11.
私のお腹を尊重して、食事をとりながら三人はビルドウルフについて話してくれた。
どうやら私が倒した4匹のビルドウルフは『ゲート』というものを通してあの森にやってきてしまったらしい。
この『ゲート』というのは詳しい仕組みが解明されてはいないものの、魔物の移動を可能にしてしまう厄介ものとして広く知られているようだ。
学園では習った記憶がなかったのだけど、これは最近できたのかしら?
今回のように村の近くなんかに発生した場合、村人が対処できれば自分たちで解決をし、できなければギルドに依頼を出すという形式をとるらしい。
今回出現したビルドウルフはA級に分類されている魔物で、それを倒すにはB級以上のパーティに依頼せねばならず、それにはそこそこのお高い依頼料が必要らしい。
だがこの村はそう大金は出せず、長い間掲載されている依頼書を見た、元頭領の兄の方が村へと帰ってくることになったそうだ。
この話から察するに『ゲート』っていうのは自然災害の一種のようなものよね。
税収がしっかりとある町や村、傭兵が常駐していたり、ギルドがある地域だったら早期討伐は可能だけど、こういう村は困るわよね……。
今回は冒険者の身内がいたからどうにかなった訳だけど、そうでなければさっきみたいに村人を一カ所に集めてやり過ごすしかないだろう。
そうだ、こういう時こそ報告よね!
すでに空になったお皿をごちそうさまという言葉とともに奥さんに渡す。
そして三人に「ちょっと席を外すわ!」と宣言してから、家から少し離れた森の中へとズンズンと足を進めていった。
もちろんあの三人のことを信用していないわけではない。私の勘があの人たちを含めた村の人々を『いい人』だと判断している。
かといって、あの場で国王陛下や王子に連絡がとれるかといえばその答えはノーである。
そんなことをすれば彼らは萎縮してしまうだろうし、別に私は権力をひけらかしたいわけではないのだ。
提案や相談をして何かが変わればいいとは思うが、その際には陛下や王子に感謝をしてくれればそれでいい。
ではこの村を去った後で連絡をすればいいんじゃないかと自分でも思うが、善は急げとよく言うじゃない?
こういうのは思い立った時に行動するのが一番なのである。
周りに家が見えないことを確認してから適当な石に腰を下ろす。
そしてネックレスを手で包み込み、『通信』と念じる。
するとしばらくしてから「オーフィリアか!」と数日ぶりのザガン王子の声が手元から聞こえてきた。
「数日ぶりね、ザガン王子」
「意外と早かったな。後数日は連絡がないと思っていたが……。それで? オーフィリア、君はいったい何をしたんだ?」
「……なんか私が悪いことでもしたみたいな聞き方じゃない?」
むうと怒ったように頬を膨らませてみる。
するとまるで見えていたかのように、ザガン王子はハハハという笑い声が聞こえてきた。
「それは悪かった。別に何か悪いことをしたとは少しも思っていないさ。ただ君が理由もなく大人しくしているとも思わないだけだ。……それで、どうしたんだ?」
「別に何かがあったとかではなくて、相談なんだけどいい?」
「ああ、かまわない」
「実は昨日今日と王都から少し離れた村の知り合いの家でお世話になっているんだけど……そこで『ゲート』と魔物の関係性について教えてもらったの」
「ああ『ゲート』か。それなら結構な頻度でギルド長達との会議にあがっているな……。それがどうかしたか?」
「現状としてゲートから発現した魔物は自分たちでどうにかすることになっているじゃない? そこから出てくる魔物がどうにか対処できればいいけれど、魔物が強すぎたり、ギルドに依頼するだけのお金を持っていない村は困っているみたいなのよ」
「なるほどな。確かに大きな都市ならまだしも村などの小規模な固まりだと、高ランクの魔物の討伐依頼報酬を捻出するのは苦しいというわけか……」
「だから高ランク魔物が発現した際には災害認定して保証金を出すか、討伐報酬を国で出すかなにかあげて欲しいのよ」
「過去何件か、ゲートによる甚大な被害報告はあったからその方法はいいアイディアではあるが……そうなると新たな資金の捻出が必要になってくるな。どうにかしてみせるが時間がかかりそうだ……」
どうするか考えてうーんと唸るこの様子からしてザガン王子はこの話に乗り気らしい。
ギルド長達との会議に乗り、この新たな法や規定ラインが作られる日もそう遠くはないだろう。
――とここまでザガン王子が頑張ってくれようとしているのだ。
相談だの、提案だのして自分の役目は、はい終了なんてことをするつもりはハナからない。
もちろん私だってできることはあるのだ。
……直接的な支援ではなく進言だけど。
「法の制定や規定ラインの話合いは国の上層部やギルド長会議、魔法協会との話合いによって決めてもらうのが一番だと思うけど……資金源ならいい案があるわ」
「本当か!?」
「ええ。フラッドマンが所有していた鉱山か発掘した鉱石の売り上げを充てたらどうかしら? あそこは採掘量も多いし、純度も高いから売り上げには自信があるわ」
我ながらなんて良いアイディアなんだ胸を張ると、ザガン王子が漏らしただろう小さなため息が聞こえてくる。
「……あれはまだ君の所有物だ」
「そうなの? なら国に譲渡するわ。その代わり今働いている人たちはそのまま雇用してちょうだい。私は彼ら以上にあの鉱山を知り尽くしている人を知らないわ。それに単純に腕利きが揃ってるエキスパート集団よ」
「それでも……そんな大金受け取れない」
「なら一時的に貸すから後で返してちょうだい。諸々の面倒臭いことはそっちで処理してもらうことになると思うから利子とかそういうのは気にしないでちょうだい」
あの鉱山が私の持ち物だったすると、今は当事者がいない状態になってしまう。
あそこには家族を抱えた鉱夫が何人もいるのだ。
叔父が捕まり、残された私が旅に出ているからなんて理由でお給料の支払いが止まるなんてことがあってはならないのだ。
私がいないならいないでスチュアート辺りがどうにかしてくれそうな気もするが、あの子はなんでも背負ってしまう質である。
あの鉱山は採掘量、売り上げともに多く、フラッドマン家の中でも指折りの税金処理の面倒臭さを誇っている。
ならいっそザガン王子に託しておけば安心である。
「そうか、なんとも君らしい……ありがたく使わせてもらおう」