1話
――6月下旬
最近衣替えがあり彼――佐伯邦敏は最近クローゼットから出した夏服を着て授業を受けていた。
まだ7月前とはいえ昨夜の雨のせいでじめじめしていて暑く額には汗が滲む。
「……暑い」
邦敏はまわりに聞こえるか聞こえないかぐらいの声でそう呟き持っていたノートでパタパタと扇いだ。
「トッシー トッシー」
「ん?」
ノートで扇いでいると後ろから聞きなれた声がし背中を軽く叩かれたので後ろを振り返ると、中学からの親友赤崎誉が困った顔をしながら邦敏に耳打ちをしてきた。
「杏奈ちゃんがすっごい顔でみてるよ」
「え?」
恐る恐る邦敏は、後ろ斜めの席にいる小学生の頃から幼馴染の早瀬杏奈をチラッとみて今扇いでいるノートが誰の持ち主かを思い出す。
それは数日風邪を引き学園を休んでいた邦敏の為に杏奈が貸したノートである。
思い出したのと同じぐらいに杏奈がニコッと笑顔を浮かべながら口パクで
“それ私のだけど”
と首を傾げながら邦敏の持っているノートを指で指し言った。
笑顔とは裏腹に怒っているオーラが見え邦敏はとっさに手を顔までもっていきごめん、とジェスチャーをし謝った。
杏奈はそんな邦敏に少し呆れながら邦敏に聞こえるぐらいの溜息を一つつき授業に集中し始めた。
邦敏は後でちゃんと謝ろうと思い、杏奈から借りたノートを写し始め邦敏も授業に集中した。
――キーンコーンカーンコーン……
授業の終わるチャイムが鳴り響きノートとお友達状態だった邦敏は大きく伸びをして立ち上がり杏奈のいる席に向かった。
「杏奈、ノートありがとな あとうちわ代わりに使ってホントすまんかった……!」
この通り、と両手を合わせて必死に謝る邦敏をみてクスッと笑う杏奈。
「いいよいいよ、あの後ちゃんと写してたみたいだし……ふふっ……」
小柄な肩をプルプル震わせながら笑う杏奈を見て邦敏は肩をなでおろす。
「ふぅ、笑い疲れちゃった…… あ、としくん今日私部活あって一緒に帰れないから早めに寮に戻っていいよ」
笑いすぎたのだろう目に涙を浮かべそれを拭いながら申し訳なさそうに邦敏を見る。
「わかった。 そういえばもうすぐ大会だったな、誉と一緒にまた行くよ」
「ありがとう! じゃあ私は今から部活のミーティングがあるから行くね」
「頑張れよ」
「うん!」
笑顔で頷き弁当箱を片手に、手を振りながら教室をでる杏奈を眺めてから昼食の約束をしていた誉がいる食堂に向かった。