第2剣 俺の魔法
俺は蛇の姿が段々と遠くに行くのをわかりながらも、足を止めることは止めなかった。理由は曖昧、ただほっとけないということだけ。
なんとなく誰かにチラつくのだ。ハッキリとは思い出せないが、記憶の中にいる誰かに。
俺は蛇が斜面を下っていくのを確認するとそのまま俺も斜面を滑るように下っていく。
だが、その時にはもう蛇の姿がなかった。想像以上に距離が話されていたようだ。そのことに思わず唇を噛む。
「シャアアアア!」
するとその時、遠くから声が聞こえた。その声の主はもちろんあの大蛇であろう。俺はその声の方向を頼りに斜面を横に駆け抜けていく。
それからも何回か蛇の声が聞こえたが、俺はあの少女が無事であることを信じて走る。そして、俺がそのまま辿り着いたのは、ちょっとした崖の位置であった。
「良かった。まだ無事みたいだな」
俺がその崖の眼下から見えるのは、尻もちをつきながら後ずさりする少女と舌をちょろちょろと出しながら迫っていく大蛇。
とりあえず、俺は少女が生きていることに安堵したが、状況は依然として悪いことには限りない。
「さて、どうするか......」
俺はそうは言いながらももうすでに答えを出していた。ただまだ踏ん切りがつかないだけ。
とりあえずわかることとしては、再び斜面を下って大蛇のもとへ向かっても、おそらく手遅れになるということだけ。
それじゃあ、時間をかけずにすぐに少女に向かう方法は何か?となるが、それは実に簡単だ。ここから飛び降りて向かうだけ。
だが、正直思っていたよりも高い。たとえ上手く着地できたとしても、足の骨は完全にイカれるだろう。
だが、もう時間はない。
「ああ、クソ!無茶はしない主義なんだが、仕方ねぇな!どうにでもなれ!」
俺はその崖から少し助走を取ると一気に飛び降りた。目指す場所は蛇と少女の間......ではなく、大蛇の頭。
そこの方が崖からあまり落差がない。問題は上手く掴まれるか。ああ、根性論か......嫌いじゃねぇな!
「おらあああああ!」
「シャアアアアア!」
俺は大蛇の頭に乗るとなんとか掴まれそうな場所に爪を立てながら、しがみつく。すると、俺の大胆な行動を見ている少女が視界に映った。
なので、とりあえず、不安を与えぬように平気だという意味のサムズアップをしとく。
「うわああああ!?」
だが、大蛇もそう簡単に乗せ続けてくれるわけではないらしく。その頭を大きく前後に振って、俺を少女の方へと吹き飛ばした。
俺は思わず声をあげながら、地面へと叩きつけられる。ああクソ、めっちゃ痛てぇ。
「ど、どうしてここに来たんですか!?」
「ん?まあ、なんとなくほっとけなかったから?」
「私に聞かれてもわかんないですよぉ.....」
俺の存在に驚いていた少女は、俺の返答を聞くと気弱な感じで返答した。さて、話すのはここまでにして、この大蛇を何とかする方法を考えないとな。
まず、現状でハッキリとしていることは、今俺達は丸腰であること。素手であの大蛇に挑むとは無茶というもの......いや、無理か。
そんでもって、少女は左足を捻挫して青あざを作っている。これはさすがに走れない。となれば、背負って走るということになるが、あの大蛇には簡単に追いつかれるだろう......
というか、この少女はよく生きてたな。俺でも追いつかない速度の大蛇に逃げ切るなんて。魔法でも使ってるのか?......あ、魔法!
この世界はファンタジーみたいな世界だと思っていたんだ。となれば、この少女は魔法とか使えるかもしれない。そう思うと俺は少女にすぐに聞いた。
「なあ、魔法とか使えたりしないか?こう、炎を手から出すような感じのやつ」
「私は身体強化魔法しか使えないんです.......ごめんなさい」
「いや、気にすんな」
はい、詰みー!いやいや、この状況ではそう思ってもおかしくないでしょ。だが、よくよく考えてみれば、この少女がそういう風な魔法を使えるのだとしたら、とっくに魔法を使っていたはずだ。
これは考えれば、わかることだった。クソしまったな、俺の余計な質問で余計な時間を食っちまった。
当然、その間にも大蛇は追い詰めたネズミを見つめるようにじりじりと迫ってくる。そのことに俺は焦りを感じながらも、案外思考はクリアに動いていた。
そして、その思考のまま流れるように、自分にそういう魔法が使えないか確かめる。しかし、望んでいたようには使えなかった。
「シャアアア!」
「!......クソ、剣でもあれば良かったのによ!」
俺は口を大きく広げて襲ってきた大蛇に向かって、自分の右手を思いっきり突き出した。
それはせめてもの攻撃だったが、その瞬間、俺の右腕は一つの剣の刀身へと変わった。俺はそれに驚きながらも、体は自然とその右腕を咄嗟に突き出していた。
「ジャア"ア"ア"ア"ア"ア"!」
「チャンスだな!」
俺の突き出した右腕は大蛇が口を閉じきる前に喉元へと刺さった。自分の右腕が剣となっているせいか感触もしっかり感じる。
俺はその右腕で大蛇の喉を抉りながら、左腕を剣になるよう念じた。すると、左腕も剣とかした。
どうやら、俺の魔法は自身の体の一部を剣に変えるというものらしい。まあ、まだわからないことはたくさんあるだろうが、今はとにかく一番信用できる武器だ。
俺は大蛇が未だ怯んでいる隙に左腕の剣を大蛇の顎下から思いっきり突き刺した。そして、一気に引き抜く。
すると、大蛇はその頭を引いていき、その口と顎からは多大な量の血を流している。かなりダメージを与えられたようだ。
「ジャアア"アア"ア"アア!」
「くっ!」
大蛇は俺が喉へとダメージを与えた影響か時折ダミ声にも似た声をあげると先ほどよりも速い突撃をしてきた。
どうやら、この大蛇は頭をプッツンしてしまったらしい。その攻撃に対し、俺は咄嗟に腕をクロスさせ防御したが、勢いまでは殺せず、少女を通り越して吹き飛ばされた。
俺はその勢いに引きずられながらもすぐに立ち直すと大蛇は俺でなく、少女を襲おうと攻撃を仕掛けていた。
そのことに、俺はすぐに走り出す。焦りはある、なのに依然として思考はクリアだ。まるで、こういう緊迫した状況に慣れているみたいに。
「避けてください!」
「!」
俺は大蛇の向かっていくと不意に少女は俺に向かってそう言った。
すると、大蛇の攻撃モーションは俺を誘い出すための罠だったらしく、ギョロリとした瞳を俺に向けながら、少女へと近づけた頭を流れるように俺へと向けてきた。当然、その口を大きく開けて。
だが、先ほどと違いがあるとすれば、その蛇の牙には雫が滴っていた。あれは十中八九毒であろう。
そして、大蛇の目的はその毒を一滴でも俺の中に流し込むこと。アナコンダとは比べ物にならない太さと大きさ。まさに異世界クオリティと呼べる蛇だ。流し込まれたら即死であろう。
俺は咄嗟に横へと飛ぶ。だが、当然大蛇はその軌道に合わせて方向を変えてくる。そこに俺は、右腕を地面へと刺すと左足を横に大きく振るった。もちろん、その左足も剣に変えてある。
「ギャアアアア!」
「いい加減、くたばれ!」
俺の左足の攻撃は大蛇の口を切ることに成功した。それによって、大蛇は思わず頭を引っ込める。
そこに俺は左足をも元に戻して、一気に接近する。そして、届かない位置までに頭を上げられる前に、両腕を合わせて大蛇の喉に突き刺すと一気に横に開いた。
俺は大蛇からの血を浴びながらも、大蛇がその体をゆっくりと地面に崩れ落ちるのを確認していた。
そして、その蛇が動かないことを確認すると両腕を元に戻して、少女のもとに向かった。
良かったら別作の「神逆のクラウン」も読んでみてください(*‘ω‘ *)




