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7.

「オーフィリア様!!」

「あなた達、揃いも揃ってどうしたの?」

 

 謁見の間からトビラを開けたところには、メリアンヌ、スチュアート、ミラリオ、ケイネスの4人と、付き添いのように一歩下がったところでこちらを眺めているザガン王子の姿があった。

 

 

「もう行っちゃうんですよね……」

「ええ。屋敷に荷物を取りに行ったらここを出るわ」

「もう王都を出て行く必要なんてないのに……」

 捨てられた子犬のようにフルフルと震えて涙を浮かべるスチュアートの頭を慰めるようにポンポンと叩く。

 

「出て行くんじゃないわ。旅に出て、この国を見て回るの。陛下から国の活動員としての役目も賜ったことだし、ね」

「さすが、お嬢!!」

「さすがじゃないわよ、国王陛下からの御厚意に甘えさせてもらったの」

「それでもやっぱりお嬢はすごいや」

 

 ケイネスはカラカラと笑いながら、いつものように私を過大評価する。

 

「あ、そうそう、スチュアートとケイネス、あなたたちに私の重りコレクションを進呈するわ。場所は分かるわよね? 残しておくから2人で分けてちょうだい。それと……私が居なくなっても鍛錬は怠らないようにね!」

「はい!」

「俺らはザガン王子の近衛騎士団を一から叩き直すつもりですから、お嬢が帰って来る頃にはきっと少しはまともになっているはずです。だから留守は俺らに任せて行ってきてくだせぇ、お嬢」

 

 ケイネスの言葉にチラリとザガン王子の顔へと視線を移すと、やっとスカウトに成功したらしい彼はホクホクと嬉しそうな笑みをこちらへと向けた。


 オーフィリア=フラットマンの閉幕のシナリオが書き換えられたのは、彼らがその後ザガン王子に好印象を持ち、出来ることなら城に仕えて欲しいという下心もあったのだろうと、彼の顔を見た今ならわかる。

 だがそんなことしなくても私も、この子達ももうザガン王子のことは信用しているのだ。そうでなければ家族同然のメリアンヌを嫁になどやるものか。

 

「じゃあ私がまた王都に帰って来るまでザガン王子とメリアンヌのことをよろしくね」

「はい!」

 スチュアートは涙を拭いて、ケイネスは相変わらずの笑顔で心強い返事を返す――この2人とメリアンヌは心配なさそうだ。


 問題は……と残りの1人であるミラリオへと視線を移すと、爛々と目を輝かせた彼が小さな袋を胸へと抱えていた。

 

「お嬢! これもらってください!」

「これは?」

「俺、王都のガジ爺さんのところに弟子入りすることにしたんです。それで、俺はまだまだ爺さんみたいな武器は作れないけど、よければこれ……俺が作った銃、持って行ってくれませんか?」

 

 ミラリオは手先が器用で、フラッドマン家に来た頃から鍛治や装飾の腕前は一流だった。

 けれど人との関わりがどうも苦手らしく、技術があるのに私と遊びでする以外は武器や装飾品も作らず、ずっと庭師の手伝いのようなことをしていた。


 私と出会う前、彼に何があったのかは知らないけれど、王都に来てから何年経った今もまだフラッドマン家の使用人以外とは関わりを持とうとも、自らの意思で槌を振るおうともしなかった。

 無理強いはしたくないが、もしもミラリオが師を持ち、その道を極めれば国一番の、いや世界一の鍛治師になることができるだろうとずっと思っていた。

  実際、ミラリオと一緒に作った剣を見た馴染みの武器屋のガジ爺さんはずっとミラリオに「うちに来い」と声をかけ続けてくれていた。

 

 それがようやく……。

 

「ミラリオ、ありがとう。もらって行くわ!」

「お嬢が使いやすいように普通の銃弾の他に、魔力弾を撃てるようにしたのと、本体も鈍器として使えるように強化してありますので、旅のお役に立ててればと!」

「魔力弾? 何それ?」

「お嬢は強化魔法が得意ですから、それを発動する要領で持ち手を握っていただければその魔力が弾として放出される仕組みを追加しました」

「すごいじゃない、ミラリオ!」

「これもガジ爺さんに教えてもらった技ですけどね」

「でも作ったのはミラリオでしょう? すごいわ!!」

 

 へへへと頬を掻くミラリオの頭をわしゃわしゃとかき混ぜると、他の3人も混ざるようにして「やったな」とミラリオの肩を抱いた。

 


「オーフィリア、私からも一つ言いたいことがある」

 今まで後ろで傍観を決めていたザガン王子が、手をあげながら一歩二歩と歩みを進める。

 その横でメリアンヌは嬉しそうにニコニコと微笑んで、他の3人も伝染するように笑みを浮かべる。

 

 これ以上、何があるのかしら?と首をかしげるとザガン王子は驚きの言葉を口にした。

 

「フラッドマン所有の屋敷及び私財だが、一度国所有の物にした上で、この度の活躍の報酬としてオーフィリア個人に与えることとなった。もちろんクロニスタ=フラットマンの所有物は没収するが」

「え?」

「屋敷の手入れは今日付けで城の騎士となった、スチュアート、ケイネスの両名にさせることとなったが、異論はないな」

「……何から何まで、あなたたちはどれだけ私に与えれば気がすむのよ」

 

 全部失くなるって、そう思って感傷に浸ってたのに、結局失くなったのは『公爵』の地位だけ。

 それ以外は全部残しておいてくれるんだから、全く……私、こんなに幸せでいいのかと考えてしまうほどだ。

  込み上げてくる涙を力強く拭って、愛する家族と友人に最大の笑顔を見せる。

 


「じゃあみんな、元気でね。定期的に連絡するから」

「いってらっしゃい!」

 

 散歩でも行くように軽くヒラヒラと手を振って、私はいずれまた帰ってくるアッサド王国王城をあとにした。

 

 



 叔父と彼の息がかかった使用人全員がいなくなったフラッドマン屋敷は不思議なほどに静まり返っていた。

 まるで浄化されたように軽くなった空気をゆっくりと吸い込んで、部屋へと足を運ぶ。

 

 国王陛下からアイテム保管の出来るネックレスをもらったとはいえ、そんなに大量に持って行くのは避けたい。

 

 旅の道中で何を買ったり、手に入れたりするかわからないし。

 それに陛下に送る『お土産』も。

 

 ――ということで、持って行くのはお気に入りのドレスが5着とその他の細々とした着替えにミラリオからもらった銃、それとやっぱり手に馴染んだナイフと銃は必須でしょ?

 後は忘れちゃいけない、お金と魔石。

 

 後は――ユニコーンの角。

 ミラリオからもらった銃は魔力を込めればいいとのことで、銃弾は節約できそうだけど、換金出来そうなものは持っておくに越したことはない。

 


  収納と念じながら手をかざし、持っていくものをポンポンと保管庫に入れていくと、意外にも収納できる量が多いことに驚いた。

 これってどれくらいの量が収納できるのかと、ストレージを確認して、思わず目を見開いた。

 


 私の荷物はわずか許容量の1パーセントにもなっていなかったのだ。

 なんなら私の着替え全て入れても5パーセントにもならないだろう。けど、入れなくてもいいか。


 どうせ夜会やらお茶会やらに出席するために作ったドレスである。

 後で、メリアンヌにでも手紙を出して孤児院か何かに寄付してもらうことにしよう。

 

 バザーで売るなり、子どもたちの身体に合うように繕い直すなり、あの子ならどうにかしてくれるだろう。

 

 ――うん、こんなものかな。


 涙水晶のネックレスを首から提げ、ミラリオの銃は腰に下げる。ナイフと元々持っていた銃は左右の足のホルダーに入れて――っと。


 そして自分の姿を全身鏡で眺める。

 映っているのは今から旅立つというのに、想像以上に身軽な格好で、なんとも動きやすそうな私の姿だった。


 

 準備を終えた私は住み慣れた屋敷を出て、クルリと身体を反転させる。

 そして「行ってきます!」と誰もいない屋敷へと挨拶をする。

 

 ――ここにまた帰ってきた時には「ただいま」と言うために。


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