森をさまようオオカミ
暖かい光りがさんさんと降り注ぐ、のどかな森でオオカミがお腹を押さえながらぶらぶらと歩いていました。
「どうしてオレはこんな面倒くさい方法でなければ、餌が取れないんだよ! もう襲い掛かるでいいじゃねえか。そもそも誰がこんな面倒な制約を作りやがったんだよ! 本当にあり得ない…」
そう、このオオカミには決められた制約がありました。それは人間を襲うときには必ず声をかけ、それに答えてくれた者だけを喰えるというものです。もちろんオオカミが声をかけても悲鳴を上げて逃げるか、まれに攻撃してくることがあるぐらいで返事をくれるものはいません。
オオカミは飢えを満たすために、動物や果物などを口にしますが、いくらそういった物を食べてもなぜか本当に飢餓感がなくなることはありませんでした。
「ちっ、面倒な。人間がオレに返事するわけがねーだろうが」
オオカミがいらだちを込めて蹴っ飛ばした石は、色とりどりの花が咲き乱れる花畑に飛んで行きました。しかし、花の甘やかな匂いはオオカミのいらだつ気持ちを静めることにはならなかったようです。
ただもやもやとした想いを抱えながら飢えをしのぐためにまたオオカミは、動物を狩りに走り出しました。
オオカミは知りません。それを苦悩のまなざしで見つめている男がいるということを…
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