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3.

 叔父と別れ、自室へと足を運ぶ。

 部屋へと入った後にすぐに後ろを振り返り、ドアノブを三度右に捻る。

 これでロックは完了だ。

 いきなりドアノブを回して入ってくることはないとは思うが、一応、念には念を入れておくに越したことはない。

 

 本棚から一番上の段の右から3番目の本とその左斜め下の本、一番下の段のちょうど真ん中にある本取り出して、ベッドの上へと放り投げる。

 どれもなかなかの重さがある。


 どうやらまだ叔父には気づかれていないようだ。

 

 そして本棚から大股で一歩進んだ場所でしゃがみこんで、床板をはがし、床に埋めて置いたサバイバルナイフとハンドガン、そして数発分の銃弾を回収する。

 叔父に見つからないようにと最小限に済ませたのだが、この場所から当てもなく旅立つにはいささか物足りないように感じる。

 魔法も使えなくはないが、悲しいことに私の体内保有魔力はそれほど多くないため、強化魔法と簡単な攻撃魔法以外は魔石を必要とする。

 

 その魔石なのだが、記憶が正しければそんなに持っていないはず。

 それも調べておくに越したことはないと、ベッドに投げた本のページに合わせてサバイバルナイフで削ぐようにして開封する。

 


 これは本ではない。私が8歳の誕生日を迎えた時にお父様からもらった本状の収納箱である。

 それもただの収納箱ではなく、箱には認識阻害の魔法がかかっているのだ。

 今のように刃物で裂いてしまえば簡単に空いてしまうのがたまにキズだが、何度でも繰り返し使えるのは便利で、重宝している。

 


 3冊分の本から出てきたのは金貨50枚に魔石が20個と案外少ない。

 箱自体がさほど大きくないため、仕方ないといえば仕方ないのだが、これから旅をするなり冒険者として生きていくなり、平民として生活していくに当たって、これで生計を立てられるか心配になってくる。

 

 ……のでザガン王子には悪いが、諸々の処理代として殆どの物を明け渡す予定を少し変更していくつかの貴金属は換金させてもらうことにしよう。

 早速鏡台を漁り、良いものはないかと探しているのだがこれが悲しいことに換金率の高そうな物は見つからない。

 だからといって叔父が所有している、もしくは使用人が管理している貴金属は彼らの目を盗んで売りに出すなんてことは出来ないので、自動的に売るなら私の部屋に置かれているものになる。

 

 何かないかな〜と部屋を見回し、そしてはたと気付く。

 

「あ、そういえばユニコーンの角って高く売れるんじゃなかったかしら?」

 

 ユニコーンの角は幼少期にザガン王子の誕生日プレゼントとして渡そうと思って、三日三晩ユニコーンを追い回してもぎ取った品である。

 

 遭遇率が低いことで最高ランクのSランクを与えられているユニコーンではあるが、目には自信がある私が見つけるのは案外楽だった。

 そこまでは楽だったのだが、ユニコーンと来たらさすがは馬なだけあって、逃げ足の早いこと早いこと。

 初めはただちょっと切らせてくれれば良いと思っていたのだが、最終的に戦いの末、ユニコーンは自ら勝者である私にその頭を差し出して来た。

 この角はそんな彼の勇姿に答えるべく素手で掴んで根元から思い切りポッキリと折らせてもらった思い出の品である。

 

 そんな苦労の末、手に入れた品はザガン王子には「ユニコーンの恨みを買いそう」という理由でもらってはもらえなかった。

 

 そのためザガン王子には代わりにハリアガラ鉱山で採掘したハリアガラ鉱石をプレゼントした。

 ユニコーンと共に走り抜けた近くの山で採掘した不格好の石をあげただけなのに、なぜかユニコーンの角を差し出した時よりも目が輝いていたのは今でも忘れない。


 その後、ザガン王子は生粋の石マニアなのだと知るまでは実はユニコーンって逃げ足が速いだけでそこらへんにうじゃうじゃいる、レアリティの低いモンスターなんじゃないかと思ったくらいだ。

 

 そんなユニコーンの角だがあれから長い間、私の部屋に飾ってある。

 真珠のような光沢を持った白い角はあの頃のままで、おそらくは言い伝えの通り私に幸運を運び続けてくれているのだろう。

 

「よし、後で売るか!」

 

 ――が、大事なのは幸運より目先の金である。


 欲しくなったらまた戦いを挑むなりなんなりすれば良い話である。

 私もあれから大人になって成長した。

 今なら3日も経たずに勝てる自信はある。

 

 

 これがいくらになるか、予想はつかないがいざとなったら魔石も売ってしまえばいいし、銃弾の補充は後回しにして、ナイフと拳でひたすらモンスターを狩りまくればいいだけだ。

 

 ――となると、やはり初めは冒険者としてギルドに登録するべきか。

 

 ずっと叔父の罪を明るみにして、その罪を償わせたいという目標はあった。

  そして公爵令嬢なんてレッテルを剥がして、好きなように生きてみたいという憧れもあった。

 

 けれど爵位を失くしたその後にやってみたい具体的なことというのは実際なく、平民への憧れという漠然としたものだった。

 

 だから私は自分の進みたい道というのがよくわからないでいる。

 


 だが進みたい道なんてそんなもの、進みながら考えればいい。

 今考えたところで途中で変わるかもしれないのだ。

 

 ならケースバイケースでやりたいことをしていくのが一番!

 


 私が一番憧れるのは自由だ。

 自由に好きなことをして生きたい。


 

 ほんの少しでも悩んだ自分が馬鹿馬鹿しく思えた私は中身を確認し終えた本型の収納箱を本棚に戻し、武器を床下へと入れた。

 

「ふぁ……ふぅ」

 悩み事も吹き飛んだ私に舞い込んで来た睡魔に抗うことなく身を委ねることにした。


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