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6.

「オーフィリア。国のためによく働いてくれたこと感謝する」


 あの後、すっかりザガン王子によって私は『裏で悪事を働く貴族達を一掃するために自ら協力に名乗り挙げた勇気のある令嬢』という身分不釣り合いな称号を与えられてしまった。


 そしてその働きへの褒美を与えるために、との名目で数年ぶりに城の王の間に通された訳だが……はっきり言って居心地が良くない。


「それは違いますわ、陛下。私はただ私のために動いたのです」

 なにせ私は私のために動いたのだ。


 ザガン王子のことも利用した。なんならメリアンヌのことだって。

 

 だから私が彼らに感謝をすることはあれど、私が国王陛下に感謝される理由などどこにもないのだ。

 

 ですからそれは私には勿体ないお言葉です、と告げると国王陛下はあからさまなほどに深いため息を吐いてみせる。

 

「はぁ、オーフィリア。君の強情なところは父親譲りだな……。そこは適当に受け流して褒美でももらっておくのが一番だ」

 

 その言葉に、口調に懐かしさを覚えた。

 それは『国王陛下』からのものではなく、お父様の親友の、私を昔からよく知っていてくれている『サーヴィスおじさま』からの言葉だったからだ。

 

「そうですか?」

 ならば私も少しの間だけ、昔に戻った気になってサーヴィスおじさまに甘えるように小首を傾げる。

 するとサーヴィスおじさまは嬉しそうに、そして呆れるように笑う。

 

「ああ、貰えるものはもらっときなさい。というよりもこの度大いに国に貢献してくれた君に褒美なしというのは国王としての私の体裁に関わる。だから協力するつもりでもらってくれ」

「あら、それは是非頂かなくてはいけませんわね!」

「ああ、そうしてくれ。……例の物をここへ持ってきてくれ」

「はっ」

 

 サーヴィスおじさまが使用人にそう声をかけるとすぐさま『それ』用意された。

 

「さぁオーフィリア、受け取ってくれ」

 そしてそれをサーヴィスおじさまは満面の笑みを浮かべながらズイとこちらへ差し出す。

 

 私はそれを「遠慮します!」とおじさまと同じく笑顔で、全力の拒否をする。

 

「貰ってくれると言っただろう!」

「涙水晶のネックレスなんていくらすると思っているんですか!? この国の官僚として3年勤めてやっと買えるかなどうかですよ?!」

 

 人の流す涙のような形をした天然物の涙水晶といえば、年に2〜5個採掘できるかどうかと言った代物である。

 

 ザガン王子が鉱石マニアだと知ってからほんの少しの間だけではあるが、ミラリオと共に色んな山々を巡ったものだ。

 私は石の種類など全く分からなかったのだが、さすがはドワーフだけあってミラリオは私の採掘していった鉱物を端から仕分けしてくれた。

 期間は短いとはいえ結構な種類を掘り当て、ザガン王子とミラリオには劣るものの、中々の知識を手に入れた私だったが、さすがに涙水晶は採ったことがなかった。

 

 それほど貴重で珍しい石なのだ。

 そう簡単にありがとうございますなんてもらえるわけがない。

 

 もらえませんよと手を横にブンブンと振ると、陛下は安心してくれとばかりにニヤリと笑みを浮かべた。

 

「安心してくれ、オーフィリア。これは涙水晶のネックレスではない」

「え?」

「アイテム保管と通信機能が付いたネックレスだ。あくまで涙水晶は魔術を込めるための媒体でしかない」

「どっちにしろ涙水晶は使ってるじゃないですか!!」

 

 よりによってなぜ涙水晶なんて貴重な品を媒体になんかしたのか。

 通信機能なら普通の魔石にも付与できるし、なんなら貴族の家の子どもならアクセサリーのどれかに付与されているくらいだ。

 それにアイテム保管だって大体の商人なら持っているスキルでそう珍しいものでもない……っていや待てよ?

 

「……もしかしておじさま、何か企んでいるでしょう?」

 

 もしかして、なんて可愛いことは思っていない。

 ザガン王子が腹黒なら、その父であるサーヴィスおじさまなんてもっと真っ黒黒なのだから。

 

 身内には絶対に意地悪なことはしないけど、悪巧みならおじさまより上を行く人を私は見たことがないほどである。

 そんなおじさまがこんなに高価な物を贈るなんて、理由は自ずと限られてくる。

 

「おじさま、これは報酬ではなく……投資なのでしょう?」

「さすがオーフィリア! 我が親友の娘よ、話が早くて助かる!」

 

 ニコニコと笑うおじさまはまるで子どものようで、バシバシと私の背中を叩く手には遠慮を少しも感じない。

 痛くはないが、こんな姿に国王陛下の威厳などは感じない。

 誰かに見られでもしたらどうするのかしら?なんて心配は不要なのだろうが、それでもおじさまのこのハイテンションっぷりにはついていけない。

 

「それで、私は何をすればいいんです?」

 こんな時はサッサと要件を聞くに限るとおじさまの目を覗き込むと、ああそうだと落ち着いたように手を止めた。そして一歩私から遠ざかって、わざとらしく咳払いをする。

 

「実はオーフィリアには国の活動員として旅をしてほしい」

「活動員、ですか?」

「ああ、旅の道中気づいたことがあったら教えて欲しい。そのためには定期的に私達と連絡を取り合ってもらわなければいけない。そのための通信機能で……アイテム保管はオーフィリアには必須アイテムだろう? 何か珍しい物あったら送ってくれという下心は……少ししかない!」

 

 それは、何というか……。

 

「心配、してくれているんですね」

「オーフィリア、君は強い。けれどまだ成人したばかりの、私から見れば幼い子どもなんだよ」

「おじさま……」

「だからオーフィリア。いつでもまた王都に帰って来なさい。公爵令嬢なんて地位が無くなっても君は私の親友の娘なのだから」

「……っ」

 

 活動員なんて役職はただのオマケじゃないか。

 さしずめこのネックレスは旅立ちの贈り物と言ったところか。


 ――確かに報酬とはちょっと違う。どちらか、といえば投資で間違いではないのだろう。

 

「さぁ、行っておいで。君の人生、好きに生きなさい」

「はい!」

 

 陛下に向けて大きく返事を返すと、よしよしと頭を撫でられた。

 それは昔、お父様が私を褒めてくれた時の行動と同じで、私の居場所はここにもあるのだと胸の辺りがほんのりと温かくなるのを感じた。


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