第28話 揺らぐ
「カイト、今日はどこ行きたい?」
「く、クレア?こんな朝早くからどうした?」
「あ、遊びに行きたいから.....ね」
隣に座るクレアはやや上目遣いで俺を見てきた。その表情がハートにぶっ刺さる。うぅ、可愛い。最近、クレアが可愛すぎる。あの一件以来、俺の妹フィルターが外れかかってきているのか。
まあ、悪くはないが.....かなりリアクションが取りづらい。俺が下手にローリアクションを取れば、クレアがしょげたような顔をしてしまう。
その顔は殊更に俺の精神へとダメージを与えていく。なので、俺は乗り気でリアクションを取った。
「そ、そうだな。急に言われてもパッとは思いつかない。クレアはどこか行きたい場所はあるのか?」
「私はカイトと遊びに行けるならどこでもいい。それじゃあ、どこか適当にぶらつこうか。なら、ちょっと待ってて、準備してくるから」
クレアはそう言うとスキップしているような足取りで自室へと戻っていった。俺は食堂で出された料理に舌鼓を打ちながら、クレアが戻ってくるのを待つ。それにしても、リアクションをどう取ればいいかわからない。
俺は今もクレアは妹のように見ている。しかし、先ほども言った通りクレアの言動一つでブレブレだ。
それに、妹のように見ているからこそ。クレアのお願いが断りづらい。もともと昔でも妹を過保護に扱っていたことが、ここまで体に染み込んでいるとは。
とはいえ、俺が無理してクレアにリアクションを取っているのは、クレア自身もどこかで気づいているのではないか?
クレアはそこまで鈍いわけではないし、おそらくはそうだと思われる。それがなんとも罪悪感を生んでダメージを与えていく。
俺がこの世界にやって来たのは、あくまで罪を償うためと思われる。俺があの世界で一番に罪を感じているのは、騙して死んだ人のことではない。
妹に何もできなかったことだ。俺は妹に「必ず護る」と誓った。そして、「二人で自由に生きよう」とも。
しかし、体が弱かった妹は自由を手にすることもなく死んだ。俺は約束を守れなかった。
故に、この世界は俺が妹に見立てたクレアを護るためにやって来た。もう二度と俺の目の前でクレアの死を見ないために。
「はあ......」
「どうしたの、ため息なんか吐いて」
「レビィか......なんかクレアの態度にどうすればいいのか迷っていてな。このままあえて乗り気な態度を取り続けるのも、悪い気がするし、それでもリアクションを取らないのはな......」
「そもそもリアクションを取らないなんて出来るの?」
「無理」
俺が即答でそう言うとレビィは呆れたため息を吐いた。そして、俺の顔を一瞥するとさらにため息を吐く。その行動は俺を簡単にイラッとさせる。なんだ?その「仕方ないな~」といった感じの顔は。やめろ、ムカつくから。
「カイトちゃんはさ~、どうしてクレアちゃんがあんな態度を取っているかわかってるの?」
「お、俺への感謝の意味を込めてだろ?」
「わかっているのに、あえてそのセリフを吐くとは.....さすがに想定外だわ~。ねぇ、どうしてクレアちゃんの気持ちにちゃんと向き合ってあげないの?」
レビィは俺に怪訝そうな表情をしながら、そんなことを聞いてきた。その質問に対し、俺はこの世界に来た経緯以外の妹がいた時のことを話した。
すると、レビィは何かがわかったかのように頷くと俺に指をビシッと向けた。
「私が思うにね。カイトちゃんはリハビリをした方がいいと思うの」
「リハビリ?」
「そう、その妹思いを薄めるためのね。『無くす』と言わなかったのは、カイトちゃんの妹思いが確かなものだったから。でも、言わせてもらうけど、もうこの場には妹はいない。そして、その面影をクレアちゃんに重ねるのは失礼と思わない?」
「うぅ......それは......」
俺はレビィの言葉に思わず図星を突かれたような顔をした。それは、全くの正論だと思うから。
俺はクレアの気持ちを考えず、クレアを妹に見立てて接している。しかし、それ自体をクレアがどう思っているかをちゃんと考えたことはなかった。
クレアは俺のことをどう思ってるかを俺は知っている。さすがに、あんな風な態度を取られれば、気づかない方がおかしい。
しかし、俺はクレアに対して真面目に向き合ってないし、今は真面目に向き合うつもりもない。
それは妹が苦しんで死んだのに、自分が幸せになるのは殊更おかしいと思うから。
とはいえ、俺自身の気持ちとクレアの気持ちは関係ない。自分勝手な都合でクレアの気持ちをねじ曲げることは合ってはならない......なるほど、リハビリとはそういう意味合いも含まれているかもしれない。
「わかった。少し頑張ってみる」
「あ、レビィさん!こんな所で会うなんて。グレイさんと一緒にどこかへといると思ってたけど」
「あー、グレイちゃんはどっかで鍛錬しているよ。頑張り屋だよね、本当に。もう少しゆっくりしていてもいいと思うの」
クレアはレビィの言葉を聞きながら、俺のもとへとやってくると突然俺の手を引いてきた。
そして、そのまま引っ張り上げると出口の方へと連れて行く。俺は思わずつんのめりそうになりながらも歩いていく。
「行ってらっしゃ~い」
俺は後方から聞こえるレビィの声を聞きながら、外へと連れ出された。その時に気付いたが、レビィは少しおめかしをしていた。
朝食を取りに来た時のクレアの恰好はラフな感じであったが、今は着飾った少女らしい服装になっている。
加えて、よく見ればクレアの耳や胸元にはピアスやアクセサリーが見られる。それだけ、これから遊び行くことに気合を入れているのだろう。それが分かりやすすぎて、なんとも恥ずかしい。
「そういえば、どうかな?ちょっと、頑張ってみたんだけど?」
「い、良いと思うぞ」
「どういう風にいいと思う?」
俺がクレアに対して、恥ずかしいからおざなりに返しているというのに、クレアはそれが少しわかっているように尋ねてきた。
その顔はなんともイタズラっぽい子供のような顔で、可愛らしい......いやいや、深いことを考えるな。しかし、ここでクレアに好きなようにマウントを取られるのは不味いな。
「そうだなまずは―――――――――――」
そこから、俺がツラツラと言い始めたことは全て遠回しにクレア自身を褒めていくような感じであった。
すると、クレアの顔は見る見ると赤くなっていく。俺はその様子を半にやけになりながら、さらに褒めていく。
しかし、この時俺は気づいていなかった。周りがどれだけ俺達のことをバカップルと思っていたのか。まあ、これは後に知ることだが、その時の俺はクレアと一緒に真っ赤になっていたという。
「カイト......もう......ダメ.......」
「わ、悪い。さすがにやり過ぎたな。ついその顔が見たくなって」
「カイトって、案外イジワルなんだね」
「べ、別にそういうわけじゃなけどな」
「それじゃあ、私だけってこと?ふーん、そっかそっか」
クレアが俺の反応を見ると嬉しそうな顔をする。そんなに俺の反応で一喜一憂されてしまうとなんだかむずがゆく感じてしまうのは気のせいだろうか。
「それじゃあ、あの店とかどうかな?」
そして、クレアは少し路地にある。マイナーな客が選びそうな店であった。もしかしたら、自分のこともあり出来るだけ人目につかないような場所が良かったかもしれない。俺がそう思っているとクレアは告げる。
「ここなら、カイトも周りに気配を配らずに少しは安心して食事が出来るでしょ?」
「!」
違うな。クレアは自分のためじゃない。俺のために言ってくれているのだ。全く、クレアには敵わない。俺はそんなことを思いながら、クレアと一緒に歩いていく。
別作の「神逆のクラウン」も良かったら読んでみてください




