第4剣 疑心
「結局、一緒に旅をするでいいんだよな?」
「はあ......もう、それでいいです」
俺達はあの場から一夜を明かして、現在はクレアの指示で森の出口を探している。
そして、俺が背負っているクレアが疲れたような顔をしているのは、俺がクレアの言葉を流しまくった結果だ。
まあ、しつこかったとは思うが、俺の中ではこうなることが互いに最良な結果を生むと思う。もちろん、俺の予想でしかないが。
「それで、次に向かう場所は決まっているのか?」
「今はとりあえず、この森に一番近い村に向かうつもりです。そこでいろいろと調達できればいいですが、無理だったら仕方ないです」
「ま、なるようになるだろ」
「そうですね......そうなって欲しいです」
クレアはそう言うと少し遠い目をした。何か過去の記憶にでも耽っているのだろうか。
まあ、クレアにもいろいろなことがあったんだろうなとは思う。なんせ仲間も連れず一人で旅をしているというのだ。
クレア自身が超強い魔法使いとかだったら話は変わってくるけど、あくまで使えるのは人よりも少し強化された<身体強化>魔法だけだ。
聞けば、武器すら振るったことがないという。振るったのは農工具ぐらいらしい。また、体術を知っているわけでもないという。
こんな丸腰と言っても過言ではない状態で、女の子一人が仲間も作らずある目的のために旅をしている。
それだけで人には言えない何かを抱えているとわかるには十分であろう。まあ、これは無理して今に今にと聞く必要はないな。
「話は変わりますが、今更ですけど、よくあの高さから跳び降りることが出来ましたね」
「まあ、なんというか無我夢中だったというか......そう考えると大蛇との闘いの時もどうしてかあんまり恐怖を感じなかったんだよな」
「あれだけの相手に恐怖しないとなるとそういう状況に慣れているということになりますが......」
「そうなるよな?けど、俺はそんなトラウマ案件みたいなのは体験したことがないんだよな」
俺はまた流れるように嘘をついた。その嘘は体験したことがないという点について。
俺はこの世界に来る前の記憶は駅のホームまでで止まっている。なので、それ以前に何をしていたのかはわからないのだ。
だから、確実な嘘をついているという確証もないが、そちらの方が確信度が高いというのが俺の考えだ。
しかしまあ、ハッキリしていないことをクレアにも言うことはないだろう。それに今は旅を楽しみたい気分だ。
その時、俺の背後から元気にお腹が空いた合図を知らせると音が鳴った。俺は思わず立ち止まってクレアを見てみると恥ずかしそうに真っ赤になっているクレアの姿が。俺は思わず笑みをこぼす。
「腹減ったか?確かに、起きてから何も食ってないしな」
「ご、ごめんなさい////」
「謝ることないって。俺も腹減ってんだ。少し辺りを探してみるか」
「.....はい」
クレアは表情を見られまいと両手で顔を覆いながら頷いた。だがな、クレアよ、耳まで真っ赤なもんでその行動はむしろより恥ずかしさを強調しているぞ。
俺達は当たりを見回しながら何か目ぼしいものがないか探していく。しかし、だいぶ森の奥の方に来てしまったのか、果実がなっている木が見つからない。いるのは魔物ぐらいだ。
俺は急がなければいらないと思った。それは腹が減り過ぎて活動しにくくなってきたのもそうだが、クレアの腹の虫が鳴りっぱなしなことについてだ。
そのせいでクレアが激しい羞恥に襲われていてこのままではどうにかなってしまうかもしれない。それは防いでやらねば。
だが、探せど探せどそのような木は見つからない。なので、仕方なく俺達は魔物を狩ることにした。
出来れば、殺生などはしたくなかったんだが、こうも腹が減っては仕方ないだろう。これも生きるためだ。
俺はそこで一匹のウサギの魔物に標準を向けた。そして、右腕を剣へと変えると気づかれないように距離を詰める。それから、一気に切りにかかった。
「グワ"ア"ア"ア"ア"ア"!」
「おい、待てこの野郎!」
俺はウサギの魔物を切りつけるとそのウサギは勢い余って遠くまで吹き飛んだ。すると、そのウサギをコモドドラゴン風の魔物が掻っ攫っていった。俺は苦言を吐きながらその魔物を追いかけていく。
その魔物の移動速度はかなり早かった。だが、俺は負けじと食らいつく。なんせ仕留めてしまえば食料が2倍になるのだ。
これを逃す手は他にはないだろう。だが、俺はその魔物から段々と距離を開けられていく。
俺には遠距離攻撃は出来ない。そして、あの鱗から見ても石ぐらいの攻撃じゃ、あの時の大蛇のようにピクリとも反応しないだろう。
「クソ......逃げられたか」
俺は結局追いつくことは出来なかった。あの時の大蛇とは逃げることに目的を持っているのなら、俺が追いつくことは到底無理であろう。
さて、これからどうするか。さすがに手ぶらでは帰れないよな。戻るついでに何かいないか探してみるか。
それから、俺は当たりを探しながらあることを考えていた。それはウサギを切りつけた時のこと。
俺はあの時切りつけることになんの躊躇いもなかった。もちろん、ゲームの中では生き物を殺す系のやつもやったことはある。だが、これは現実だ。動物を切りつけることなんて一度も.......
俺は思わず立ち止まった。「ない」とは確信を持って言えなかったからだ。それを確証させるような記憶の断片は残っていない。
だが、こう無意識かで否定できないということは俺が覚えていないだけで、過去のあったということではないのか。
「う~ん」
俺は必死に記憶を探ってみたが、やはり思い出すことは出来なかった。他になにか問題があるのか。それともそうまでして思い出したくない記憶なのか。わからない。
なら、とりあえずは保留だろうか。何かのきっかけで思い出すかもしれないし。
俺はそう思うと再び歩き出す。そして、途中で見つけたウサギの魔物を狩っていくとそれを持ち帰った。その時もやはり切った感触に戸惑うことはなかった。冷静にありのままを捉えていた。
「おーい、帰ったぞ......って、あれ?クレア?」
俺がもとの場所に戻ってくるとその場にいるはずのクレアの姿がなかった。場所を間違えたのか?とも思ったが、目印としてつけた木の×印がちゃんとある。
これは俺の剣で切りつけたものだ。他の魔物には再現できない。
それから、俺は再三声をかけたが、クレアが声を返すことはなかった.....あれ?置いてかれちゃったか?
**************************************
「よくわからない人だな。私なんかに好き好んでついて来るなんて」
私は遠くに見える天野さんの姿を見ながら、いつもの口調で独り言ちた。正直言って、言葉通りの意味だ。
助けてくれたことには感謝しているけど、どうしてそこまでして一緒に来たがるのか。もしかして、一目惚れでもして......ってないない!それは私の乙女解釈過ぎる!
私は思わず思ったことを払拭するように頭を振った。おそらくは「ほっとけない」的な理由なのだろう。
でも、そうだとしても、ついて来るとは思うだろうか。仲間も連れず、一人で旅をしている時点で何か感ずかないものだろうか。
「でも、気さくな人だな......」
私は心からそう思う。口が上手いというかなんというか、こちらの不安を感じさせないような言動は素直に凄いと思う。
けど、そういうのって日常で身につくことなのだろうか?少なくとも相手のことをよく考えないとそういう力は鍛えられないはず。
「不思議な人でもあるんだよね......!」
私がそう言った瞬間、ペンダントが赤く光った。それは私に危険が迫っているということ。嘘、こんな時に......でも、動いていいのかな?だけど、動かないと殺されてしまう。
「痛たた」
私は心の中で謝りながら、左足の痛みを堪えて立ち上がると近くにあった長い棒を支えにしてその場から動き始めた。
別作の「神逆のクラウン」も良かったら読んでみてください。




