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信号無視の哲学

作者: アオリイカ

「ジリリリリ!」

けたたましいアラームの音で今日も目覚める。平日だから、仕事があるから、仕方ない。就職してからはや一年たつがどうにも慣れない。学生の頃は一限がなければ朝早くに起きる必要もなかったし、一限があっても休めばいいのでほとんど早起きなんてしなくて済んだ。朝早く起きるのも大変だし、それに加えてこれから満員電車に乗ると思うと憂鬱な気にしかならない。おまけに仕事だ。いや仕事が本命で早起きや満員電車のほうがおまけなんだが、一日中、最低8時間の仕事。残業となれば地獄も良いところだ。これから始まる憂鬱な日を思うと平日の朝はつらい。

朝からこんなこと考えていたら、会社行きたくなくなって、仮病を使うか悩みだしてしまう。頭のスイッチを落として、何も考えずに、服を着替え、朝食を食べて、カバンをとって家を出る。考えだしたら気が滅入るので、考えてはいけない。考えず、ただ歯車のようにクロックをそろえて回るだけ。そのほうがいい。

そうして家を出て、駅まで向かう。いつもの風景。いつも通りの道だ。今日もほら、あの交差点で左折して、二つ信号を超えたらもう駅だ。十分もかからない道。交通量の少ない住宅街の道。左折したところで信号は点滅していた。横断歩道にたどり着く頃には信号は赤に変わっていた。

「まぁ、いいか」

そう思って、左右を見渡し、少し駆け足で横断歩道を渡る。車も来てないし大丈夫だろうと思った。その時

「ピー! そこの人! 危ないでしょ!」

警官が見ていたらしい。これから仕事なのに参った。しかし警官に見つかった以上仕方ない。おおかた点数稼ぎだろう。面倒だが適当に従ってさっさと解放してもらおう。とりあえず信号を渡ったところで立ち止まって警官が来るのを待つ。信号の影から警官が出てきた。そんな所にいたのか。ちょっとわかりにくいけど、注意深く見れば見つけられただろうに。今度から気を付けよう。そんな風に少しずれた反省をしながら警官を待っていると、警官は手前の男の前で足を止めて、そのまま男を注意し始めた。

「ダメでしょ! 全く! いい年して信号無視なんて!」

どうやら信号無視をしたのは、二人いたようだ。幸か不幸か見つかってなかったのか、お咎めなしのようだ。自意識過剰気味で少々恥ずかしく思いつつ、幸か不幸か見つかってしまった見知らぬ男に感謝と憐憫を覚えつつ立ち去ろうとした。その時

「私は信号無視なんてしていない!」

男はどうやら警官に反論するらしい。飛び火してくると困るので、少し速足になったところで男は反論を始めた。

「私は信号無視なんてしていない」

「赤なのに渡りましたよね」

「もちろん赤であることを確認してから渡った」

「なら信号無視じゃないですか」

「いや信号を無視してなんていない。そもそも無視するとはあるものをないかのように扱うことだ。私は赤信号を確認し、左右を見て車が来てないことを確認した。この時点で赤信号をきちんとあるものとして扱い、車に注意した。無視なんてしていないのは明らかだ。」

 可哀そうに。憐憫を覚えるべき相手はこの警官のほうだったか。面倒な奴を捕まえてしまったようだ。少し先のほうにいた冴えないサラリーマンを捕まえれば、楽に点数も稼げただろうに。まぁ点数稼ぎの罰が当たったとでも思って諦めたまえ。こういう事故は時々起こるものだ。避けようと思ってもどうにもならないものだろう。ただただ可哀そうに。残念な事故だ。

 朝から珍しい事故を見たものだ。せっかく道路交通法を違反してんだ。さっさと会社に行くか。いつもの道を、いつも通りに歩いていく。いつもとは少し違った朝の通勤。


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