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第11剣 記憶にこびりつくもの

 俺は老人との話が終わると早速回復薬を受け取った。そして、その回復薬をクレアへと飲ましていく。


 するとあら不思議、クレアの左足首にあったあざがなくなっていくではないか。そして、クレアは感触を確かめるように立ち上がった。


 クレアは特に痛みを感じた様子もなくただその場を歩く。そんなクレアを見て、この世界はつくづくファンタジーであることを実感させられる。まあ、俺の手足が剣になる時点で今更だとは思うが。


「クレア、調子は良さそうだな」


「うん! これで、森へとカイトさんに迷惑かけずに済みそうだよ」


「それはどうかわからないぞ?またふとした拍子にコケるかも」


「そんなことないよ! もう大丈夫だから!」


 クレアは俺の言い分が気に食わなかったのか思わず怒鳴るような言葉で返した。クレアの表情は頬を膨らませて怒ったような表情をしている。


 だが正直に言って、全然迫力はない。むしろ、可愛らしいと思うぐらい。


 それに、俺がクレアに言った言葉は冗談めかした感じではなく、割とマジだったりする。それはクレアに戦闘能力があるかということ。


 以前、クレアは使える魔法は身体強化のみと言っていた。そして、これまでのクレアの性格から思うにその言葉は嘘ではない。だとすると、現状で武器を持たないクレアは素手で戦うことになる。


 しかし、ここで思うのはクレアは徒手格闘とかできるように思えないのだ。まあ、それをハッキリと確認した場面はないので、決めるのは総計だとは思っているが。


 大蛇の時は相手との体格差とか、魔女一派の時は足をケガしていたというのもあったわけだし。


 けれど、素手で戦うのは実に危険だ。この世界は何がいるかわからない。それこそ、この世界のことを知っているクレアでさえも全てを知っているわけではないので、そんな危険が森に潜んでいないとも限らない。


 俺も実質素手で戦っているようにも思えるが、それでも剣という武器を使っている。そして、この世界にいるであろう格闘家も拳にメリケンサックとか、ガントレットとかを使っていると思う。


 まあ、クレアのポーチに役に立つ魔道具的なものがあるかも知れないが、咄嗟に出すとすればやはり剣のような武器だろう。


 そして、俺は老人に声をかけようとしたが、思わず止めた。それは、老人との信用にかかわる話だ。


 現在、俺と老人には口約束の上で契約がなされている。それは酷く脆い信頼関係だ。


 まあ、俺がクレアのためにいろいろとやり過ぎた面もなくはないが、現状老人には俺達の目標を達成してくるという信頼よりも、このままとんずらするのではないかという疑心の方が勝っているはずだ。


 その状態で、俺が老人に「剣でも貸してくれ」と言おうものなら、その疑心度はさらに上昇するだろ。


 なので、これ以上は老人に何かを頼むことは出来ない。もうすでに見返りは貰っていることだしな。


 なので、俺は仕方なく立ち上がる。そして、クレアと共に森へ向かう.....前に、ベットに寝ている少女の方へと顔を向けた。


「......」


「どうかしたの、カイトさん?」


 俺はその少女を見るとただ無意識のままその姿をジッと見た。可愛らしいからとかそういう理由ではない。


 ただ吸い寄せられるようにこの少女を眺めているのだ。その時、俺の頭の中に状況は似てるが、この少女とは全く別の少女の姿がビジョンとして現れた。


「くっ.....」


「大丈夫なの?」


 同時に、頭に締め付けられるような痛みが走った。俺は思わず頭を抱える。そんな俺を見てクレアは心配の声をかけるが、俺はそれに構うことなく記憶にいる少女へ意識を送った。


 その少女は、俺が今見ている少女と同じようにベットの上で寝ている。だが、違いはこの空間より広く、そして全体的に白い。それから、その少女の口元には何か機材のようなものがつけられている。


 その少女が眠るベットの横にも機材が置いてあり、そのベットの傍で座っているのは......わからない。だが、見覚えは確かにある。そして、この少女の存在を。


「可愛らしいね。この子を見ていると妹を思い出すよ」


「妹......!」


 俺はその時、しっかりと少女の姿を確認した。見慣れた感じのする髪、キレイな目鼻立ちに、小さな顔。そうだ!そうだったはずだ!俺はなぜ今の今まで妹の存在を忘れていたのか!


 転生した影響で記憶を吹っ飛ばしていたのか。だとしても、これは忘れてはならない記憶のはずだ。


 俺には妹がいた。その妹を置いてきて俺は死んでしまった。今は妹はどうしているのか。無事に病を治しているのか。それはどうかはわからない。


「カイトさん?」


「......行こう」


 俺は思わず妹から目を逸らすように、その少女から顔を逸らした。自分の罪から逃げるように。


 そんな暗い顔をする俺にクレアは怪訝な顔を浮かべるが、俺にそれ以上声をかけることはなかった。


 それから、村を離れて森に向かう最中までクレアと俺は会話をしなかったが、さすがのクレアもこの空気には耐えかねたのか俺に声をかけてきた。


「それにしても、用があるとはいえまた森へと戻るとは、なんだか不思議な感じがするね」


「......そうだな」


「薬草って集めたことないんだよね。魔女といっても魔法研究ばかりで、まあ魔道具とか回復薬に着手する人もいたらしいけど、そういう人達は魔法研究の方に引っ張られたんだって。だから、今も回復薬より上位のものはほとんど市場に出回らないらしいんだ」


「......そうなのか」


「ほ、他にもあってね。それは――――――――――――」


 クレアは俺との調子を必死に取り戻そうとしているが、俺の返事がおざなりのせいでほとんど会話が成立していない。


 しかし、クレアはそれでもめげずに話しかけてくるが、今の俺はそれどころではないのだ。


 今は単純に罪悪感に押し潰されそうになっている。それはもちろん、妹のこともう気にしないように、過ぎ去ったことだからと思っても頭の中にこびりつくようにその光景が頭から離れない。


 それに、このベットに眠る妹にはまだ続きがあるような気がしてならないのだ。自分はまだこの続きを思い出すのを拒んでいる。だから、先ほどから思い出そうとしても靄がかかって一向に先が見えない。


 加えて、俺はそれを思い出したくはない。しかし、思い出さなければならないような気が多大にする。そしてそれは、ないがしろにしてはいけない。


 俺は苦しさを吐き出すようにクレアに話かけた。


「俺はどうすればよかったんだろうな」


「......過去に何かを抱えているのだとして、それが果たせない何かだとしたらもう前に進むしかないよ」


 俺のとりとめもない言葉にクレアは自身の気持ちを率直に答えてくれた。


 「前に進む」それは言葉にすれば簡単だけど、行動は全く簡単ではい。それは俺が今実感していることだし、酷く心に来るものだ。


 俺が前に進むとしたら、それは妹の存在を忘れるということだろうか。だとしたら、それは酷く難しい話になる。すると、クレアは俺のそんな気持ちを察したように言葉を続けた。


「私も人のことは言えません。復讐の旅に出ている時点で、矛盾したことを言っていると思う。でも、私とカイトさんは違う。だから、カイトさんはどうか私とは違う道を歩んで欲しい。私はそう願っている」


「そっか。なら、クレアも目的を果たせたときにそう思えたらいいな」


「......そうだね。私も前に進めたらきっといいだろうね」

 

 クレアの言葉はどうも他人事のように聞こえたが、さすがにそれは気のせいだろう。俺は一つ息を吐くと両手で顔を叩いた。


「よし、張り切っていくぞ」


「うん!」

別作の「神逆のクラウン」も良かったら読んでみてください

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