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惑星ナガツキ

平岡俊ひらおかしゅんは夢見る受験生!

 俊は千絵にもらったお札をおでこに貼って寝たのだが、いつものように夢の中でマニと話をしていた。

マニは自分が住んでいる星を惑星ナガツキだと教えてくれ、一つの提案をする。

 惑星ナガツキ


『だからその魔除けのお札ってのをおでこに貼って寝てるのね』

「そうなんだけど……マニは悪霊でも幽霊でもないもんなあ」

 おでこにセロテープで貼ったお札が剝がれていなければの話だが……。


 今日はそのおでこに貼ったお札が気になって眠りに入るのが遅れてしまった。もうマニは風呂を上がり、リビングのような広い空間の中で座っていた。

 もっと未来の世界を想像していたのだが、部屋の中はいたってシンプルで、そのくせ学校の教室くらいの広さがある。

 正方形なんだと思う。正方形を組み合わせて建物を作る文化なのかもしれない。その中にぽつんとマニが座っている。

 目の前には四角い手鏡が置いてあり、マニの顔が見える角度に調整されている。

 僕と……僕にマニと話している感じが伝わるようにしてくれている。


 風呂上りのマニはヒラヒラとした締め付けのない羽衣のようなものを身にまとっていた……。

 ところどころ透けているようで、何だか……見ていられない!

『悪霊とか、お札とかって私の星にはない文化ね。俊の星って面白いわ』

「いや、僕も信じてないんだけどさ。千絵って友達がどうしてもって頼むから仕方なくてさあ」

 博也と千絵のことはマニにもよく話していた。

『でも本当の私は悪霊かもよ~。うらめしや~。受験に落ちるのだ~』


 ――マジで笑えないって!


 ――これで受験に失敗したら……本気で悪霊と決めつけてやる。天女なんかじゃなかったと!


『……だからって本当に貼って寝てるところが馬鹿馬鹿しくて笑えるわ』

「仕方ないだろ。地球の女子の気持ちって意外と繊細なんだぜ」

 博也が言ってた受け売りだけどな。

『ふーん、そうなんだ。それと、俊の星って地球って呼んでるのね』

 あれ、言ってなかったっけ?

『うん。聞いてなかった。一度もそれっぽいことを俊も想像しなかった』

「じゃあマニの星って――何て呼んでるんだ」


『私の星の名は、

 ――惑星ナガツキ』


 惑星――ナガツキ? 日本語っぽい名前だ。

『私のテレパシーが俊にはそう聞こえるのよ。私が声を出して話したら、言葉なんて通じないわ』

 前にもマニはそんなことを言っていたのを思い出していた。   

 惑星ナガツキにも地球と同じ時間で昼と夜があり、窓の外は地球の夜と同じで暗かった。

『あーあ、私も俊の顔が見てみたいなあ~。そっちからしか見えないなんて不公平だわ』

 こればっかりはどうにもならない。僕が起きていてマニが眠っていても何も見えないらしいのだ。

 マニも部屋の外の様子などは見なかった。

「……その……マニの星の女の子ってさあ、みんなマニみたいに……可愛いのか?」

『え? 私みたいに……何て言ったの? 良く聞こえなかったんだけど』

 えー……また言うのか?

「いや、だから、マニみたいにみんな可愛いのかって……」

『うーん、もう一回言ってみて』

 こちらからは鏡に映るマニの顔は奇麗に見えている。通じているはずだ。

「だから……マニみたいに……」

『うんうん。マニみたいに?』


 ――やられた!


 良く聞こえているじゃないか!

 マニはただ可愛いって言わせたいだけなんだ――。


「もう言わない!」

 夢を見ながら、なんで顔を赤く染めないといけないんだ! ああ恥ずかしい!

『見ず知らずの女性に可愛いって言うなんて、地球の男って大胆ね』

「見ず知らずなんかじゃないだろ!」

 それより――惑星ナガツキの女性の方がよっぽど大胆だ。

 その見ず知らずの男に裸見られても平気なんだから――。

『――俊だけよ。私が裸を見せた男って』

 か~、

 ――心臓が高鳴ってしまう。

『もし親が生きていてそんなことを知ったら……ぶん殴られているわ。千絵って友達と同じようにね』

 マニの星でも男親は娘を大事にしているのが分かる。


 ……?


「マニの親って、もういないの?」

『うん。両親と弟を事故で亡くして、今は私一人なの』

「――! あっ、ごめん……じゃあ一人で寂しいんだよね」

『ううん。寂しくなんかないわ』


 広い正方形の部屋にぽつんと一人座るマニが……急に愛しくなった……。


 うちのキッチンには洗っていない食器が散乱し、洗濯かごには山ができ、母がいつも文句を言いながら片付けている。

 親父は朝起きたらもう出勤しているし、塾から帰ったらもう寝ていて顔も合わさない。毎朝、洗面台にヒゲを剃ったあとの細かいカスが散らばっていて……、母がいつも文句を言いながら片付けている。 

 いつもの見慣れた風景……それこそが暖かい家庭なのかもしれない。


 一人ぼっちで僕と話してくれるマニ。

 寂しくないって言うけれど、寂しくないわけがない――。


 できるだけ夢の中に来て、話したいと思った。

『俊って優しいのね。じゃあさ、今度はお昼に寝ることってできない? 一緒に街に出ようよ』

「お昼?」

 受験生が昼寝なんてできるわけが……!

「できる! 大晦日と三が日は塾も休みだし、正月は昼と夜が逆転してても親に怪しまれない――!」

 徹夜してたから昼に寝ると言ったら絶対に怪しまれない。起こされない!

  

 マニの星ナガツキを一緒に見て回れる――デートができるんだ!


『じゃあ楽しみにしていてね』

「ああ、まって、もっと話そうよ」

『駄目よ。ちゃんと眠って。おやすみ』

 右目の辺りをマニが触るのは……義眼の電源を切っているのかもしれない。

 僕の睡眠時間を考えてくれて……。

 おやすみ……。


 僕が眠りについたあと……マニはたった一人であの広い四角い部屋にいるんだと思うと……。

 まだまだ話していたかった……。


 起きた時、お札はほっぺに貼りついていた――。


 そのまま起きてしまい、母にため息をつかれて――ようやく気がついたのだった。



 お札を貼って寝たら、女の子の夢を見なくなったと言ったら二人とも本当に信じてしまった。

 単純な友達で助かる!

「本当に御利益あるのね。私も貼って寝てみようかしら?」

「やめといた方がいいんじゃね? 逆に千絵の場合は勉強を教えてくれる霊みたいなのが憑いていて、それがどっかいったら今より成績下がるかもしれないだろ」

「守護霊ね! そうだわ! 私、たまに解らない問題が正解するときあるもん!」

 四択の問題であれば……守護霊がいなくてもたまに正解するだろうとは言わない。

 寝不足が解消したわけではないのだが、二人が安心してくれて……僕も一安心だ。


 12月30日。今年も残すところあと1日。塾の帰りに博也と別れた。

「じゃあ、また来年な」

「おう。良い年を!」


 博也はまたコンビニへと向かって行った。


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