第24剣 潜入
「こっちだよ。急いで!」
「魔物がウザってぇな!」
「いちいち構うな。こんな奴らに時間を食われるのが一番悪い」
俺とグレイはレビィに先導されながら、目的地へと向かって行くと魔物がその行く手を阻むように現れた。
そして、邪魔な魔物を切り裂いていくが、次から次へと現れるため、若干の味止めを食らっているのだ。
そして、俺は襲ってくるのがウザくて、いちいち相手してしまっているのだが、ついさっき怒られてしまった。
だから、俺は魔物の攻撃を受け流しながら動き出すが、やはり魔物相手じゃあまり上手くいかない。これだけ種類も多いと対処に体が上手くついて行かないな。修行ものか。
俺は魔物の攻撃を避けることを意識しながら、グレイ達に置いていかれないように追いかけていく。
そして、しばらく走った所で光の筋がある場所の中に入っていった。そこは人里離れた洞窟であった。
「ここにクレアが?」
「魔物って可能性もあるけど、僅かに汗臭い臭いが残っている。それに、洞窟から甘ったるい香りが漂ってくる」
「それはおそらく揮発性の惚れ薬の可能性が高い。まあ、これぐらい使うのは冒険者だろうな。魔女同士でこんなことはしない。あそこは掟が鉄則だからな。だから、レビィは吸い過ぎるなよ?」
「わかってるよ」
「クレアが危ない!急ぐぞ!」
俺は急かされるように洞窟の中に入っていく。そんな俺の表情を見て、グレイとレビィも俺の後をついて行く。
その洞窟は妙に入り組んでいて、分岐した道が多くなっていた。天然にしては随分と整備されている。
それに、慎重に探索していくと冒険者が見回っているのが確認できた。しかも、ある道の入り口に三人も。
状況から判断するに、あの道だけはどうしても通らせたくないということだ。全く分かりやすい。
というか、そもそもこの場所に人が来ることはまずないから、当然の行動といえばそうなのだろう。
そして、俺達は物陰に隠れる。すると、グレイが俺とレビィに口元に指をあてて見せた。
つまりは「静かに」ということなのだろう。俺はその指示に従って黙り、耳を澄ませるとその三人から声が聞こえてきた。
「あー、下は今頃どうなってるんだろうなー。もう盛っちまってるのかなー」
「バカ、下とか言うな。誰かが聞いていたらどうする!」
「誰も聞いちゃあいねぇよ。そもそもこんな所に誰が来るってんだ。それにしても厄日だなー。久々に連れてきたあんな可愛い少女を味わえもしないなんて。せめて、乱れて喘ぐ声ぐらいは聞きたかったぜ」
「まあ、今頃はそうなのかもしれんがな」
俺はそれを聞いてどうしようもない怒りを感じた。込み上がってくる殺意という感じ黒々しい感情。瞳とともに体温が冷えていくようだ。
そして、俺は無意識に腕を剣に変えていた。そして、俺が動き出そうとした時、その行動をグレイが止めた。
「何するんだ!」
「焦んな。ここでバレれば、クレアがどうなるかわからない。それに、お前の相手はこいつらじゃない。この腐れ冒険者のボスだろ?」
「それじゃあ、あいつらはどうするんだ?」
「それは私達が殺るよ。別に人を殺すことに慣れてないわけじゃないからね」
すると、グレイとレビィはすぐに移動する。そして、その三人の冒険者が二人の存在に気付いて、驚いているうちに瞬殺した。
その光景を見ていた俺は思わず呆然としたように口を開けた。つ、つえぇ......
そして、俺は二人とともに冒険者が護っていた道を走っていく。
すると、その道は行き止まりになっていたが、よく地面を見ると正方形の切り込みがある。それをひっくり返すと下に続く階段を見つけた。
「地下にこんなものを作っていたなんてな」
「急ごう!」
「そうだな」
俺達はその階段を下っていく。その階段を下ってからの道の両端には僅かに明りが灯っているだけで、基本的に薄暗さが残っている。
そして、曲がり角にまで来たところで俺達は止まった。
そこには再び空間があり、さらにいくつもの道に分かれていた。そして、そこに悪漢ども(冒険者という言葉はもう不適合だろうから)がたむろっている。
しかし、明らかに警戒をしていない。言うなれば、さっきの三人とも同じということ。
ならば、やることは簡単だ。またグレアとレビィが瞬殺するだけ。俺がそう思っていたその時、事態は急変した。
「ワンワンワン!」
「「「!」」」
俺達が隠れている所に突如として野犬が現れ、吠えたのだ。そのことに俺達は思わず驚く。
すると、その声によって悪漢どもが反応して、すぐに悪漢の一人が首に下げていた笛をピーと勢いよく鳴らした。これはかなり不味いな。
「レビィ、カイトさん、もう隠れても仕方ない。ここからは本当に時間との勝負だ。やつらから、クレアさんの場所を聞き出すぞ」
「了解だよ」
「わかった」
俺達は野犬を蹴散らしながら、一気に悪漢どもへと迫った。そして、俺達はそれぞれ悪漢どもを倒していき、一人をひっ捕らえた。
そして、質問にちゃんと答えやすくなるように、喉元へと剣を突き付ける。
「や、やめ.....助けて!」
「だったら答えろ。クレアはどこにいる!」
「く、クレア?あ、ああ、連れてこられた少女のことか。その子なら、ここの道のさ――――――――」
「カイトちゃん、この場から離れて!」
「ぎゃあああああ!」
俺がレビィの声を聞いて咄嗟に捕らえた男から離れるとその男に向かって火球が飛んできた。
そして、その火球はその男の顔面に直撃すると焼死させた。その光景を見た俺は、思わず火球が飛んできた方を見てみると悪漢どもがどこからか湧いて出てきていた。
.......これはかなり不味いんじゃないか?グレイとレビィがいくら強いと言っても囲まれては、さらに四倍以上の数は多勢に無勢といった感じであろう。
この空間はあまり広くはない。動くスペースも限られている。
すると、グレイが予備の剣を俺に渡して、告げた。
「カイトさん、おそらく三番の道だ。そっちにクレアさんがいる」
「わかった」
俺はグレイの言葉を聞くとすぐに動かそうとするが、思わず固まった。それは三番がどれかということだ。
この空間には六本の道が伸びている。そして、グレイは「三番の道」の道と言ったが、それがどれかわからないのだ。
簡単に判断するとすれば、二択になる。それは右から数えて三番目なのか。左から数えて三番目なのかということだ。
それによって、クレアの運命が決まってしまうかもしれない。ここは絶対に間違えられない。
俺は刹那の時間で脳をフル回転させる。どちらの道に入っていったかなんてわからない。
だから、俺はクレアが助けを求めている気持ちが残っている方で判断した。俺自身でも正直何言ってるかはわからない。
だが、俺のクレアを信じる心を信じれば、見つけ出せることが出来るはず!
「こっちだ!」
俺は右から三番目の道へと向かって行った。その道をこじ開けるようにグレイとレビィが動いていく。
そして、二人が開けた道に入っていくとグレイとレビィがそのまま足止めしてくれた。
「クレアちゃんを任せたよ」
「カイトさんなら大丈夫ですよ」
「おう、任せろ!」
俺はその道を走っていくとさらに下へ続く階段を下っていく。そして、下った先にはさらに多くの悪漢どもが。
合っているのか、間違っているのかわからない。間違っていたらどうすればいい。やはり根から疑う性がある俺には難しいことだったのか。
いや、信じろ。この世界にやって来たのは、きっと償いをするためだ。そして、それは俺の疑う心に関すること。
だから、俺は疑わない。この世界では人を信じるように努力するんだ。きっとこの先にクレアがいる。
俺はグレイから受け取った剣を鞘から引き抜くと悪漢どもに立ち向かった。
そんな俺の姿をトカゲはジッと壁に這いつくばって見ていた。
別作の「神逆のクラウン」も良かったら読んでみてください




