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Zagroud Fertezia ~堕ちた英雄と記憶喪失の少年~  作者: ZAGU
第一章『強欲の国』
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突き当たりへの活路

 時刻は晩課。

 武器屋の情報通り、情報屋と呼ばれる場所の近くまで到達しようとしていた三人は、地面に敷かれた甃の上をこつこつと音を立てながら歩く。

 あれだけ賑やかだった通りも、路地裏へと足を運べば静寂が支配し、月明かりが一方的に闇を照らし出す。

 この様な人通りの無い怪しい場所には、人の姿が見えなければ街灯すら無い。

 だが妙な違和感を覚える。

 人混みを離れたせいか、路地裏に入ってから人の気配を感じるのだ。


「……誰かいる」


 自分達ではない、誰かの気配を気にするクロが小声で知らせる。


「分かってる……」


 ジルクリードが頷いた。

 彼もまた背後の存在を気にしているようだ。反対を向けば、リーシェも同じような反応をしている。

 この状況で三人を尾行する様な物好きはドラノフの関係者か、闇の組織といったところだろう。

 そして入り組んだ路地裏の中で、一ヶ所だけ突き当たりが見えてくる。おそらくあの武器屋の男が言っていた情報屋の入口で間違いないだろう。

 何の変哲もないただの壁には質素な扉が一枚、闇の中でひっそりと訪問者を待っていた。

 だがこのまま入ってしまえばせっかくの情報も手に入らない可能性もある。

 そんな危機感がジルクリードの足を止めた。


「いい加減俺達に付きまとうのはやめてもらえないか?鬱陶しくて胃に悪い」


 彼の呼び掛けに対し、背後から感じていた気配は静かに動きを見せる。


「やむを得ないな……」


 観念の声と共に現れた気配の正体は一人だけではなかった。同時に四方八方から姿を現した人影は、その人数凡そ七名はいるだろう。

 まるでクロ達が来るのを待ち構えていたかの様に動きがいい。

 彼等は長いローブで体の輪物線を不鮮明にし、それぞれに仮面を付け、素顔を隠した姿でクロ達を見据えていた。


「随分と用意がいいな……」


「神の子とその同行者二人、我々についてきてもらう……」


 背後に立つ仮面の人物が喋る。


「誰だあんたら、ドラノフの飼い犬か?」


「抵抗しなければ痛くはしない……」


 慎重に問い返すジルクリードに、仮面の人物が意にそぐわない言葉を淡々と告げていく。


「……聞く耳無しか 」


 ……複数で囲まれている分、こっちが不利だな。どうする……。


 気配が単体であった分、待ち伏せていた者達がいたのは正直想像していなかった。

 ジルクリードは普段から考える事を棄てようとする自分の性格を大層憎んだ。


「リーシェ、ジル……」


 そんな彼を、クロがふと呼んだ。

 クロは、フード越しに視線を向けるジルクリードを見上げる。


「私が魔術紙で辺りを照らす。その間にリーシェの召喚獣でここを離脱しよう。ジルは召喚までの時間稼ぎをしてくれ……」


 よもやこの少年からそこまでの打開策を提案されるとは思わなかったのか、ジルクリードは一瞬驚きの表情を見せると、口元を吊り上げた。


「ああ、分かった」


 クロは頷くリーシェとジルクリードの返答を確認すると、ローブで動きを隠しながら魔術紙が入った布製の袋へと手を入れる。


「逃が……」


 同時に仮面の人物が指示を下そうと右手を差しのべようとした、その時だった。

 クロ達を囲む仮面の人々は、今にも襲い掛かろうとする姿勢のままその動きを止めていた。

 一瞬時が静止したかの様な空間が支配した後、彼等は崩れる様にその場で倒れた。


「……!?」


 一斉に倒れる彼等を動揺しながら見るクロ達に、新たな足音が近付いてくる。


「さっきからねずみ共がうろちょろしているかと思えば、見た事のある顔だな」


 ジルクリードは、声のした方向へと目を転じると、目を見開く。


「ブレイス……」


 見覚えのある濃褐色の短髪の若い男。それはあの時、王宮からジルクリードとクロが脱出する際に僅かな間だけ見掛けた男だ。

 よく見れば周囲に居た仮面の人々の位置から別の人物が武器を手に姿を見せている。

 どうやら同時に彼等を無力化させたみたいだ。


「ようジル!暫くぶりだな!」


「な、なんでお前がここにいるんだよ……」


 ジルクリードは少々警戒した。

 王宮で見掛けた彼の立場を考えれば、ドラノフの陰謀に一枚噛んでいる可能性がある。そう思っていたからだ。


「詳しい話は後だ。取り敢えず中に入りな」


 そう催促されたジルクリードは、素直に踏み出せずにいる。


「ジルクリードさん。彼からは悪意を感じません、ご一緒しましょう」


「その根拠は何処から来てるんだよ……」


 相変わらず彼女の突然来る迷いの無い判断には理解出来ない。千里眼の能力でも持っているんじゃないかと疑う程だ。

 そうリーシェの判断に、ジルクリードが困惑する。


「そういう事だ。案内するぜ」


 彼女の言葉に便乗するブレイスは、困惑するジルクリードを置いてクロとリーシェを見ると、親指を立てて路地裏の突き当たりへと差した。

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