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1.パーティー・メーカー



 陽の光。

 水底にまで差し込んでくるそれは、遠い空の遥か彼方にある。

 太陽は人間のものだと思っていた。

 でも、陸に高い塔を建てられる人間ですら、太陽には触れられない。

 ただあの光を享受するだけ。私たちと同じように。

 東に行けば繁栄している国があるらしいことを知識としては知っていた。そう遠くないけれど、不用意に陸地に近づいて人間に見つかっては危険だからと、ほとんどの人魚は近づかない。

 東の国の王子は近頃友好国の姫と結婚し、国全体が祝福ムードらしい。

 豪華な船上で行われた王子と姫の結婚記念パーティーを、私もこの目で見た。

 国を担う二人の、幸せな結婚。

 誰もが喜び、祝福し、歌い、踊り、笑っていた。……哀れな妹以外は。



 妹が泡と消えた場所に、私は姉たちよりも長く留まっていた。

 姉たちは泡になった妹を見届けると、それを王に報告するため、再び海の底へ戻って行った。私も長く海面に顔を出しているのは危険だと思った。

 でも私たちは一番歳の近い姉妹だったのだ。

 そして、私のたった一人の妹。

 妹だった泡が、やがて船の波紋にかき消されて散って行った。

 私は妹の命を散らした船について行った。

 誰か、船の上の誰でもいいから、気づいてあげて。

 私の妹の命が今散ったこと。

 短い時間でも、妹と一緒に過ごした時間があるはずでしょう……。

 賑やかな音楽にかき消されて、妹が海に身を投げても何も聞こえなかったのか。

 船はただ、祝福だけを乗せて夜の海を進む。


 一目惚れとは、いかに抗いがたい衝動か、私は妹からよく聞いていた。

 私を含め、五人の姉が必死になって止めた。

 魔女を頼るなんて。

 人間との恋なんて。

 叶いっこない。

 私たちは人魚なのよ、海に住んでいるの、陸に住んでいる人間とは、住む世界が全く違う。生き方だって違う。うまくやっていけるはずがない!

 妹はそれらを全部否定しなかった。

 ただ、それでもいいと言って、一人、深海の魔女の元へと向かった。

 姉たちは忠告に耳を貸さない妹に呆れていた。私だけは魔女の棲家に向かう妹の姿が見えなくなるまで見送っていたけれど、彼女は一度も振り返らず、ためらいもせず、ただひたすら海の底へと向かっていった。



 船上のパーティーを見ていると、花火が上がった。人間たちも静かに夜空を見上げている。中にいたらしい人間たちも花火を見ようと次々と甲板に集まってきた。

 皆が空を見ているというときに、一人、海を眺めた男がいた。油断して船の近くにいた私とはすぐに目が合った。

 私は慌てて海へ戻り、振り返らず海底へと急いだ。

 人間に見つかったら捜される! 明日にも、この一帯を捜索されるかもしれない。心臓がうるさくてもう花火の音さえ聞こえなかった。

 自分の浅はかさを呪いながら底へ底へと泳ぎながら、男の、静かな驚きを湛えた瞳の色、花火の光を受けて燃えるように染まった髪の色が、交互に瞼の裏でちかちか光った。

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