地面に倒れた。そして、それから動くことはなかった。おそらく失血死だろう。結局、聞くことは出来なかったな。この男の目的はんだろうか。
そして、クレアから直接聞く前に、いろいろ聞いてはいけないようなことを聞いてしまったようで、なんともバツが悪い。
だがまあ、聞いてしまったのは仕方ない。早いとこクレアを探すか。
俺はそのからしばらく森を彷徨った。そして、少しずつ俺の焦りは募っていく。それはおそらくクレアを追う人物が、1人である可能性が低いということ。
つまりは最低でももう1人がクレアを狙っているということだ。
先ほどの男との戦闘では不意を突けたから良かったものの、もしクレアの方にいる男が二人以上であるならば、かなり厳しい。
俺は剣をがむしゃらに振るうだけのド素人だ。そして、相手は少なくとも剣に覚えがあると思っておいた方がいいだろう。
それに、俺が自分の魔法をあまり把握していないのも関係するかもしれない。その状態で戦ったなら......確実に詰みだな。ここはクレアが無事であることを祈るとしようか。
「それにしても、不思議なほど罪悪感がないな」
俺はふと自分が人を切ったことを思い出した。感触は覚えている。だが、それに対してあまりにも無感情だ。
俺はそんな自分自身に不思議さを感じた。相手がクレアの敵だとわかったからだろうか。それとも俺に襲いかかってきたからだろうか。
どちらにせよ、俺が切ったことには変わりないし、人を切ったなら当然罪悪感というものを感じるはずだろう。なのに、俺はそれを感じない。これはさすがに異常ではなかろうか。
「......俺って、実は人をやめてたりする?」
俺は思わずそんな言葉を呟いた。その意味はファンタジー世界で無双するといった意味ではなく、人としての感性を失っているという意味。これが前者であったなら、どんなにうれしいことか。
「助けて!」
「!」
俺は自分自身に呆れたため息を吐いているとすぐ近くから声が聞こえた。この声は聞き間違えることのないクレアの声だ。俺はその声の方向を頼りに走って向かった。
別作の「神逆のクラウン」も良かったら読んでみてください。




